第71話 ちょろすぎる心

   ◆奏多side◆



 起き上がった小紅ちゃんが、ぼくの服の裾を摘まんで小声で話しかけてきた。



「ちょ、カナタ、本当にいいの……!?」

「とか言って、小紅ちゃんもノリノリだったじゃん」

「そ、それは……」



 薄暗い部屋の中でもわかるくらい、小紅ちゃんの顔が真っ赤になる。やれやれ、可愛い反応するなぁ、この子は。

 反対側を見ると、麗奈ちゃんと純恋ちゃんは同じ布団で寝ている。純恋さんは寝息を立てて爆睡。麗奈さんは目を閉じて寝ようとしているが、純恋さんのことが気になって眠れないみたいだった。

 あっちはあっちでお楽しみ中(意味深)だから、触れないでおいてあげよう。

 京水を見ると、気持ちよさそうにぐっすり寝ている。今日はずっと遊んでたから、疲れちゃったんだね、わかるよ。

 それに、こういう時の京水はちょっとやそっとじゃ起きないのも、知ってる。

 京水の布団を少しめくり、小紅ちゃんを手招きする。



「ほら、小紅ちゃん。こっちおいで」

「で、でも……あとで気まずい思いとかしたくないんだけど」

「大丈夫。京水はこの程度じゃ気まずいなんて思わないし、ぼくもなんとも思わないから」

「それはそれで腹が立つ」



 なんで?

 顔を真っ赤にした小紅ちゃんは、恐る恐る京水の布団に潜り込んでいく。

 ぼくはぼくで、京水の反対側に陣取り、体を密着させた。

 1つの布団に、美少女2人と男子高校生1人。ぱっと見。完全に事後だ。朝、京水が起きたらびっくりするだろうなぁ。にしし。

 どうしてこうなったかというと、『男友達』感覚での悪戯かつ、彼女としての『いちゃつきたい心』が混ざった結果だ。

 本当はぼく1人で引っ付く予定だったけど、小紅ちゃんの手前、そういうわけにもいかないでしょ。小紅ちゃんが惨めな想いをしちゃうだろうし。


 ――なら、一緒にくっついちゃえ。となったわけでして、はい。


 ふっふっふ。我ながら天才的な発想♡ ……だからお馬鹿というご意見は受け付けておりません。

 ……何を言ってるんだろう、ぼくは。こうして外泊なんて初めてのことだからかな。変にテンションが上がっちゃってるみたい。


『男友達』としても、彼女としても、大好きで大好きでたまらない京水に抱き着く。

 小紅ちゃんも今の幸せを噛み締めようと腹をくくったのか、反対側から京水の腕に抱き着いた。



「どうかな、小紅ちゃん」

「……幸せ。心臓が破裂しちゃいそう」

「わかる」



 京水とどれだけ一緒にいても、この胸の高鳴りが消えることはない。やだ、ぼくたち、こいつのこと好きすぎ?

 美少女2人の心を射止めるなんて、なんて罪作りな男なんだ。

 寝ている京水の頬をこれでもかってくらいつついていると、少し顔を上げていた小紅ちゃんと目が合った。



「でもね、カナタ」

「ん? どうしたの?」

「……アタシ、アンタのことも好き」

「ふぇ……!?」



 まさかの告白。さすがのぼくも飛び起きた。反対側にいる麗奈さんも、目を見開いてこっちを見ている。聞いてたみたいだ。



「キョウちゃんの次だけどね。……やっぱりアタシ、ちょろいのかな。真っ直ぐな感情をぶつけられて、アタシのことを真っ直ぐ見てくれる。……それだけで、人を好きになっちゃうなんてさ」



 正直に言うと、確かにちょろい。心配になるくらい、ちょろすぎる。

 どう反応していいかわからず戸惑っていると、小紅ちゃんの手が伸び、ぼくの頬を包んだ。



「別に、キョウちゃんがダメだったから、アンタに乗り換えるなんて微塵も思ってない。ただ2人の友達として、ずっと傍にいたい。……いいかな?」

「……いいに決まってるよ。ぼくも、小紅ちゃんのこと好きだもん。友達としてね」

「ふふ。ありがとう」



 小紅ちゃんは満足したのか、もう一度布団に潜り込んで目を閉じる。

 ぼくも京水の隣に横になり、幸せな気持ちで睡魔に身を委ねた。



   ◆◆◆



 ……これは、どういうことだろうか。

 嫌な汗が額を伝うのを感じる。喉が渇き、無意識に唾液を飲み込んだ。

 左右を見ると……浴衣がはだけた奏多と杠に抱き着かれている。俺も、心なしか浴衣の前が乱れているような。

 待て、待て。ありえない。俺はあの後、すぐに爆睡した。こんなところで、2人まとめて手を出すなんて愚行はしていない。……はず。

 その時。部屋の反対側に寝ていた九条が起きて、眠そうな目でこっちを見て来た。



「く、九条。これは、その……」

「……昨日はお楽しみでしたね」



 …………マジ??


 その後、起きて来た奏多と杠に土下座したが、いつもの奏多の悪戯だとわかってさすがの俺もプチ切れた。

 寝起きに心臓に悪いことしてんじゃねーよ……。


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