最後の宿題

四矢

第1話 最後の宿題

7月20日

 まだ朝の9時過ぎなのに気温は40度に迫ってきた。エアコンのある教室にいるから暑さは感じないけど、外はすでに灼熱地獄になっていることだろう。


 丸の内小学校6年の担任である酒井雄二は教室へと向かった。最後のホームルームを行うためである「最後」というのは1学期最後ということではなく、文字通りこの丸の内小学校での最後という意味である。


 2079年10月1日に日本政府は2080年8月31日での日本国の解散を発表した。解散の要因としては、温暖化の影響による水面上昇や、人口減による労働力の低下、地方都市の消滅と一般的には言われているが、10年以上前から富裕層を中心に国外脱出をする人が増えていて歯止めが効かなくなったことが根本的な要因にあるとの見方もある。


 要するにお金を持っている人たちはすでに海外へ移住していて、中流以下の層が日本に残っているという状態だったので、国としての体制を保てなくなったということだろう。


 酒井雄二が教室へ入ると教室にいつもの4人がいた。剛太、太陽の男の子2人と、美空、ソフィア桜花の女の子2人である。


「さーて、ホームルームを始めるぞ」と酒井が声をかけると、4人は慌てて机に着席した。


「知っていると思うけど、今日でこの学校への登校は終了です。本来ならば学校がなくなってしまうのでやらないんだけど、君たちの夏休みのために僕は宿題を出そうと思います」


「えー!!この夏休みは宿題は絶対ないと思って喜んでたのに」


 宿題というあまりに衝撃的な単語に剛太が思わず声を上げてしまった。


「剛太、8月31日までは先生の生徒だから、この夏休みをどう過ごさせるかについては責任があるんだ」


「ということは、たくさん宿題が出るんですか?」


 クラスの中でリーダー的なポジション(級長をやっている)の美空が質問すると、酒井先生は「宿題はひとつだけ」といって話し始めた。


 先生が出した宿題は「日本」について調べることだった。提出日は夏休み最後の日であり、この学校と日本の最後の日でもある8月31日のこの教室。実際に出席しても良いし、オンラインでの参加でもOKとのことだった。


 丸の内小学校6年1組の4人は思いがけない宿題に少し戸惑ったが、最後の思い出作りだと思ってやる気になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る