第11話 高校バスケ・春の大会:両親

 第2クォーター、ユンはベンチに居た。

流石に2年生が出ずっぱりとは行かないらしい。

結局、西校は相手チームよりも30点以上リードして2回戦へと駒を進めた。



 1戦目を終えた後、そのままお昼休憩となった。

5人でロビーに出て、昼食をどこで摂るか話し合う事にした。



「昼メシどうするの?」


「この中にレストランあるでしょ?そこ行こっかなって。」


「じゃ、俺たちもそうしようか。」


 ジアンとソジンの会話を聞いていると、ユンが輪に入って来た。


「あー!ユンくんおめでとう!あ、話して大丈夫?」


「休憩は自由。」


「え?自由なの?」


「うん。」


 観客席やロビーチェアを見ると選手やその家族、観客などと一緒にお弁当を広げている。


「昼メシ、持って来てない? …よな。」


「うん、ごめん…。」


「俺たち食って戻って来るわ。」

ソジンがそう言うと。


「あー。そっか。わかった。」

とユンは観客席に戻って行った。



(自由なら、ユンくんと居たいな…。)


 レストランの前に着き、サンプルを見ている4人に思い切って言う事にした。



「あのさ!ごめん!」


 4人が一斉に振り返る。


「売店で何か買ってユンくんと食べるね!」


 4人は「はいはーい。」「そりゃそうだよな。」

と口々に言って送り出してくれた。



 急いで売店に行き、おにぎり2つとサンドイッチそれからお茶を買った。

組み合わせは変だけど、あまり良いものが無かったから仕方ない。



 キャットウォークに入り観客席を見下ろしユンの姿を探した。

1人でお弁当を食べているユンが、私に気付いた。

状況が飲み込めない表情を浮かべている。

私は自分の顔の位置に売店の袋を掲げて揺すってみせた。

ユンが手招きする。


 通路を降りている間、ユンは客席に置いてあった自分のバックと水筒を足元に下ろし、私の座るスペースを作ってくれた。



 おにぎりのビニールを剥ぎながら

「一緒に食べられるって、なんで教えてくれなかったの?」

と、聞いた。


「勝てなかった。かも、しんないじゃん。」


「あぁ…。」


――パクっ。モグモグ。


「あ、でもさ、そうなったらどこかでお弁当食べて帰ったら良いじゃん。」


「はぁ?」

ユンが呆れて笑う。


「お家の人は来ないの?」


――パクっ。モグモグ。


「俺の親が見に来るのは決勝だけ。勝つ事しか許されないから。」


「厳しい…んだね。じゃ、明日はお弁当持ってくるから、一緒に食べようね。」


「次、勝たないとだな。」


「大丈夫!勝てるよ!」


 私の笑顔に釣られてユンも笑った。


「ユンくんのお弁当ってさ、いつも美味しそうだよね!」


「どれが、美味うまそう?」


「からあげ!」


 その言葉を聞いて、ユンは箸で唐揚げを突き刺し私の口に持って来た。



(え?)

