第3話 友人の死と器の最適化
頭の中がぐちゃぐちゃになったまま、松井の元へと歩く。ゴブリン達が燃えている間に残りの一匹は逃げたようで周りにはもう何もいない。
まだ震えている足を叩いて無理矢理前へ進む。
「松井……」
かつての友人であったその姿は見る影もなく、ボロボロになっていた。腕はあらぬ方向に曲がり、顔も見るも無惨に変形していた。
‘‘やっば!つよっ!!‘‘
‘‘炎の演出すげぇ!‘‘
‘‘刀かっけぇ!!‘‘
コメントを見ると松井について触れているコメントはない。まるで初めから存在しなかったかのように。
今はそれに対して文句を言う元気もわかない。
暫く放心状態になっていたら、コメント欄では動き出すように催促してきた。そのコメントにイラッとしたがなんと返せばいいか思い浮かばない。
どちらにせよ、ずっとこのままって訳にはいかない。
最後に松井の見開いた目を閉じようとした時、松井が何かを持っている事に気付いた。
気になったので取ってみると、そこには細いチェーンと先端が尖ったロザリオ。
「もしかしてこれが松井の装備だったのか?」
『新たな未登録武具の装備を確認。複数の装備が現状の器では耐えられない為、器の最適化を実行します』
「ぐっ!!」
アナウンスと同時に身体中が熱くなる。最適化ってなんだ?俺の身体に何が起きている。
突如倒れこんだ俺の様子にリスナー達が騒いでいるようだ。
だが、俺にそれを確認する余裕はない。周囲が暗転していき、そのまま意識が途切れてしまうのだった。
―――――――――――――――――
「――――あるじさま! あるじさま!!」
誰かが俺を揺すっている。この声は……どこかで聞いたことがある。
どこでこの声を聞いたんだっけ?
薄くなっていた意識が徐々にはっきりしてくる。そして目を開けると目の前には狐の耳と尻尾を生やした可愛らしい巫女服幼女が泣きそうになりながら俺を揺らしていた。
この子がどうやら俺を起こしていたらしい。
「あるじさま?」
「よかったなの! おきてくれたなの!!」
起きたのがよほど嬉しかったのか、そのまま抱きついてきた幼女に困惑してしまう。
「えっと、君は誰かな?」
「きつねびはきつねびなの!」
初対面にも関わらずまるで家族のように感じるその幼女の名前は『狐火』というらしい。
狐火って狐の火? だからこの子には狐の耳と尻尾があるのか?
「あ、刀を抜いてって言ってくれた子か」
思い出した。あの時に声をかけてくれたのは間違いなくこの子だ。
「そうなの! きつねびがおねがいしたなの!!」
元気に返してくれたその姿にホッコリしていると目の前にカメラがやってきた。そこには新しいコメントが溢れている。
‘‘通報しました‘‘
‘‘かわゆす‘‘
‘‘何この可愛すぎる生き物‘‘
‘‘死ぬってか死んだ‘‘
‘‘俺も主様って呼ばれたい‘‘
‘‘あぁ、そのモフモフに埋まりたい‘‘
‘‘ここに変態がいます! あ、俺もだ‘‘
狐火を賞賛するコメントばかりだ。俺より目立っているのは間違いない。
まぁそれはいいや。別に俺が目立ちたい訳じゃないし。それより、新しく出会った人だ。しかも何か事情を知ってそうな感じがする。何とか情報を得たい。
「なぁ、狐火?」
「あるじさま、なんですなの!」
ニッコニコでこちらを見てくる。別に後ろめたい事を聞く訳ではないのにどうも聞きづらい。だが、このままって訳にもいかない。
「なぁ、ここってどこなんだ?」
意を決して狐火に訊ねる。すると、狐火は考える素振りを見せる。答えをまとめているのだろうか? ぶつぶつと独り言を言っている。
その様子をじっと待つ。こんな小さな子に聞かないといけない状況が情けないが、少しでも情報を得る為には仕方なかった。
幸いにもそんなに時間が掛からずに考えがまとまったのか、こちらを向いた。
「まず、ここはだんじょんなの! そしてあるじさまたちはえらばれたなの!!」
ダンジョンって部分は最初のアナウンスにもあったから納得できるか別としてまだわかる。だが、選ばれたってのはどういう事なのだろうか?
「選ばれたってのはどういう事なんだ?」
気になる事は山ほどある。だが、ずっと聞く訳にはいかないようだ。
「ぐぎゃぎゃぎゃ! ぐぎゃ!!」
先程逃げたゴブリンだろうか? 仲間を集めたのだろう。両サイドから挟み込んできた。しかも先程と違い、弓矢を持っているやつまでいるみたいだ。
「くそ……。話はあとだ。ここをどうにかしないと。ってあれ? 刀がどっか行った!?」
いつの間にかどこかに消えてしまった俺の刀。鞘は床に落ちているのだが、肝心の刀がどこにも見当たらない。すると狐火がキョロキョロしている俺の手を握ってきた。
「だいじょうぶなの! きつねびといっしょにあんなのやっつけるなの!」
「何を言ってるんだ! そんな事より早く逃げ――――!?」
狐火を逃がそうとしたその時、幼女だった狐火が刀へと変化する。あり得ない変化に俺は驚く事しか出来なかった。
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