第7話 友達できました
恐らくクレアはノーブル王子に恋をしているが、王子は私に求婚した状態だ。客観的に見ると三角関係とも言えるだろう。
私は2人と距離をとらなければならない。
すべては生き残るために。
今度こそ王子からの求婚を断ろう。
1日の休みを挟んだ後、改めて決意を固めた私は、昼休みにノーブル王子を中庭に呼び出した。
ロキはというと楽しそうに中庭の一番大きな木の上に隠れている。
ノーブル王子がやってきた。
「今度は僕が遅れてしまったな。すまない」
「いえ、私もついさっき来たばかりです」
さぁっと風が吹いた。冷たい秋の風だが、おかげで頭は冴えていく。
「申し訳ありませんが、婚約についてはお断りさせていただきます」
「ノーブル王子が義務としての求婚をする必要はないと、私は思います」
ノーブル王子は驚いていた。
今まで誰にも
「鍵が見えた相手に求婚をしなくても良い」と言われたことがなかったのだろう。
「鍵が見えたからではなく、あなたが一緒に幸せになりたいと思った方と結婚してください」
つい先ほどまでは驚きで固まっていた王子だったが、今は解放されたような晴れやかな顔をしている。
「……そうか。君のおかげで目が覚めたよ。僕は色々と考えすぎていたな。好意のない状態にも関わらず求婚したというのは君への非礼だ。本当に申し訳ない。そして君を混乱させたことを謝罪させてくれ」
「どうかお気になさらないでください」
噂を収束させるためにも私たちは距離を取った方がいいと思う。
と言いかけた時、王子は私に頭を下げた。
「え!? ちょっ、顔をあげてください!」
真上から木葉が勢いよく揺れる音がした。
恐らく木の上のロキが、私の慌てる姿を見て笑いを堪えているか、本気で驚いているかの2択だろう。違う意味でヒヤヒヤしてきた。
「頼む。僕と友人になってくれないか」
「へ?」
ユウジン?友?フレンド?
そのためにノーブル王子は頭を下げたの?この人、本当に真面目なんだから。
「ふふっ、顔をあげてください。ノーブル王子、友人に頭を下げるものではありませんよ」
ノーブル王子はゆっくりと顔を上げた。
立場上、彼は今まで心の底から友と呼べる存在がいなかったのだろう。友達のつくりかたも知らないのだ。
「こういうときは握手をするものだと思いますよ」
「こうか?」
彼は私が差し出した手を優しく握った。
「どうか僕のことは『王子』ではなく『ノーブル』と呼んでくれ」
「はい!」
午後の授業は落ち着いた気持ちで受けられた。ノーブル王子はいつも通り真剣に、ロキもいつも通り爆睡であった。
今日から穏やかで平和な日常が始まる……! はず。
下校時間になった。とても疲れたのでどこにも寄らずに帰ろうとしていたが、
「クレアっていうやつがお前を呼んでいるぞ」
とロキに声をかけられたことによって放課後のプランは変更を余儀なくされた。
廊下の方を見ると、クレアが緊張した面持ちでこちらを見ている。
「突然呼び出してしまい申し訳ありません。改めてお礼を伝えたくて……」
「いえ、人として当然のことをしたまでですから」
放課後。中庭のベンチに2人で腰掛けて私とクレアは話していた。
どうやらこの前のお礼を伝えたかったようだ。律儀だなぁ。
しかし昼はノーブル王子から呼び出しで、放課後はクレアからの呼び出しとは。
今日の私のスケジュールは、中々にハードではないか?
「……1つ、お訊きしたいことがあります」
「なんでしょうか?」
そう言ったもものの、何を訊かれるかの予想はできている。
答えも決まっている。
「ネヴァー様はその……エルフィン様と……」
「婚約していませんよ。する予定もありません」
クレアはすごく嬉しそうな顔をしている。彼女を笑顔にできて私も嬉しい。
いや違う絆されるな私!
求婚を断ることができたとしてもクレアと仲良くなってしまうのは良くない!
いやでも王子と友達になってしまったから、距離を置こうとしても手遅れなのか? 選択間違えたかな?
「ネヴァー様、私とお友達になっていただけないでしょうか?」
出そうになった声をなんとか止める。
1日に2回も「友達になってほしい」と言われることなんてあるものなのか。
こんなにはっきりと言われるとNOとは言えない。
プラン変更。『こうなれば周囲に不仲だと勘違いされないレベルまで仲良くなったろう!』作戦だ。ちなみに今名付けた。
「はい、改めてよろしくお願いします」
「ありがとうございます!」
この日以来、私はノーブルとクレア、そしてロキと一緒に行動するようになった。
このまま仲良くなったら、家が没落して私が死亡する未来は消えるかしら。
消えるといいなぁ。まだ死にたくないなぁ。
本当の波乱はこれから始まる。
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