【完結】Q.傲慢で非道な悪役貴族に、正義のヒーローに憧れる少年が転生したら? A.口は悪いが人を救うダークヒーローが誕生する
むらくも航
第一章 本編開始前
第1話 悪役のそれ
正義のヒーローになりたい。
みんなを守って、みんなを笑顔にするような。
でも、その気持ちだけは心に残り続けている。
……なのに。
──なのに!
「どうして、よりによって
僕は鏡を見ながら盛大に叫んだ。
こうなるきっかけは、ほんの十数分前。
「はっ!」
目を覚ますと、そこは知らない天井。
どうやらベッドに横たわっているみたいだ。
「あれ? 僕は何をしてたんだっけ……」
頭を抑えながらベッドを出る。
だけど、隣にあった姿見を見た瞬間、思わず目を疑った。
「え!?」
色が抜けたような白髪。
整った顔ではあるものの、威圧感を与える目付き。
いかにも貴族のような格好。
「ヴァルツ・ブランシュ……?」
この姿に見覚えがあったからだ。
それも、
ヴァルツ・ブランシュ。
学園RPG『リバーシブル』に出てくる、悪役のラスボスキャラだ。
努力家で平民の主人公とはまるで真逆。
最上位貴族という地位の上、あらゆる才能にあふれる。
いや、あふれ過ぎていたんだ。
だからこそ、努力なんてせずとも、いずれ来る学園パートで好き放題する。
それに腹を立てる者もいるけど、圧倒的才能の前には誰も勝てない。
作中一の
だけど、最後には努力を続けた主人公と戦って敗北する。
努力が才能に勝る、主人公にとっては、まさにサクセスストーリーってわけだ。
そして、彼は「俺は……!」と言葉すら残せずに破滅することになる。
色々と考察されているものの、どうせ非道な言葉だろうと予想されていた。
と、そんな感じのキャラだったはず。
「そのヴァルツに……僕が!?」
手足の感覚を確認しながら、ようやく理解する。
僕は転生してしまったんだ。
このヴァルツ・ブランシュという男に──。
そんなこんなで、今に至る。
「……はあ」
理解はできても、やっぱり納得はできない。
僕は正義のヒーローになりたい。
きっかけは思い出せないけど、前世からこの気持ちに変わりはない。
なのに、こんな悪役非道なキャラになるなんて。
僕の目指すヒーロー像とはまるで真反対のキャラじゃないか。
「これからどうすれば……」
と、顔を下げていたところに──
「坊ちゃま!」
「……!」
ほとんどノックしたかしてないかぐらいの後、急いで一人の女性が部屋に入ってくる。
服装からして、僕のメイドさんだと思う。
「先程の叫び声はいかがいたしましたか!」
「!」
しまった!
さっきの、気持ちが高ぶって出た声が響いていたらしい!
僕は慌てて弁明しようとする。
「なんでもな……っ!?」
あれ!?
今、たしかに「なんでもないよ」って言おうとしたのに!
「どうされましたか?」
「だ、だから、……っ!」
やっぱりだ、思ったように声が出せない!
一体どういうこと!?
「やはりお熱でもあるのでは!」
「そうじゃねえ! ──!?」
そして、思わず出た声に自分でびっくりする。
今の“汚い言葉遣い”は『悪役ヴァルツ』の口調そのものだ。
「……」
そこである仮説が頭に浮かぶ。
もしかしてこいつ、優しい言葉を出せない!?
それも
本当になんて傲慢なキャラなんだ!
「坊ちゃま……?」
こうなったら仕方がない。
自分の意思を伝えるのは変えず、口調は出てくるままに……。
「おいメイド」
「は、はい!」
「さっさと
そう言うと
ちょっ!?
そこまでひどいことは思ってないよ!?
だけど、メイドの反応はごく普通だった。
「良かったです。いつもの坊ちゃまですね」
「は?」
「では、私はこれで」
ばたんと扉を閉め、そのまま出て行ってしまったのだ。
「……」
なにこれ。
今ので良かったのかな。
ま、まあ、それよりもさっきの仮説の続きを考えよう。
「あー、あ~。
うん、やっぱりだ。
人がいないところでは思考通りに話せる。
だけど、“人前”だと口調は傲慢に、一人称も「俺」になる。
「もはや尊敬するよ」
中身が僕になってなお、人前ではまだ傲慢であり続けるなんて。
我ながら(?)すごい人だ。
「……少し歩くか」
これじゃ正義のヒーローなんてなれるわけがない。
モヤモヤする気持ちを変えるため、一旦部屋を出る。
「広い家だなあ」
ヴァルツの家系──ブランシュ家は
王家の次に偉い地位を持つ、最上位貴族様だ。
だからこの、こんな態度でもお
彼が傲慢であり続けたのは、この環境のせいもあるのかもしれない。
──なんて考えていた時。
「ん」
曲がり角の先で、さっきのメイドの姿が見える。
ティーセットを乗せたプレートを持っているみたいだ。
僕の部屋に持ってくるつもりだったのかな。
「あ、坊ちゃま!」
「おい、だから部屋には来るなと」
「わっ!」
「──!」
だけど、僕の姿を見たからかプレートをひっくり返しそうになる。
あぶない!
そう思った瞬間、僕の体は自然に動いていた。
「坊ちゃま……?」
「……!」
ハッと気が付けば、右腕でメイドさんを支え、左手にはプレートを持っていた。
もしかして、僕が助けたのか?
「!」
そこで、ようやく僕は思い至る。
そうか、そうだった。
ヴァルツはたしかに傲慢で非道なキャラだ。
「……フッ」
だけど、力だけはある。
剣や魔法はもちろん、知力、権力においても、作中では他の追随を許さないほどに。
それは物語が証明している!
「あ、あの……?」
そっとメイドを優しく下ろし、お礼を伝える。
怪我をしたら危ないからね。
「クズなりによくやった」(気づかせてくれてありがとう)
そして決意する。
だったら、なってやろうじゃないか。
僕がずっと憧れていたものに。
「フッフッフ」
こんな態度じゃ、結局待つのは破滅の未来だけかもしれない。
だけど、僕は
たとえそうだとしても、僕は最後まで人々を救って死ぬだけだ。
そう、正義のヒーローのように!
「フワーハッハッハー!」
笑い方は悪役のそれだけどー!!
でも、この時の僕はまだ知らなかった。
この決意が、結果的に破滅の未来を回避する行動に繋がっているとは──。
───────────────────────
新作は悪役転生ものです!
ヒーローに憧れる純粋な少年が転生したのは、悪役のラスボスキャラ!
人前限定で傲慢な態度しか取れません!
彼が目指す先は、悪役か、ダークヒーローか。
はたまた、言動と行動が違うツンデレヒーローか!
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