第39話 兄弟
現在、部屋には私たちしかいない。
カルティエ様を警戒した騎士たちは部屋に残ろうとしたが、「弟を信じてほしい」とプレン様が言ったことによって部屋の外に待機することになった。
「ルーシェ! 無事でよかったぞ!」
「置いていくことになってしまって本当に申し訳ない! 無事でよかったぜ……」
騎士たちが部屋を出た直後、ヴィアちゃんは私に抱きつき、アウラさんは捨てられた子犬のような顔をしている。
「ヴィアちゃんたちこそ無事でよかった。アウラさんがすぐに判断してくれたおかげで皆がここまで辿り着けたのだから、謝らないで」
2人が「ありがとう」と言う後ろで1人の精霊が仁王立ちしていた。
「……」
「あら? ロキ様ったらあんなに心配していたのに無表情ですね?」
「アウラくんが思うにロキはどう言えばいいのか分からないんだろうね」
「ひ、久しぶりー」と近づいてみる。
「……思っていたより元気そうだな。少し丸くなったか?」
「え、嘘!? てかデリカシーないの!? ………お城のご飯美味しかったから食べ過ぎちゃったかな」
ロキは私の頬を両手で覆った。アテナ様がヴィアちゃんの両目を塞ぐ。
「おい! 我を子供扱いするな!」
ぶにゅっと私の頬を押してきた。きっと今の私は蛸のようになっていることだろう。
「そんなに私丸いの!?」
「無事でよかった」
「……ごめん」
ロキは優しく手を離した。彼なりの確認だったようだ。
カルティエ様たちにも優しくしてもらっていたが、ロキたちと再会したことによって少し体から力が抜ける。
「カルティエ。まずは君から話してもらおうか」
「……さっき見たとおりだ。私の恋人の仇を討つために人質のルーシェを利用してここへ来た」
この期に及んで私を人質扱いとは。私が罪人扱いされないようにと考えたのだろう。
何も言うなとカルティエ様は目線で私が話すのを止めた。
「ルシエルを殺害した犯人と指示をした大臣についてだが、後のことはこの国の法に則って裁くことを約束しよう」
「自分が皇帝になる前提だな……冗談だ、そんな顔をするな兄上。城でロンを捕らえた日から地位は諦めていた」
カルティエ様はもう皇帝になることを諦めている。プレン様ならルシエル様のように権力者の欲に殺される人間を生み出さないように動いてくれるだろう。
きっとカルティエ様もそう信じているはずだ。
「私のことは牢に入れるなり処刑にするなり好きにすればいい。だが部下たちのことは捕らえないでほしい」
「……君の部下たちが手を貸していたことは覆せない。だから」
「プレン様。どうか慈悲を。私たちは何も危害を加えられていません」
アテナ様がプレン様の発言を止めた。彼女は
「部下たちを赦してほしい」と思っているようだ。
「ルーシェ、君はどう思っている?」
「城にいる間、彼らは私に優しく接してくれました。私の思いはアテナ様と同じです」
「お前ら……」
カルティエ様は私だけでなくアテナ様までが庇ったことに驚いているようだ。
プレン様は根負けしたのか「君たちの意に添えるよう善処しよう」と言ってくれた。
「カルティエ。君には一旦牢に入ってもらう」
「あぁ。正しく私を裁いてくれ」
止められないのか。この後は小説と同じように彼は処刑されるのか。
「待っ」
「ルーシェ。迷惑をかけたな」
寂しそうに笑いながら言った彼は部屋の外に待機していた騎士たちに連れていかれた。
部屋が静寂に包まれる。
「ルーシェちゃん。君から見たカルティエについて教えてくれないか」
プレン様は泣きそうな顔をしながら私に言った。
そうだ。彼らは兄弟。家族なのだ。ここは物語の中ではなく、彼らは現実に生きていて、プレン様は心を痛めている。
「私から見たカルティエ様は……」
すべてを話した。
私にルシエルと名乗るように言ってきたこと。
城の中も庭も自由に歩いていいと言ったこと。
恐らく逃げても見逃すつもりでいたこと。
徹夜でボロボロになりながら2人で犯人候補の資料を読んだこと。
そして、ロンを捕らえた夜、苦悩していたこともだ。
「とても優しく部下たちに慕われている方です。噂されている冷酷な方ではありませんでした」
「彼が皇帝の地位を欲したのはルシエル様のような方を増やさないため。このように対立関係となってしまったのは、狙っていたことではなく、その純粋な思いから動いた"結果"なのです」
全員が黙り込んでしまった。これ以上は何も言わずにプレン様を見て言葉を待つ。
「本来であれば私への反逆罪として処刑されてもおかしくはないが……一定期間、牢に幽閉にしようかと思う」
「本当ですか!?」
「ルシエルのことについては『シャガ』のリーダーから聞くまで、私は何も知らなかった。兄失格だ」
「だからといって国を混乱させたことに対する罰を与えないわけにはいかない。そしてカルティエが静かに休める時間を与えることが私にできる精一杯のことだ」
幽閉という名の罰を与える。そしてゆっくり休む時間を送ってもらう。
その言葉を聞いて安堵した。
罰を与えられることは避けられないと思っていたが、処刑という最悪の展開は避けられた。
幽閉先はソレイユ城。部下たちもそこで暮らすことになる。誰も寄りつかない森の中にある城は幽閉先としてはピッタリだろう。
「プレン様、ありがとうございます!!」
「お礼を言うべきは私の方だ。弟を助けてくれて本当にありがとう」
続いてアテナ様も「ありがとう」と言った。
誰かに感謝されることに慣れていないけれど。
心からよかったと思えた。
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