3,まどか&つぐみと探す茅ヶ崎の魅力

「はい、こんにちは皆さん、きょうはようこそ、茅ヶ崎へ。みんなはいまごろライブの余韻に浸ってるころかな? 茅ヶ崎で街興しをやっている人に頼まれて市内の紹介をすることになった城崎きのさきまどかです。フルーツの香りはしないと思うただの大学生です」


小日向こひなたつぐみです。来ている人も来ていない人も、茅ヶ崎の空気を感じてもらえたらうれしいです」


「いま私たちは茅ヶ崎東海岸のヘッドランドビーチ、通称Tバーに来ています」


「パシフィックホテルの跡地とか、あのおじさまや私たちの母校もこの辺りです。これといって何もないところだけど、人が多いのにどことなくのんびりした空気が漂っていたりいなかったりする、混沌としたTバー。穏やかな海の向こうに烏帽子岩、ずっと向こうに伊豆大島、東に江ノ島、西に富士山。初日の出はここがきれいだよね」


 はいはい、ということでフルーツの香りがする夢のような女子こと私、白浜沙希はとある公園の東屋あずまやでノートパソコンを広げ、まどかちゃんとつぐピヨが撮った動画の編集作業中でございます。


「みんな茅ヶ崎楽しんでますかー! 楽しんでるよー!」


 周りに誰もいない森の中、独り言も言い放題。


 撮影時刻は土曜日の正午ころ。いやあしかし人が多いですなあ。オレンジと水色の限定Tシャツを着た人も多い。聖地巡礼だね。聖地のひとつ、雄三通りにあるラーメン屋、サッポロ軒は開店待ちをする人がいて店主のオヤジがびっくりしたって、一昨日言ってた。普段は市民で混み合う店だけど、あのとき私たち以外のお客さんは全員観光客さんでびっくりしたよ。


「逆に初日の出以外ではあんま来ないけど、さて、これからどうしようか。茅ヶ崎で遠くから時間と交通費をかけて行きたいと思える場所って、どこだろう?」


「うん、言葉に詰まるね……」


 つぐピヨ、虚無。


 普段から茅ヶ崎をPRしてる私たちだけど、周辺住民ならともかく遠方から、ウン万円かけて来る価値のある場所は? と問われると、ぶっちゃけわからん。海あり街あり山ありで彩りはあるけど、それは遠くから来る価値のある場所かい? と。価値観は人それぞれだけど客観的にね。


「考えると行き詰まるし、多数派マジョリティー視点なら隣の江ノ島とか鎌倉のほうが楽しいだろうから、敢えて少数派マイノリティー視点で行ってみようか」


「そうだね、それしかない、うん、それしかない……」


 ここで一旦動画が途切れ、次に映ったのはTバーの先端、つまり岩場の上。テトラポットは立入禁止。マジで死ぬ。


 砂浜の上に高く積み上げられた岩の上から臨む海原は開放的で、ときより波が打ち付けて飛沫しぶきが上がる。


「そういえばつぐみ、ライブのチケットは当たった?」


「当たらなかった……」


 つぐピヨ、再び虚無。


「まどかちゃんは?」


「ハズレた」


 前回は三人とも当たったからね。まあ、ね。うん……。


「でも、サザンが見れないなら、私たちがサザンも驚きの曲を作れば良くない?」


「ま、まどかちゃんイケメン……!」


 そうそう、私たちは音楽活動をしていて、ときどきひっそりイベントで披露している。ギャンブルに負けたまみ子ちゃん(高校時代の担任)をモデルに作った『MAMIKO』はある意味ウケた。ある意味サザンも驚きの曲、というか詩だと思う。


 ここで再び動画が途切れた。二人はサザンのことをいくらか喋って景色の説明は一切ナシ。


 えーと、このTバーは、烏帽子岩を伝って(?)、大海原から不思議な力を引き寄せるパワースポットで、K先輩もだけど、あの俳優さん、あの宇宙飛行士さんなどなど、茅ヶ崎出身の有名人はだいたいこの地域、細かく言うと中海岸なかかいがん東海岸ひがしかいがん浜須賀はますかの連続する地域で育ってるんだな。


 ここで再び動画が途切れ、次は緑と青空が映った。K先輩の小さなホームタウンを唄ったあの曲に登場する『なぎさの散歩道』だ。


 松を中心にいろいろな木や草花が生い茂るなぎさの散歩道。適度な木漏れ日があってちょっとした避暑にもなる。


「ここ、静かで好きなんだ」


「うん、私も」


 ニヒルなまどかちゃんと、穏やかに笑むつぐピヨ。砂防を目的とした海辺の鬱蒼とした遊歩道は茅ヶ崎ならでは。夜は近寄らないほうがいいぞい。


 なぎさの散歩道はゆっくり歩いても5分くらいで抜ける。続いてまどかちゃんとつぐピヨがやってきたのは定番、茅ヶ崎サザンC。


 おいおいおい、そこは私も行ったぞい!


 ライブ3日目も行列ですなサザンC。


「はい、ということで続いてやってきたのはサザンC。さっきちょっと雨が降って雄三通りの蕎麦屋さんで雨宿りしてました」


「おいしかったね。会津あいづのお蕎麦」


「また行こう。それにしても、Cに行列なんて珍しいね」


 サイクリングロードの脇にあるサザンC。まどかちゃんとつぐピヨはそのはす向かいにいて、ちょこんと寄りかかるつぐピヨを、まどかちゃんが右脚を浮かせ45度右向きになって見ている格好。二人は楽しそうに雑談をしながら撮影待ちの人々や、砂浜の先の海を眺めていた。


「お、列が途切れた。私たちも記念撮影するか」


「そういえばここで自分たちが写った写真、撮ってないね」


 そこにタイミング良く通りかかった前回の案内人、星川美空さんに撮影をお願いしたまどかちゃん。


 まどかちゃんはCの真ん中に右脚を組んで座り、つぐピヨは背伸びして両手を伸ばしCの切れ目に立った。なんとか◯になった。


 おっ、お前ら、私のいないところでイチャつきおって!


 さて、これまで3回にわたってお送りしてきた茅ヶ崎案内は残り約1回。日本語とは曖昧なもので、‘約’1回でございます。


 ラストは夏の終わり、盆義理やらお彼岸やら、あちらの世界を感じさせるあそこなどからお送りします。お楽しみにねー!

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