【怪異ファイル01】ボタルダール森林保護区 その9
「お前……そんな顔したら可愛い顔が大無しだぞ」
「は? ぶっころ」
襲いくるウィルの頭を鷲掴みにして、動きを静止するシモン。
「はっ! 心配してやったのに、何だよその第一声。はー損したぁ!」
「へーへーごめんねぇ、ウィル君」
「なんか腹立つな」
その後からは無言でただひたすら歩いた。
***
「これは……」
魔眼で見るのが辛いと感じるほどの魔力濃度。ここまで行くと瘴気である。黒く澱んだ空気が辺りにこびり付くように漂う。
「さっさと終わらせるぞ、シモン」
「お前が命令すんなって。……ふーわかってらぁ」
シモンは透き通るようなピンクと深いヴァイオレットのバイカラーの魔法石をひと撫ですると煙管を取り出し、ふかし始めた。
ふぅ……と煙を吐く。その煙はその場の黒く澱んだ空気に溶け込んだ。
「……すげ、さっきの重い空気感が嘘みたいになくなった。こんな浄化方法見たことねぇけど、何なんだ?」
ウィルは感心した様子でシモンの手元を見た。その顔は純粋に興味津々といった感じだった。シモンは煙を吐きながらウィルに煙管を見せる。
「これはな、俺の母親の形見なんだわ。何でもお袋の故郷の品みたいでよ、曙の国の郷土品に似てるんだが……まぁいいか。これはなお袋直伝の破邪の香なんだ。曙の国でしか手に入らないものとかもあるからな……結構作るの大変なんだぜ? ちょいとツテがあって手に入れられてるんだが、普通は手に入らんな」
「ほーん……え、何で曙の国? っていう国の物は手に入りにくいんだ?」
ウィルは意外と勉強熱心な性格で、疑問に思うとすぐに質問する。
「あー、お前曙の国知らないんか……あそこはな、五行国とは国交を絶っているんだ。鎖国ってやつだな。唯一交流があるのが黄昏街っていう小さな田舎街だけなんだな……ここの街は独立しているというか、何というか……どこの国にも所属していない街なんだよ。んまぁ、これから学んでいきゃあいいぜ」
「ふーん」
「そろそろだな。浄化が完了する」
話が終わる頃には場所の空気は最初とは一変して澄み渡っていた。
「あの祠……」
しかし、ウィルは祠を注視していた。
「なんかまだあるのか?」
「……なぁ、お前は何になりたかったんだ?」
「? ウィル?」
「いや、何でもねぇ。腹減った! 飯食いたい!」
ウィルは何かを祠に問いかけた。シモンはウィルが何を言っているのか分からなかったので、少し眉を顰めていたが、ウィルの言葉にすぐに笑い出した。
「ははっ! 子供だな! ジョゼに頼んでみるか! フロリアの飯は美味かったぞ」
シモンはウィルの頭をガシガシと撫で散らかした。ウィルはされるがままに撫でられ、後で髪型を指摘されてキレた。
ボタルダール森林保護区には気持ちの良い草の香りがする風が吹き、空は澄んだ水色をしていた。ボタルダール森林保護区の浄化作業が完了したその日、雲1つ無い空から雨が降り注いだ。乾いた地面を潤わすように、汚い物を流すように、シトシトと長い間降り続いた。その雨は誰かの贖罪なのかもしれない。それとも、
***
私はただ、人が好きであった。
私は人と共にあった。
私は良かったのだ、忘れられても、消えてしまっても。
それは人が望んだことだから。
ある日、雨が降らなくなった。それからどれほど経っただろうか。男が少女を連れてきた。少女は目を潰されていて、私の事が分からなかった。
男は生贄のつもりだったのだろう。私は人を食べぬし、雨など降らせぬ。私は仕方がなく少女を傍に置くことにした。
気づけば、少女は美しい女になっていた。そして、私は愛してしまった。人としてでは無く、1人の女として。
幸せだった。ずっと続くだろうと思っていた。
許せない。
許せない。
許さない。
少女が生きていることを知った男は無惨にもあの子の首を切り取り、白い袋に詰めて私の祠の前に置いた。体は近くの一番高い木に吊るされていた。あの子の美しい、穢れのない赤い血が滴り落ちる。
男はまるで当然かのように、祠の前に跪き、祈りの言葉を吐いていた。
私は涙した。怒り狂って、暴れ回った。気が付けば、じめじめとした雨が降っていた。
私はあの子の死体が汚されないように、自分自身に取り込んだ。
あの子が何をしたと言うのか。
お前たちは自分たち可愛さに、富のために、あの子を亡き者にした。
私は富を求める意地汚いお前たちを一生涯許さない。
愛しい私の伴侶、私が仇を取ってあげよう。私が、其方の無念を晴らしてあげよう。ずっと、ずっと一緒にいよう。なぁ、愛しい伴侶。
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後書き
異世界×怪異は良いなぁ……魔法有りって何でも出来るからなぁ。こんなことを思いながら書いている秋丸ようです。
これからもよろしくお願いします〜
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