第10話 高校バスケ・春の大会:選ばれし者
案内をしてくれていた女子2人は
『選ばれし者ぉ!』
『ユンくんのぉ!?』
と、大はしゃぎしている。
『マジで?マジで?(笑)』
『やばいぃ!!(笑)』
と興奮しながら、座席でピョンピョン飛び跳ね言い合っていた。
「ちょ…と、行ってくる…。」
「う、うん。」
ジアンは笑ってしまいそうになるのを、我慢していた。
ユンは私が座席を抜け出し、通路まで出たのを確認して前を歩き出した。
狭いキャットウォークを抜けて、開放されている扉からロビーに出た所で振り返った。
「選手と観客が一緒に行動するのは禁止なんだ。だからあまり説明とかしてやれない。ごめんな。」
「気にしなくて良いのに。」
「周り見て合わせてたら良いから。」
「わかった。」
「ここに全員が集まったら、もう話せない。」
「うんうん。わかったよ(笑)」
私は迷惑を掛けまいと直ぐに離れた。
少し離れた所に“選ばれし者”たちがいたので、そっとさりげなく近づいた。
間も無くして、選手達が移動を開始した。
その後ろをついて行く。
2階から外に出るとタイル張りの広場になっていて、選手達が等間隔に離れて立つ。
準備運動が始まった。
女子達は建物側に邪魔にならない様に立っている。
私も真似して側に立った。
「もしかして、あなたがキム・アミ?」
美人を絵に描いたような、3年生に声をかけられた。
「は、はい…。」
「ふ〜ん。ソンくん、あなたみたいなのがタイプなんだぁ。へぇ…」
上から下までゆっくり見終わると、ユンを一瞥してまた私を見た。
「意外。」
そう言ってクスクス笑った。
思考回路が停止して、身体が動かない。
どうしてそんな事を言われなきゃいけないのか。
やっぱり場違いなんだろうなと、悲しくなった。
周りを見渡すと、美人や可愛い子しか居ない。
私はどうしてここに居るんだろう。
そうだ、どうしてこの先輩は私の名前を知っているのだろう。
頭の中がグチャグチャになる。
タイルの床から視線を元に戻すと、ユンが心配そうな顔を私に向けていた。
――大丈夫だよ。
微笑んで見せた。
ユンが軽く頷いた。
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マネージャーが走って出て来て来ると監督に声をかけた
「第4クォーター残り5分です!」
その言葉を聞いて、監督が選手達に声を掛ける。
「よし!集合!」
選手達が迅速に集まった。
「第1クォーター、メンバーは。4番!5番!6番!7番!18番!ジャンプボール18番。落ち着いていたら勝てる相手だからいつも通りで行け。じゃ、戻るぞ。」
「はい!」
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観客席に戻ると、ソジンとデヒョンの姿があった。
2人と盛り上がるジアンとソアを、他の女子達は代わる代わる振り返り、羨望の眼差しで見ている。
客観的に見るその光景は確かに違和感があり
『こう見えているのか…言われてみればちょっと変かもな。』
と、妙に納得した。
でも私たちだって3人とも、“可愛い”と言われることもあるし、ナンパだってされたりもする。
あの男子3人が異常なのだ。
選ばれし者たちも…。
「お!選ばれし者が帰って来たぞ!」
ソジンが嫌な笑みを浮かべそう言うと、横にずれて席を空けた。
隣に座ると顔を近づけ
「選ばれし者の気分はどうですかぁ?」
と囁いた。
「とーっても良い気分ですよぉ〜!!これで良い?私の気持ちも知らないで!ムカつくっ。」
「ん?なんかあった?」
無視してやった。
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手慣れた様子で選手やマネージャーは準備を済ませ、あっという間にコートに降りて行った。
横1列に並んだベンチに座りジャージを脱いでユニフォームになる選手達。
今日は濃色のユニフォームと聞いていた。
黒、紫、白で構成されたユニフォームはとってもオシャレで全員がカッコよく見えた。
濃色のユニフォームは、ユンの肌の白さを際立たせとても目立つ。
背番号は18番だった。
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――試合開始
ユンは深く体を沈め、審判がボールを投げると同時に高く飛んだ。
ボールは見事、自分チームに渡った。
「え?かっこよ!マジかぁ!」
「めっちゃカッコいい!」
ジアンとソアが興奮している。
私は叫びそうになるのを我慢していた。
4番キャプテンがレイアップで2点を入れたのを皮切りに、相手チームが気の毒になる位に得点が入って行った。
最初のスリーポイントのチャンスはユンに回って来た。
キャプテンがユンに向かって
「ユン!行け!」と叫んだ。
ユンは瞬時に体勢を整えジャンプしてボールを投げた。
見事、ボールはゴールネットに吸い込まれて行った。
ユンはコートを走りながら右手で小さくガッツポーズをした後、親指を立て人差し指を出し、観客席を指刺した。
ユンの視線と人差し指が、私の方を向いている。
観客席にいる女子達は、声にならない悲鳴をあげながら私を見た。
案内係をしてくれている女子が2人振り返り
『ユンくんがあんな事するなんて!(泣)初めて見た!カッコいい!キムさんありがとう!』
と、小声で言いながら泣きそうになっていた。
すると、あのユンのファンクラブを作ったという3年生が振り返り私に向かって
「なんなんだよ!あの女!さっきからさぁ!」
と、叫んだ。
その言葉を聞いた瞬間、周りの女子が慌ててそれ以上の事を言わない様に制止した。
その3年生の左側に座る女子が、引きつった顔で耳打ちをし何やら話し始めた。
するとその3年生の横顔がみるみる青ざめ
「そんなの早く言ってよ!」
と、隣の女子を責めた。
また振り返り
「い!今のは違うから!無かった事にして!間違いだから!」
と、言った。
するとソジンが
「大丈夫ですよ。何言ったか聞こえませんでしたから。」
と答えた。
「あ、でも、次は無いですけどね。」
と言った瞬間、数人の女子が「ひっ!」と小さい悲鳴をあげてその3年生の様子を伺った。
「だ、大丈夫。大丈夫だから!」
と言って小さくなってしまった。
女子達は気を取り直して、何も無かったかの様に観戦体制に戻った。
「ねぇ、今の…なに?」
ソジンの顔を覗き込んで聞いてみた。
「もう終わった。気にすんな。」
そう言われても気になってしまう。
あんなにイライラとした態度で声を荒げた人が小さくなってしまっていた。
ソジンは教えてくれないし、考えてもわからない。
だから直ぐに、試合に集中した。
キャプテンと副キャプテン、そしてユンが得点を入れまくり、第1クォーターが終わった。
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