第2話 パンドラの箱 ②
7月の最初の週末
曽祖父母のリクとメグから誕生日のお祝いに貰った新しいマウンテンバイクで、
僕は日課である朝のツーリングに出かけた。
父ケントが今回の東京行きには参加せずに、
僕とリクのいるこの家に留まることにしたのは、
おそらくは息子の僕と一緒に過ごす時間を持とうと意識したからだと感じ取っていた。
しかし僕は両親との親子の演じ方がどうにもわからなくなっていた。
息子の僕や弟のレイと過ごす生活よりも
研究者としての生き方を優先している両親。
特に母親に対しては、
ある種の嫌悪感に近いような感情すら抱いていた。
父とできるだけ顔を合わせないようにする為にどうしたら良いか
僕はそんなことばかり考えながら、
丘の方向に向かってマウンテンバイクを走らせていた。
すると僕はふと、
曽祖父リクから誕生日のお祝いにとマウンテンバイクと共に貰った『宝の地図』の存在を思い出した。
「気が向いたら、宝探しでもしてごらん」
僕の9歳の誕生日の日、
リクは僕に一枚の古びた手描きの地図を手渡した。
その日の午後、
僕は『宝の地図』を頼りに
庭に出て探索を始めることにした。
外気温35度の外に自ら決意して身を投じたものの、
頭がクラクラするほどの陽射しとムシ暑さでどうにかなりそうになった。
それでも、
ある種の期待と興奮が僕を突き動かしていた。
家の庭で地中レーダーを片手に約1時間ほど格闘した末に、
ようやく庭の地中に眠る何かをレーダーが捉えた。
「この地図位置とは、まったく違う場所じゃないか」
しかし一体、
地中レーダーが映し出したこの印影の正体は何なのだろう。
「地中レーダーに何か映りました!おじいさまー!おじいさまーー!」
3階にいる曽祖父に大声で叫んでみたが、
窓が開いていたのに部屋の中にいる彼の所までは僕の声は届いていないようだった。
「全くもう!僕が熱中症になって庭で倒れていても、誰も僕に気が付かないだろうな」
レーダーの反応を更に強化して、
その印影を画面に更に大きく映し出した。
「うーん……地表から2メートル位の深さにあるだろうか」
「ユージン!何か地中レーダーに映るものがあったのか?」
後ろの玄関の方から父ケントが僕を呼ぶ声がした。
僕は後ろを一度振り向いたが、何も言葉を発することなくまた宝探しに集中した。
「…この形は箱かな?」
地中レーダーの画像を更に大きく拡大する。
その時、背後に父が来た気配がした。
すると父は僕の頭に僕のお気に入りのBoston Red Soxのキャップを被せた。
「熱中症になるぞ!気をつけないと」
「……ありがとう」
僕は黙ったまま、
父にレーダーに映し出された印影を見せた。
「それほど深いところにあるわけではないな…これだと、せいぜい地表から1.5メートルの深さだ。倉庫の中に小型の掘削機がある。掘ってみるか?」
父が僕に言った。
考古学者である父にとって
土を掘り起こすなどは手慣れたことだった。
「掘削機を取って来ます」
僕は倉庫の奥にある父の研究用の簡易掘削機を取りに走った。
「ユージン!おじいさまに庭に大きめの穴を開けると伝えて来てくれるかい?掘削機は父さんが準備しておく」
「はい……わかりました」
僕は玄関のドアを思い切り開けて靴を急いで脱ぎ捨て、
上の階にいるリクのところへ階段を一気に駆け上がって行った。
「おじいさま!リクおじいさま!」
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