生まれ変わったら、血に濡れたい〜最も正義感のないダークヒーロー〜(仮称)
アダムスイヴス
幼少期 編
転生からの殺生
ファンタジーでも戦記でも、なんだっていい。
俺は戦える場がほしかった。
現状、その力があるかと問われれば、ない。
はっきり言って、俺は地味な男の地味な人生を歩んでいる。
だからなのかもしれない。
俺は死と隣り合わせの戦いをしてみたかった。
この世界は何でも法、法、法と縛られていて息苦しい。
その息苦しさを耐え凌ぎ、なんとか会社勤めをして社会の色に染まろうとしていた、そんなタイミングだった。
幸か不幸か、俺はたまたま居合わせてしまった火災現場で、命の灯を消すこととなった。
ああ、死ぬときはこんなものか。
苦しさなんて微塵もなかった。
むしろ、これで人生を終えられるという満足感さえある。
来世はせめて、戦国時代や魔法の世界に生まれ変わりたいものだ。
俺の人生はこれにて暗転する。
◆――◆
目を覚ますと、木造建築の屋根が目に入る。
ん? 俺は死んでいないのか?
メラメラと焚火をしているような音。
俺はそちらに視線を向ける。
うん、どうやら絶賛火事現場にいるようだ。
すると、俺はまだ死ねずに意識を取り戻したということか。
仰向けのまま身体を起こすのが難しい。麻痺しているのかもしれない。
橙色に染まる部屋。
おや、ここはどうにも俺の知らない場所だということに気が付く。
「おい、こっちにガキがいるぞ!」
小汚い男が鉈を手に持って近付いてくる。
その男と目が合う。
血走った眼には殺気が漂っている。
「まだ赤子を殺したことはねぇんだよなぁ~」
なにを言っているんだ、この男は。
鉈の刃を俺の首に近付けてくる。
「怖がらなくても大丈夫でちゅよ~。痛くないように、サクッと斬ってあげましゅね~」
非常にやばい。
ただ、この状況で理解できないのは、俺がこの男に殺されようとしていることではない。この男が、俺を赤子扱いしていることだ。
男が鉈を振り上げる。
くそっ、死ぬのは構わないが痛いのは嫌だ。
仰向けのまま、俺は腕を必死に上げて抵抗しようとした。
ドーーーーンッ!!!
激しい音。火事による崩壊か?
いや、違う。男の首から上が失くなっており、それに続く天井にも大きな穴が開いていた。
俺は視界に移った自分の小さな小さな手を見て、呆然とした。
(おいおい、まじかよ。俺、本当に赤ちゃんになってんじゃん)
ちなみに、男を殺したのが自分の力に因るところだとわかったのは後日のことである。
まさか、自分の力で人間の首が吹っ飛ぶなんて想像もしていなかったことだし。
「隊長、こっちに幼子の生存者がいます!」
救援と思しき騎士に抱かれ、俺は暑苦しい部屋から解放される。
赤ちゃん目線で若き騎士の顔を見ていると、彼は爽やかな笑顔で「大丈夫だよ」と声を掛けてくる。
この状況は、死に際に見ている夢なのか?
あるいは死後の世界を体験しているのか?
いや、これは俺が知るに異世界転生というものかもしれない。
漫画にアニメ、映画に小説。
あらゆるエンターテイメントで得た知識から導き出した答えは、それしか考えられなかった。
なるほど。第二の人生を与えられたということか。
果たして、この時代はどんな世界なのか。
できれば、平和なんて生温い世界でないことを祈る。
――戦争、奴隷、貧困差別、独裁国家、カルト宗教、魔法学園、騎士団、ギルド、魔物、悪魔――
なんだっていい。
刺激的な世界、血塗られた世界を求む。
俺はそう強く願ったのだった。
◆――◆
アーク・バルグデル。
俺に与えられた名であり、バルグデル家の養子として迎え入れられる。
なお父親のイグザは、爽やかな笑顔で「大丈夫だよ」と俺を抱きあげたあの若き騎士である。
彼は25という若さであるが、立派に騎士としての仕事を務め、同時に俺を含めた二人の子供の親でもある。
母のシャーリーは品の良い顔立ちであり、実際にお嬢様育ちというのが窺える所作をすることが多い。
こういった両親を持ったことで、俺は割かししっかりとした養育を受けて育つことになる。
5つ年上である姉のサマンダは、男勝りで町一番のおてんば娘で腕っぷしもある。
だが、これが中々のブラコンで、俺を前にすると常にくっ付いてきて離れようとしない。
母の血を引継いでいることもあって、将来は結構な美人になるのではないかと俺は期待している。別にそこに疚しい気持ちがあるわけではないと、あえて言っておく。
―この世界は面白い―
あらゆるところで血の匂いがしているからだ。
国同士の戦争もあれば、不法地帯もあり、魔物や魔王まで存在しているときた。
騎士団、勇者、魔法使い、盗賊に海賊。
それにギルドや騎士団学校、魔法学園もある。
戦い、戦い、戦い。
こんなにも希望に満ちている世界に、俺はやってこれたのだ。
だが、慎重に動かなければならない。
血が多い世界だからこそ、下手に行動すれば簡単に斬り捨てられ食われる。
折角この世界に生まれ変わったのだから、長く楽しまなければ。
◆――◆
齢3才となった。
この頃には、俺のお株は天才少年という肩書で塗られていた。
1才にして、この世界の読み書きをマスターし、世界状況を理解する。
まぁ、ここまでは前世の記憶を持つオッサンであるわけだから当然の話。
父に木刀を握らされ、打ち込みをすることになった。
前世では剣道の経験もなければ、チャンバラすらろくにしたことはない。
転生してチート能力を得るような馬鹿げたフィクションは幾つも見てきた。
まさか、それがそのまま現実になろうとは思ってもみないので、俺は初戦にして父親を軽く蹴散らしてしまったのだった。
もうね、ここまでくると自分の才能を隠す気すら起こらないわけだ。
「アー君、すごい! やっぱ、アー君は天才だね!」
サマンダに抱きつかれた俺は歯を見せて笑った。
この世界では愛想の良いキャラを演じることにする。
色々と考えた結果、そのほうが相手の懐に入りやすそうだと思ったからだ。
「ア、アーク。本当に誰にも教わっていないんだよな?」
「うん、そうだよ。だって僕はまだ3才だよ?」
「そ、そうだよな……ははっ」
父の驚きは鳩が豆鉄砲を食ったようで面白かった。
どうやら、俺は転生したことで本当にチート級の身体能力を手にしたようだ。
だけど、これは少々やり過ぎてしまったようだ。
父イグザの俺に向けられる態度が、その日から変化してきたのだ。
最初は戸惑い。次第に化物を見るような目になり、怯えとなる。
4才のときには、声を荒げて「近寄るな、化物!」と俺にモノを投げつける始末。
母や姉はそんな父に反発し、段々とイグザは孤立していく形となった。
5才。遂に母と姉。そして俺は、父を置いて田舎町に引っ越すこととなる。
平和で安全だった王都から、危険が近い田舎町への移転。
そして5才というのは、魔法を正式に使用してもいい年齢。
魔法認定儀礼というものを受けるのだが、そこで魔力量を測った俺は――。
――――――――――
彼は自分の欲のために動く。生かすも殺すも彼の気分次第。
応戦や復讐を請け負うのは誰が為?
貪欲に動いていた彼は、いつしかダークヒーローと呼ばれるように。
彼は世界の正義か? 悪か?
ここに最強にして最恐残忍の男が誕生する。
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