第17話 アレックと生活する事になりました
「さあ、せっかくミレイも見つかったんだ。よかったらゆっくりして行って欲しい。そうだ、すぐにお茶を入れよう。王都で有名なお菓子もあるよ。ルイーザさん、こちらの席へどうぞ」
すぐにメイドの方たちが、お茶とお菓子を準備してくださった。
「お気持ちは有難いのですが、私はもう帰りますわ。ミレイちゃんの事、どうかよろしくお願いいたします」
ルイーザさんが頭を下げ、そんな事を言ったのだ。
「何をおっしゃっているの?ルイーザさん。私も一緒に帰りますわ。それじゃあアレック、今日あなたに会えてよかったわ。また会いに来てもいいかしら?」
せっかく再会できたのだ。今後もアレックとは交流をしていきたい。
「何を言っているのだい?ミレイはこれからずっと俺と暮らすんだよ。俺の住まいは宮殿のすぐ近くなんだ。既にミレイの部屋も準備してあるし、メイドたちも待機しているよ」
メイドたち?私にメイド?
「私にメイドなんてあり得ないわ。私はずっと平民として生きて来たの。メイドの方にお世話になるだなんて御免だわ。それに私、今ルイーザさんの家のパン屋さんでお世話になっているの。お優しいルイーザさんの家族や、素敵なお客さんに囲まれて毎日楽しく過ごしているのよ。その生活を変えるつもり何て…」
「ルイーザさん、申し訳ないのだが、ミレイは今日でお店を辞めさせていただきます。ご迷惑を掛ける分、ミレイの代わりの人間を早急に手配いたします。それからこれ、ミレイが今までお世話になったお礼です。どうか受け取ってください」
「ちょっとアレック、何を言っているの?私はお店を辞めるつもりは…」
「ミレイは黙っていて!ルイーザさん、お願いします」
「…分かりましたわ。私はミレイちゃんを宮殿に連れて行くと決めた時点で、きっとミレイちゃんとはお別れになるだろうと覚悟しておりましたから。ただ、お金は受け取れません。ミレイちゃんは本当によく働いてくれたので。ミレイちゃん、アレック総裁と再会できてよかったわね。幸せになるのよ」
ルイーザさんが抱きしめてくれた。その瞳からは、涙が溢れている。
「ルイーザさん、私は…」
「今は気持ちが混乱しているかもしれないけれど、これがミレイちゃんの本来あるべき姿なのよ。ただ…またいつでもお店に遊びに来てね。待っているから」
「ありがとうございます、ルイーザさん。ミレイの荷物は、今日にでも引き取りに行きます。ただ、どうかお金は受け取ってください。ミレイの命を守ってくれたお礼です」
「分かりました。それじゃあミレイちゃん、元気でね」
「待って、ルイーザさん。あの日私を助けて下さったうえ、お店に置いて下さりありがとうございました。また必ずお店に伺います」
ルイーザさんに向かって頭を下げた。こんな形でお別れになってしまうだなんて。瞳から涙が溢れ出す。そんな私に、笑顔で手を振って去っていくルイーザさん。
「ミレイはいい人に助けてもらったのだね。さあ、ミレイ。俺たちの家に帰ろう。グディオス、悪いが今日はもう帰っていいかな?」
「ああ、もちろんだ。お前は今までずっと働いて来たのだから、しばらくはゆっくり休んでくれ。仕事は俺がやっておくから。ミレイちゃん、アレックの事、頼んだよ」
「はい。あの…グディオス様とおっしゃいましたね。アレックの事を支えていただき、ありがとうございました」
グディオス様に頭を下げる。
「さあ、ミレイ、行こうか」
スッと差し出されたアレックの手を、ギュッと握った。5年ぶりに握る手は、あの頃とは違い、大きくてゴツゴツしている。
「ミレイの手、相変わらず小さくて柔らかくて温かいね…本当にミレイが俺の元に帰って来てくれたんだな…」
今にも泣きそうな顔でアレックが呟く。そんなアレックを、ギュッと抱きしめた。
「ごめんなさい、アレック。私、随分と心配をかけてしまった様ね。そうだわ、アリおばさんやリマも心配しているだろうから、一度村に帰らないと」
「そうだね、アリおばさんもミレイがいなくなったって聞いてから、毎日俺に連絡を入れていたから、屋敷に着いたら連絡をしてあげよう」
ん?毎日?
「毎日とはどういうこと?アリおばさんは村にいるのよね?」
「村に行った時、万が一ミレイが帰ってきたらすぐに連絡をもらえる様に、通信機を渡してきたんだ。通信機があれば、離れている相手とリアルタイムで会話が出来るんだよ」
「そんな便利な機械があるだなんて…それじゃあ、すぐにでもアリおばさんに連絡をしないとね」
どうやら私は、色々な人に心配をかけてしまった様だ。すぐにでもアリおばさんに連絡を入れないと。
そんな話をしている間に、門の前まで来た。
「ミレイ、どこに行くのだい?この馬車に乗るのだよ」
アレックが指さしているのは、立派な馬車だ。こんな馬車、見た事がない。
「えっ?アレックの家は宮殿の近くなのでしょう?歩いて行かないの?それにこの馬車、まるで貴族が乗る様な馬車ね」
「昔貴族が使っていた馬車を、譲り受けたんだよ。確かに近いけれど、歩くと30分くらいかかるからね。さあ、乗って」
30分程度なら、歩ける距離なのだが…そう思いつつ、馬車に乗り込んだ。
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