第5話 出会ってしまった 前

 目の前にいるロキは、私たちと同じ制服を着ている。つまり生徒としてこの教室にいるということだ。


「どうしてここにいるのですか!?」

「今日から生徒として通うことにした」


 ここの会話だけを切り取ると、少女漫画のワンシーンとも受け取れる。

違う、これは命懸けの学園生活である。


 周囲に聞かれないように小声で会話を続ける。


「その……どこで制服を手に入れたの」

「これか? 学園長にもらった。知り合いだったからな」


 彼の交遊関係が気になるが、そこは置いておこう。


 入学式でも姿を現さず、1度も目撃されていない学園長が心配になってきた。

国王にバレたら大変なことになるのでは。精霊の気まぐれに巻き込まれたということで許されそうな気もするが……

いや、ダメかも……


「これからお前がどうなるのか見届けようと思ってな」 

「えぇ……」


 ニヤニヤしている。観戦感覚とは……


「おや? 君は」


 ノーブル王子だ! 朝から会うには眩しすぎるぜ!

ロキを見て「誰??」という顔をしている。

大丈夫、その反応は正解だ。


「俺はロキ・ファタール。入学式当日から体調が悪くて登校できていなかったんだ。今日からよろしくな」

「あぁ、よろしく頼む。ところでルーシェとロキは知り合いなのか?」


 ノーブル王子が訝しげに見つめてくる。初対面にしてはガッツリと話し込んでいたのを見られたからだろう。


「実は昨日、偶然会ったんです。同じクラスだと知って意気投合しちゃって……」

「そう、お悩み相談会もしたんだ」

「そうか。僕も2人とたくさん話せたら嬉しい」


 王子は私とロキの関係を確認できて満足したのか、自分の席に戻っていった。

バレる可能性は低いと分かってはいたが、ロキの正体に王子が気がつくことはなかったようなので、そっと胸を撫で下ろした。


 昼休み。生徒の昼食は食堂で好きなものを注文して食べるという形式だ。

 私は王子関係で絡んでくる人々から逃げられるようにと、手軽に食べられるサンドイッチを毎回頼む。


 しかし、今日は違う。


 ロキといるとあまり話しかけられなかった。何故かは分からないがすごく助かっている。

 相談に乗ってくれたお礼に昼食を奢ると言ったら、嬉々として私についてきた。


 ずっと気になっていたパスタと唐揚げをゆっくり食べられる!

組み合わせが不思議だというのは承知の上だ。迷ったら両方食べればいいじゃない。


 ちなみにロキは高級牛100%ハンバーグランチセットにしていた。

人の奢りだからって一番高いものを選んだな。 まあ昨日のお礼だからいいですけど……


「うまい。やっぱりハンバーグというものはいいな」


 1口食べるなりロキは幸せそうな顔をする。やばい。こういう純粋な喜び顔に弱いんだ私は。やめてくれ、毎日奢りたくなるだろ。


「そうでしょうそうでしょう! ここの料理は超一流のシェフが作っているのだから!」

「なんでお前がドヤ顔なんだ」


……なんだか視線を感じる。しかし私ではなくロキにだ。


 小説における精霊は、イケメンか美少女かモフモフなのはもはや酸素の存在と同じくらい当たり前……だと私は勝手に思っているが、改めて見るとロキはイケメンである。


 ノーブル王子と話すときは顔の良さと性格の良さに圧倒されて緊張しまくるが、ロキにはそういうものがない。親しみのあるイケメンだ。本人には言わないでおこう……


 彼は視線に気づいているのかいないのか、黙々とハンバーグを頬張っている。本当に美味しいものを食べると無言になるときってあるよね。


 目の前の精霊を観察していたら、彼のフォークが私の皿にある唐揚げに突き刺さったことを見逃しかけてしまった。


「あっ! どうして私の唐揚げをとるのよ!」

「これ、唐揚げというのか。うまい」

「貴重な一個なのに…」


 落ち込んでいる風にするとロキはシュンとした顔をした。


「わ、悪かったよ。昔友人が毒見なしで食事をしたときに、毒を盛られて倒れたことがあったから…」


 もしかして…初代国王のことだろうか。

確かに、大切な人のご飯に毒が盛られていたらトラウマになるよね。


「そうだったのね。でも、この食堂でそんなことは起きないはずだから大丈夫。私も言い過ぎましたし、気に入ったのならもう一個あげます。ミナヅキでは有名な料理で食堂の新メニューなんですよ」

「ルーシェ………ありがとう」


 そう言いながらロキは唐揚げを2個とった。解せぬ。


 皆こちらに視線は送ってくるが話しかけてはこないので、パーティーのときに王子からの求婚を断る日の話をすることにした。


「ロキ、昨日の話の続きなのですが」

「王子からの求婚を断るって話だよな」

「はい。一週間後に学園の広場で行われる『新入生歓迎パーティー』の際に断ろうと思うのです」


 ロキはうげぇという顔をしてきた。疑問があるのは分かるよ。これから説明しなければ。


「普通の授業日でもいいんじゃないか? わざわざパーティーの日にしなくても」

「王子からパーティーの日に返事をしてくれって、ついさっき言われたのよ」


 昼休みが始まってすぐ、王子から「僕自身はまだ待つつもりだったが、父上がそろそろ聞きたいと言っていて……」と申し訳なさそうに言われた。

1ヶ月も保留にしていたので物凄く罪悪感がする。


「お前は王子とパーティーを抜け出すつもりか?」

「……覗くつもりでしょう?」


 ロキは即答で「うん」と頷いた。それだけ私と王子がどうなるか見たいのだろう。遠足前日の子供のような顔をしていた。

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