他人事日記
残機弐号
序
一週間くらい前からアプリを使ってマインドフルネスというのを始めた。マインドフルネスとは、意識を「いま・ここ」にだけ向けようというもので、アプリではそのための瞑想のトレーニングをする。瞑想の内容はだいたいワンパターンで、目を閉じて体をリラックスさせてゆっくり息をする、というだけだ。別に座禅を組んで空中に大ジャンプしたりはしない。関節をありえない角度にねじることも要求されないし、一秒間に十回呼吸せよのような無理難題もない。ただ、今、自分が感じていることに意識を向けるだけだ。それだけのことなのに、気持ちがずいぶん落ち着く。不安が軽減され、孤独感も薄まっている。
オーディオブックで探してみるといくつか関連本が見つかったので聴いてみると、awareness of awarenessという表現が使われていた。「気づきに対する気づき」ということだ。自分が何に対して気づいているのかに気づく。雨の音に気づいているのならそのことに気づく。不安の存在に気づいているのならそのことに気づく。自分から一歩身を引いて、「ああ、こいつはこんなことを感じて生きているのだな」と他人事のように感じるような思考モードだ。
そういえば、自分のことは他人事だと思えば楽になれる、という言葉を聞いたことがある。そういうものなのかもしれない。「マインドフルネス」というと何やら宗教じみた感じがするけれど、たぶん、普通の人もこうしたことは経験知的にわかっているのだと思う。自分のことを他人事だと思うためのトレーニングや生活習慣を総称して「マインドフルネス」と言うのだ、という風に今のところは理解している。
そういう意味で言えば、日記を書くということはまさにマインドフルネスそのものだ。自分をただ観察し、そのまま記述すること。批評はしない。ただ、自分が何をしていたか、何を感じていたかをそのまま書く。
日記なんて人に見せるものではない。ただ、人に見せるからこそ、「他人事」になるということはあると思う。自分で後生大事に抱えてないで、いさぎよく公開してしまうのだ。飽きるまでつづけよう。
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