吸血鬼ライフはむずかしい!~入れ替わり吸血鬼と錬金術~
熱菜 蒼介
序章 ファム・ファタール
プロローグ ネズミ喰いの女
ぐちゃ、ぱきっ、ぴきっ
歪な音が、雪の降る街中の路地裏に響く。
それはまるで、水分を大量に含んだ物を強引に狭い口内に押し込んだかのような。
それはまるで、必死に何かを咀嚼するかのような。
それはまるで、小さく硬い骨のようなものが折れる音のような。
そんな、何かを食べるという当たり前の行為ながらもどこか歪な音が、その路地裏には響いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……あぐっ、んむっ、ごくっ」
そして、息を荒げながらも音の発生源……何かを必死に喰らうその黒髪の少女は、音が響くのも構うことなく、手元のソレに噛みつき、砕き、飲み込み続ける。
それは空腹を満たす為の行為……というよりも、自分の何かを必死に誤魔化すような行為に見える。
「きゅっ、きゅきゅっ?」
そんな咀嚼音を鳴らし続ける黒髪の少女の元に、小さな動物が現れる。
何かを必死に食べるその少女の足元には……一匹のネズミがいた。
「…………」
自身の傍に現れたネズミの存在に気が付くと同時に、少女は手元のソレをぼとりと床に落とした。
次の瞬間、ぐうぅとまるで場違いな腹の鳴る音が響き……少女はその手を伸ばし、
地を這うネズミの身体を掴んだ。
「きゅ、きゅき――ぎゅ゛っ!?」
掴まれた手の力が強かったのだろう。ネズミが小さく声を上げ……
ぐぢゃ゛り゛
真っ暗な路地裏にひとつ、肉と皮をぶち破り、骨を砕く咀嚼音が響く。
ネズミを喰らう黒髪の少女は、無我夢中でネズミを貪り続ける。
「あむっ、んぐっ、ふぐっ!!」
無我夢中になってネズミに噛みつき、肉と血を胃の中に流し込む。
「んぶっ……」
しかし、突然苦しむ声を上げ……少女は自身の口元に手を当てる。
「お゛え゛!?」
ネズミの肉を受け付けられなかったのだろう。少女は凄まじい吐き気に襲われるが……必死に手で口に蓋をする。食べた量が多かったのか、小さな指の隙間から咀嚼しきれていないネズミの血肉が漏れそうになってしまう。
「はぁ、はぁ……まずい……」
そんな言葉を零しながら、少女はゆっくりと起き上がり、ネズミだったものを床に落とす。
「はやく……戻らなきゃ……」
ブツブツと、うわ言のように喋りながら、彼女はフラフラと彷徨うように歩きながら、路地裏の奥へと進むのだった。
「誰かを食べる前に……はやく、戻らないと……」
「ねぇ、知ってる? ネズミ喰いの女の話」
「なにそれ」
とある街中にある、人の賑わう駅前のファストフード店。そこでは、女子大生と思わしき女性二人がそんな話をしていた。
一人はメガネをかけつつ、茶髪に染めた髪を三つ編みで一本に纏め、清楚な印象が強い文系の女子大生。白いロングスカートに、茶色いコートがよく似合っている。
そしてもう一人は、肌が色白ながらも、それ以上に明るい金髪に髪を染めた、いかにもギャルといった風貌の女性である。外の気温に対して布面積が反比例しており、モコモコと暖かそうな灰色の上着を纏いつつも、僅かに腹回りを露出している。何か意地でもあるのか、黒いジーパンにはダメージが入っていた。
「最近、夜中に現れるっていう、ネズミを食べる女の人の話」
「なにそれ、新手のオカルト?」
眼鏡をかけた女子大生は、金髪の女子大生が振った話題に対し、どこか興味を持った様子で耳を傾けていた。
「それがさ、うちのパパ警察官だから、酔っぱらった時に色々と教えてくれるんだけど……この噂、ガチみたい」
まるでとっておきの情報を開示するかのように、金髪の女子大生は話す。
「……それで、そのガチ話の詳細は?」
「さっき話した通りの内容が7割。
「好きというか……私の場合、趣味というか……」
好きと趣味の間にどこまでの違いがあるのか。そんな事を考えながらも、どこか端切れの悪そうに答えるメガネをかけた女子大生。
「それに……私、先週の忘年会の帰りに見たの! ネズミ喰いの女!」
どこか興奮した様子で語りかける金髪の女子大生の様子に、言葉を詰まらせる彩祢だったが……その話を遮る者が現れる。
「ねぇ君たち、良かったらその話、僕にも詳しく聞かせてくれないかな?」
「「え?」」
声が聞こえた方向に二人が視線を向けると……そこには、紺色のコートを着た黒髪の青年が立っていた。非常に端正な顔立ちをしており……耳には、十字架を模したピアスをしている。
「え、やだ……超イケメン」
「ちょっ、
金髪の女子大生……真奈が思わず零した言葉に、彩祢がツッコミを入れる。
「あぁ、突然話しかけてごめん。僕はオカルト雑誌のライターをやってる者なんだけど……この町で最近、都市伝説が流行ってるみたいだからさ。都内の方から取材に来たんだ」
完結に自分の情報を開示し、青年はコートのポケットからメモ帳とボイスレコーダーを取り出した。
「それで、詳しく聞かせてくれないかな? そのネズミ喰いの女の話」
どこか貼り付けたような笑みを浮かべながら、青年はインタビューを始めるのだった。
「…………」
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