第10話 真剣勝負、その最中で

 「もっと死ぬ気でこい、リーシャお前!」

「……っ! ヴァルツ様!」


 学園入学まであと半年を切った。

 修行も仕上げの段階だ。


「やる気がないならやめるか?」

「いいえ!」


 そんな中、僕はリーシャと手合わせをしている。

 二人とも学園に行くならということで、周りで師匠たちに見守られる形で、お互いに切磋せっさ琢磨たくましているんだ。


「遠慮はいらんぞ」

「は、はい!」


 当然手加減はする。

 でも、僕も心を鬼にして甘えさせはしない。

 彼女がそれを望まないのは分かっているから。


「いきます……!」

「ああ、殺す気でこい」


 それに、リーシャの魔法は中々のものだ。

 油断すれば一杯食わされるほどに。


「はああああッ!」


 彼女の属性は【炎】。

 最もオーソドックスで扱いやすい属性だそうだ。


「【豪炎マグナフレイム】……!」

「──甘い」

「……! きゃっ!」


 良い魔法だったけど、正面から打ち砕いてリーシャに迫る。

 剣を突き立てたところで勝負ありだ。


「まだまだだな」(すごく強くなったよ)

「くっ……!」


 実際、修行を積むごとに火力も上がっている。


 学園では、よくて上の下という成績だったはずのリーシャ。

 彼女がここまで力を付けたのは素直にすごいことだと思う。

  

 そうして、勝負がついたところで師匠二人が寄ってくる。


「お疲れ様、二人とも」

「リーシャ様、惜しかったわよ~」


 今の手合わせに満足してそうな顔だ。

 僕は分からないけど、リーシャの成長が嬉しいのだろう。


「でも、私はまだヴァルツ様には遠く及びません!」

「大丈夫よ。ヴァルツ様が強すぎるだけ」


 リーシャはいつも本気で悔しがる。

 僕の隣に立てるようになりたいと。

 こういう想いが彼女を強くしているのかな。


 そして、


「ヴァルツ様」

「なんだ、ダリヤ」


 僕の方には、少し真剣な眼差しのダリヤさんが話しかけて来る。


「例の真剣勝負。午後からやるか?」

「……!」


 それは待ちに待った言葉。

 師匠と弟子の手合わせではなく、ガチの真剣勝負の話だった。


「今のヴァルツ様なら勝負に値する。そう判断した」

「ほう」


 胸がドクンと高鳴る。

 今の僕は口角を上げていることだろう。


「ああ、やるぞ」





 お昼を軽く済ませて、庭。


「久しぶりだぜ、この感覚はよお」

「……」

 

 剣を構え、真っ正面からダリヤさんと向き合う。

 ニヤっとしているのは変わりないけど、いつもとは雰囲気が違う。


「やるか。ヴァルツ様」

「ああ」


 これが本気のダリヤさんか……!


「……クク」


 このプレッシャーを前にして改めて感じる。

 彼はやはり最高峰の剣士なのだと。


「では、始めるわよ」

「ヴァルツ様! 頑張ってください!」


 審判に位置に立つマギサさんに、その隣に並ぶリーシャ。

 二人が見守る中──勝負は始まった。


「始め!」


「だらあ!」

「……!」


 開幕、ダリヤさんの突進。


「なんてな!」


 ──と見せかけての横からの攻撃。


「だろうな」

「おぉ!?」


 これは見切っていた。

 僕がどれだけこの人と打ち合ってきたか。


 『冒険者はずる賢く生きないといけない』。

 何度も聞いていた言葉だ。


「やるじゃねえか、ヴァルツ様」

戯言ざれごとを。さっさと本気を出せ」

「そうかい」


 ダリヤさんが全身に魔力を込める。

 そして僕も同じく。


「【魔力装甲】」

「【光・身体強化】」


 ダリヤさんは属性魔法は得意ではない。

 でもその分、無属性魔法には磨きがかかっている。


 やはり魔法が通ってからじゃないと本当の戦闘は始まらないな。

 

「本番だぜ、ヴァルツ様」

「最初からそうしろと言っただろうが」


 僕たちは再び距離を詰める──。




「おらおら!」

「──!」


 幾度もの攻防の後、お互いの剣が重なり合う。


「どうした!」

「チィッ!」


 押されている。

 この事実が僕を焦らせ、ヴァルツをイラつかせる。


「まだ早かったか?」

「ぬかせ!」

「それが甘い」

「……!」


 そうして出来た一瞬の隙。

 焦りから来る型の乱れだ。


 これで僕の負け──


「……!」


 そう直感した時、心の奥底から何かがあふれそうになる。

 直後、カーンと甲高い音が目の前で響いた。

 

「なんだと?」

「!」(え?)


 今、何が起きた?

 自分でも分からないまま、いつの間にか離れているダリヤさんを見て状況を考える。


 僕がダリヤさんの剣を弾いたのか?

 今の絶対に間に合わないタイミングで?


 僕はまるで意識をしていないのに。


「……!?」

「ヴァルツ様!?」


 そして、体が勝手に動く・・・・・

 

 なんだ!?

 体が制御できないぞ!?


「ぐっ!?」


 さらに、体からドス黒いものが溢れ出てくる。


「ヴァルツ様?」

「ぐ、うぁ、ああ……!」


 この感覚は!

 属性魔法を学んだ時に一瞬だけ感じた、ドス黒いものに似ている!?


「ぐあああああ!」


 視界が、視界が覆われる……!







<三人称視点>


「ぐあああああ!」


 あと一瞬もあればダリヤの勝ちだったところで、突然苦しみ出したヴァルツ。

 相対あいたいするダリヤは戸惑うばかりだ。


 そして、


「……」


 苦しみは終わったのか、静かになるヴァルツ。

 だがその姿は違和感しかない。


「ヴァルツ様?」

「……」


 姿形はヴァルツそのもの。

 しかし、目付き、雰囲気、体から溢れ出る黒い何か……目の前の男は、今までのヴァルツとは何かが決定的に違うことは明らかだった。


 そんな姿に、ダリヤは思わず口にしてしまう。


「いや……誰だ・・、お前は」

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