ほんの一瞬怯んだが、思い切って食べる事にした。


――パクっ。モグモグモグ。


「おいひい!(モグモグ)やっぱり美味しいね!」


「いつも食べてるからわかんねぇ。」


 そう言いながらも、ちょっと嬉しそうだった。


 お返しにミックスサンドの、ツナ・ハム・タマゴの中から一つ選ばせてあげると、ユンはハムサンドを選んで食べた。




――――――――――――――――――――


 ソウル西校男子バスケ部は途中、危うい場面がありながらも勝ち進め

いよいよ、準決勝・決勝の日を迎えた。


 ソアはバレー部の試合が近い事もあり、初日だけ来てくれて今は部活を頑張っている。

2日目からはソジンとデヒョンも来なかった。

初日の帰り道『明日の応援はどうするか?』の話し合いで、ソジンが


「応援してもしなくても何も変わらねぇよ。」


 と言って、女子3人に怒られた。


 先週の土日、一緒に来てくれたジアンが昨日今日と来れなくなったので、1人で応援に来ている。

自然と案内係の2人と仲良くなった。

名前はテヨンとユリ。

テヨンはお話し好きな明るく面白い子で、ユリはテヨンのちょっと後ろを居る様な、大人しめな印象。

2人とも優しく何でも教えてくれた。


 昨日3人で話しをしている時、どうしても知りたくなって、禁断の質問だとは思ったが2人に尋ねてみた。



「2人は、ユンくんが好きなの?」


「あぁ!? 私たちは好きって言うよりファンだよ。」

とテヨンが言うと


「バスケをしてる時のユンくんが好きなんだよね。」

と、ユリが被せた。


「じゃあ、本当にファンなんだ?」


「そ!だって普段のユンくんって何考えてるか分からないし怖いんだもん!」


「怖い!?」


「うん。私たち去年ユンくんと同じクラスだったのね、たまたまバスケ部の練習を見た時に好きになっちゃって。仲良くなりたくて話しかけたんだ。そしたら、ねぇ?」


「ねぇ?めっちゃ怖かったよね。だから好きじゃなくなっちゃった。」


「普段のユンくんと部活の時のユンくん、全然違うの。バスケ選手の時のユンくんはにこやかだし優しい。話してくれるし。だから、選手のユンくんは好きだから応援してる。」


「そっか…そうなんだ。ありがとね教えてくれて。良かったらで良いんだけど、仲良くしてね?」


「ほんと!?LINEとか交換してくれる?」


「もちろん!しよしよ!」


「わぁ!嬉しい!私たちアミちゃんのファンだし!」


「なんで?(笑)私、普通の人!」


「ユンくんに唯一、近寄れた女子だから!」


「唯一?そうなの?私…同じクラスになるまで、ユンくんの事あまり知らなかったんだよね。」


「知り合ったばっかなの?」


 テヨンとユリが驚き顔を見合わせた。


「うん。だから詳しくないけど、まぁ、確かに冷たくなったり不思議な人だよね。」


「なんだ、アミちゃんにもそうゆうの見せるんだね!?」


「うんうん。冷たいよ!」



 そんな態度も、たまにだけ。

ほんの少しだけ、優越感を感じてしまった。



――――――――――――――――――


 今日も選手と距離を取って入場の時を待つ。

その時、テヨンが


「あの人、ユンくんの両親だよ。」

と、教えてくれた。

お父さんはとても背が高くて優しそうな雰囲気があった。

お母さんの方も背が高く、色が白くて一見すると冷たそうに見える美人で、お母さんに似たんだなと思った。



 家族はコートに降りて、ベンチの向かい側に座り応援出来る。

観客席からユンの両親はよく見えた。

ユンが出ていない時も、初めから最後までチームに叱咤激励し熱心に声援を送っていた。


 準決勝、西校が勝った。

ユンの両親はよしよしと頷きながら大きな拍手を送った。



《お昼休憩》



「昼メシ持って来た?」


「お母さん達と食べるんでしょ?」


「いや…。」


 その時背後から「ユン」と男性の声が聞こえた。

振り返るとユンの両親がそこに居た。


「お父さん達、外で食べて来るから。」


「うん。」


 ユンの両親が私を見た。


「こんにちは。」

私はそう言って頭を下げた。


「いま、仲良くしてる友達。」

ユンが両親に紹介してくれた。


「キム・アミです。」

もう一度頭を下げた。


「あらぁ。可愛らしい子ね。」


「あ、いえ…。」


「ソジンとデヒョンとも仲良くしてるよ。」


 両親が驚いた顔をした。


「あなただけじゃなくてあの子達とも仲良く出来るなんて!へぇ…そう。午後も応援してやってね。」


「はい。」


 立ち去る姿を見送る。


「て、事だから一緒に食べよ。」


「うん。」



 午後からの決勝戦も見事にソウル西校が勝ち、三連覇を果たした。


 決勝戦は、手に汗握る大接戦で決着が着くまでに1時間半もかかった。

本日、2戦目であった事に加え試合時間も長かった為、選手達は疲労困憊。

表彰式や片付けもあり、声など掛けられる雰囲気ではなかった。

選手達は家族や親族にいたわらわれながら会場を後にした。


 テヨンとユリと3人で駅に向かいながら、ユンに想いを馳せる。


(ユンくん、どんなに疲れただろう。私がこんなに疲れてるのに…。連絡が来るまでそっとしといてあげよ。)





 こうして、私の4日間は最高の想い出となって幕を下ろした。

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