第4話 身体の変化

 変化した刀は間違いなく俺がさっき使った刀だ。まだ一度しか使っていないが、妙に手に馴染むこの感触を忘れるはずがない。


「刀だったのか……?」


 幼女がまさか刀に変化するとは思わなかった。


 現実逃避をしたいところだが、今はそれどころではない。刀となった事でゴブリン達が警戒しだしたのだ。今も刀の事を指しながら騒いでいる。


「あぁもう! やってやる!!」


 今はとにかく目の前のゴブリンだ。


 どうやったらあの時のような炎が出るのだろうか?


「あるじさま! きつねびをちからをこめてふってなの!!」


 俺の心が読めるのか的確に指示をくれる。


「わ、わかった!」


 言われた通り、力を込めて刀を振ると最初に刀を抜いた時のように炎が燃え上がった。ただ最初と違うのはその炎がゴブリンに向かうのではなく、自分の周りを蛇が絡みつくように囲まれている。


‘‘やっぱかっけぇ!‘‘


‘‘どうやってこんなのやってるんだろな?‘‘


‘‘CGだろ‘‘


‘‘まるで映画の世界みたいだな‘‘


 コメント欄を見ても驚きの声が拡がっている。まぁ自分自身が驚きの連続だから仕方ないだろう。


「けどこの数を相手に大丈夫か?」


 今まで喧嘩も碌にしてこなかった。いきなり戦えと言われて、はいそうですか、とはならない……と自分では思っていた。


 だが、心は思った以上に落ち着いてる。最初は驚いたが、ただそれだけだ。実際に今も、これだけの数に囲まれていても焦っていない。


「きつねびがいればだいじょうぶなの!」


 その言葉は自信に溢れている。ならば俺はその言葉を信じるしかない!


「グギャ!?」


 俺は近い方へと走り出す。慌てて構えてくるゴブリンだったが、俺の方が速い。


 てか、何だか身体が軽い?


 俺ってこんなに速く走れたのか? しかも相手の動きが遅く感じる。


 今も棍棒を振り下ろしているゴブリンの動きがスローに見える。


 それを即座に避け、刀を横薙ぎにして斬る。思っていたより何の抵抗もなく斬れた。相当斬れ味がいいようだ。


 上下がお別れしたそのゴブリンは、斬られるのと同時に全身が燃え上がる。元々真っ二つになっていた為、今度は殆ど暴れる事なくそのまま丸焦げになった。さっきまで警戒していたゴブリン達は、丸焦げになった仲間の姿を見て恐怖で震え上がる。


 足が止まっている間に追撃を加えよう。


 そう判断し、走り出そうとしたその時、後方から矢が放たれた風切り音がする。俺は咄嗟に振り向き、手を翳す。すると身体を纏っていた炎が壁のように立ち塞がる。


 矢を燃やし尽くすと、炎の壁をそのままに前方へと再び攻撃を開始した。


 先に片方を片付けなければ。


 逃げようとする者、それを止めようと騒ぐ者、接近されて恐慌状態に陥り、棍棒を振り回す者。相手は混乱状態だ。


 俺はその中でも棍棒を振り回しているゴブリンに目をつけ、その背中を蹴り飛ばした。


 勢いよく蹴り飛ばされたゴブリンは、そのまま敵の群れの真ん中に放り込まれる。


 恐慌状態に陥っている為、その場でも暴れまわるゴブリン。その周りが慌てている様子を横目に、端っこにいた一匹のゴブリンの首を落としつつ、俺は弓矢を持っているゴブリンへと迫る。


 こっちに来ているのに気づいて、必死になって弓を構えようとしているが、そんなあきらかな隙を見逃す筈はない。そのまま真っ二つにしてやった。


 その頃には炎の壁もなくなり、残っているゴブリン達が合流していた。


 残りは八匹。


 内、一匹がまだ弓矢を持っている。


「ふぅ……」


 ここまでの一連の動きに自分でも驚く。俺は別に剣道部ではないし、刀を触った事なんてない。確かに運動部ではあるので身体を動かすのは苦手ではないが、ここまで動ける事が不思議でならなかった。


 だが、悪い事じゃない。


 こんな緊急時に戦えないより戦える方がいいに決まっている。


 再び力を込めると自分の周囲に炎が現れる。その様子に尻込みしているゴブリン達。


 悪いが、俺は死にたくないんだ。


 目の前で見てしまった友人の死。その現実に、刀を持つ手に力が入る。


「悪いが俺の為に死んでくれ」


 そうぼそりと言うと、ゴブリン達の群れに向かって走り出すのであった。


――――――――――――――――――――――――――――


 最後まで読んでいただきありがとうございます!


 前話より


 狐火の格好について、巫女服と書いていたつもりが書いて無かったのでこっそり追加してあります。投稿日に読まれた方は知らないと思われる為、こちらに記載させていただきました。よろしくお願いします。


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