第5話 反旗⑤

それからしばらくして俺たちはイズミルの軍港についた。港に降り立つと懐かしい景色を見ることができる。幸いアカル侯爵領ではそこまで深刻な経済危機に放っていないが、それでも好景気というわけでもないので、新しい建物を建てるといったことも厳しいのかもしれない。


ただ、これからはそれどころではなくなる。ここが戦場になる可能性だってあるのだ。巻き込まれる一般人には非常に申し訳ないが、こればっかりはどうしようもできない。


「イドラ艦長、ありがとうございました。お元気で」


俺はイドラ艦長にそう言って別れを告げると護衛を引き連れて軍港を後にする。次に会うときはお互い敵同士かもしれないのだ。


俺はイズミル海軍基地を出るとそのまま自分が育った場所でもある屋敷に向かう。


うちの領では小さいころから領民とのかかわりが強いこともあり、すれ違う町の人から何回も声をかけられる。みんながいい人だ。そんな人たちを戦乱に巻き込んでしまうかもしれないということを考えると本当に申し訳なく思う。


とにかく俺は屋敷につくと門番をしている兵士に顔を見せる。


「エミル様ですか!」


「久しぶりだね」


「いきなりどうされたのですか?」


「いや、少し父さんと話したいことがあってね」


「なるほど。当主様なら屋敷の中にいるはずです」


「わかったよ。ありがとう」


俺は門番と別れると屋敷の敷地内に入る。屋敷とは言っているがそこまで大きな庭があったり、とんでもなく豪華な建物なわけでもない。


俺は屋敷の中に入り父さんがいるであろう執務室に向かう。そこに行く間にも何人かのメイドにすれ違い、その全員が俺のことを驚いた眼で見てくる。


まぁ、しょうがない。ここを出てからというもの忙しくて帰ってくる機会なんて全然なかった。


執務室の前まで来ると俺はノックをして中に入ってもいいか問う。


「入ってくれ」


そう返答が帰ってくると俺は扉を開けて室内に入る。そこには多くの書類に囲まれながら仕事をする父さんの姿があった。


「何の用だ?今は忙し…エミルか?」


「えぇ、お久しぶりです。父さん」


俺がそういうと父さんは椅子から立ち上がってこちらに歩いてくる。そして俺の前で止まるとガシッと俺のことを抱きしめた。


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そのころ帝都オデッサ。


「エミルを国家反逆罪で捕まえろ!絶対にだ!そのためならどんなに金をかけてもいい!」


「しかし皇帝、今の我が国には軍隊を動かすような力はとても…」


「言い訳はどうでもいい!今すぐにあやつの首をここに持ってくるのだ!」


「それならば私にお任せを」


そういったのは若い男性の将校。彼の名前はカエサル・サンバール。皇帝の血を引くサンバール公爵家の次男であり、上にのし上がろうとする野心のあふれる軍人だ。

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