第25話:リック



「ほぉ。では英雄様はこの街に探し物をしにきたと?」


「その呼び方はやめろ。ギルドはどんな冒険者に対しても公平であるべきだろ?それにこういうところを見た他の冒険者にやっかまれるのはいい加減うざい」


「ふむ?俺は嫌味でそう呼んだつもりだが?」


「なるほど。じゃあ、そっちの方がまだいいわ」


「ガッハッハッハ!!こりゃ、敵わんな!!流石は英雄様だ!!」


「ここのトップは頭がおかしいのか?」


「あはは…………」


俺の指摘に苦笑いをする受付嬢。この受付嬢は俺がギルドを訪れた時に暇そうに欠伸をしていた為、大人数で並んでも迷惑にならないかと思い、相手をしてもらったのだ。


「で?ギルドマスターである俺に一体、何の用だ?」


「別にお前に用なんかねぇよ。ギルドカードを見せた瞬間、お前が奥から出てきたんだろうが」


「そんなつれないこと言うなよぉ〜。俺でも力になれるかもしれないだろ?いいから、言ってみ?ほれ、ほれ」


「いちいち反応がうざい奴だな………………じゃあ、期待はしないが一応訊くぞ………………"金鎧"って知ってるか?」


「ふむ。金鎧か……………」


「おっ、その反応はまさか……………」


「いや、すまん。全く聞いたことがないわ」


「知らねぇのかよ!だったら、思わせぶりな態度取んな!」


「あっ、私それ聞いたことがあります」


「何で受付嬢が知ってて、ギルドマスターが知らねぇんだよ!ってか、何で受付嬢が知ってんだよ!」


「ええっ!?何で知ってんの!?」


「何でお前が驚いてんだよ!ってか、ここのギルドどうなってんだよ!」


「ほら、ここ超暇じゃないですか?だから、ここに座ってボケ〜ッとしてたら、冒険者の方々のお話が時々聞こえてくるんですよね」


「いや、ちゃんと仕事しろよ」


「なるほどな」


「腕組みながら、深く頷いてんじゃねぇよ。部下がサボってんだから、注意しろよ」


「で、その方々のお話によるとですね……………」


と、そこまで受付嬢が言いかけた時だった。すぐ側から声を掛けられたのは。


「金鎧を探してるんだって?俺が力になろうか?」








「俺の名はリック。Bランク冒険者をしている。よろしくな」


「俺は…………」


「ああ、自己紹介は不要だぜ?あんたのことを知らない奴は同業者じゃ、まずいないんだ。もちろん、そちらのお仲間さん達もな」


そいつは一見すると怪しそうな奴だった。灰色の短髪に黒の眼帯、全身が日焼けサロンにでも入ったかのように真っ黒に焼けており、服の上からでも分かる程、筋肉質な身体をしていた。それと全身から漂う雰囲気からいってもBランク冒険者というのはまず間違いなかった。そんな奴の話を素直に聞いた理由だが……………これは完全に勘だった。


「それは助かる」


「どういたしまして。んじゃ早速、本題に入ろう」


そう言って、リックが懐から取り出したのは1枚の金色のメダルと何かが記された地図だった。


「これらは両方とも金鎧の手掛かりとなるものだ……………その前にまず、金鎧についてどこまで知ってる?」


「金鎧とは金鎧シリーズと呼ばれる4つのものを指す。それらを全て集めると何でも1つだけ願いが叶うといわれており、製作者は稀代の天才鍛冶師である"クニミツ"…………違うか?」


「いいや、合ってるぜ。この金鎧シリーズはあんた達、冒険者の間でもそうそう知られていない、いわば幻のものだ。噂はあれど、実在するなどと信じている者はごく僅か。そりゃ、そうだろ?たった4つ集めるだけで願いが叶うなんて、そんな都合の良い話があってたまるか」


「その集めるのが大変なんじゃないのか?」


「お察しの通りだ。それでこれらだ」


リックはそう言うとメダルと地図を指差した。


「この金のメダルはクニミツが金鎧を作った際に出た材料の余り部分を利用して作られたものだ。そんでこっちの地図はかつて金鎧を探していた冒険者が書き記した地図だ。ここには金鎧の在処が記されている」


「つまり、前任者は失敗したってことか?」


「らしいな」


「らしい?以前にもこういう感じで誰かに声を掛けていたんじゃないのか?それでそいつが失敗したから、今度は俺達に声を掛けた………………金鎧探しを手伝ってもらう為に」


「俺はまだ何も言ってないぜ?」


「じゃあ、何故そんな話を俺達にした?しかもそんなものまで見せて」


「………………」


そこで一瞬、黙り込んだリックは少し間を置いて、こう言った。


「このメダルと地図はあんたが言う前任者に託されたんだよ。俺には無理だから、頼むと。そいつと俺は親友でな……………こうなったら、親友の為にも頑張るかと思ったところにあんた…………シンヤ達がやってきたんだ」


「…………それはタイミングが良かったな」


「…………それはお互い様だろ?」


俺達はそこで軽口を叩き合うと互いにニヤリとした笑みを浮かべた。


「交渉は?」


「成立だ」


俺はリックと固く握手を交わすとゆっくりと席を立った。すると、最後にリックはこう言ってきた。


「あっ、そうそう。金鎧が全て集まったら、"ミツクニ"という国に向かってくれ。そんで辿り着いたら………………」


そこから先の言葉は予想の斜め上をいくものだった。

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