第1話

 五月の中旬ともなれば、少しずつ夏に向けて気温が高くなり始める頃だ。昼頃にもなれば、個人にもよるが汗も少し出てくる人もいるだろう。


 前世の頃はもうこの時期からタオルが手放せなくなったなーと、昔を思い出しながら、自室のドアを背もたれにしながら、目的の人物を待つ。


 結局、師匠は一週間の休みをユウラシアとの訓練に当ててくれた。


 有難いとは思ったが、貴重な休みを全部訓練に使っても良かったのかと聞いたのだが。


「うん。全然大丈夫だよ!それに、アークくんにも会えるし!」


 とのこと。天使か。


 まぁあの人が可愛くて強くてさいきょーだと言うことは自明の理である。夏休みの時どこか遊びに誘おう。


「ふんふふーん。さて、今日はどうやってユウラシアくんを実験に────おや?」


 と、ようやっと来た────ってちょっと待て。ユウラシア既にもうこの人の実験に巻き込まれてるんか?


「おはようございます。先輩」


「おやおや。君は出会って初日にガンダッシュしたアーク・マーキュリー君ではないか」


 そんなこともあったね……と、その日のことを思い出しながら待ち人である彼女の姿を見る。


 アリアナ・タクルオン。なんの異能も持たず、頭脳だけでSランクになった人類の頭脳とも呼べるマッドサイエンティスト。アニメでは、ユウラシアに様々な実験に付き合わせ、度々トラブルを起こしているが、力を手に入れる手助けもしている。


 生憎とヒロインではなく、お助けキャラ的な立ち位置にいる彼女であるが、それでも視聴者人気は高かった。


 ………やっぱり、低身長の子がダボダボな白衣着てると人気出るんかね。


「それでどうしたんだい?声をかけたということは、私になにか用事でも?」


「────あなたの頭の良さを買って、頼みがある」


 さてさて、今回俺が今まで接触を回避し続けていたこの人と接触したのは理由がある。


「──────────」


「………ふーん?」


 俺が、その要件を言うと、アリアナはオニキス色の瞳を見定めるようにして俺を見てきた。しばらくして、何故かは知らないけど形のいい唇をニヤリと歪ませる。


「────いいよ。もちろん、条件があるけどね」


「ありがとうございます。人体解剖とか、俺の体に悪影響を及ぼさないのであれば、付き合いますよ」


「なるほど。君が私のことをどう思っているのかよく分かったよ」


 じとり、と今度は別の意味で見つめられた。ナ、ナンダッテー。ドウシテバレタンダー。


「全く。私がそんなことするわけないじゃないか。失礼するね」


 嘘こけ。もう暫くしたらユウラシアが一日中女体化するんやぞ。信じられるかその言葉。今度は俺がじとーっと見返す番であった。


「まぁいい……はいこれ」


「薬品ですか」


 ガサゴソ、とアリアナが薬品を入れるポーチから取り出したのは、緑色の液体が入っている試験管である。とりあえず渡されたので、手に持って見て軽く振ってみる。


 ふむ……泡が立たない……ほなメロンソーダちゃうかー。


「これは?」


「肉体強化薬の試作品だ。私が作った魔法陣小型刻印システムは知ってるか?」


「いつもお世話になってます」


 そりゃもう、そのシステムをふんだんに使ってますからね。知らないわけが無いですよ。


「魔法陣は、従来ならば無機物や人体にしか刻めないという常識があるが、新たに液体にも魔法陣が刻めないかという実験をしていてね。ひとまず、ようやくただの水が魔力によって光ったのを確認したから、次は人体の中に入っても機能するか試したくてね」


「なるほど?」


 ちなみに聞きますけど、これ何の水をベースにしたんです?その説明ならこれ緑色にする必要ないんじゃないですか?


 どうしてわざわざ不安を煽るような色にしたのか。そのコンセプトだったら普通の水でいいじゃん。


「その液体には、試しに身体能力を強化させる魔法陣を刻印してある。ささっ、ズイっと」


「………………………」


 キュぽん、と試験管の蓋を開ける。とりあえず匂い……はしないか。


 ……ええいままよ!


 ぐいっ!と勢いよく試験管を傾けて、液体を飲む。味は普通の水だな……と思いながらその液体を飲み込んだ俺は──────


「キャー!?アークくんがなんでか知らないけど虹色に光ってるー!!」


 ────何故か全身が虹色に光輝き、ゲーミングアークが完成したのだった。





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おい誰だよゲーミング○○○なんて言ったやつ

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