第22話:人格



「さて、話をする前にまず、尋ねたいことがある……………お前は一体誰だ?」


俺は目の前に座るビオラ……………であるはずの人物へとそう問いかけた。


「あたしの名はセキレイ。ビオラの中に住むもう1人の人格だ」


「もう1人の人格?」


「ああ。あたし達は生まれた時から、ずっと一緒なんだ。っていっても普段、表に出ている人格はビオラであたしはその間、裏人格としてずっと引っ込んでいるんだが、彼女が固有スキルである"覚醒"を使うとそれが逆転するんだ」


「ということはさっき出ていた人格は……………」


「紛れもなく、あたしだ」


「……………」


「本当にごめんなさい。入れ替わった直後は精神が昂ぶり、思ってもみない行動に出てしまうことがある。それはビオラも分かっていたはずなんだが、おそらく焦りとあたしにこれ以上心配かけたくないという気持ちによって、スキルを使ってしまったんだと思う」


「「「「「………………」」」」」


「本当にごめんなさい」


ビオラ……………いや、セキレイは俺達、とくにニナ達へ向かって深々と謝罪する。危うくニナ達の命を危険に晒すところだったと本人も分かっているのだろう。彼女の謝罪からは本気の反省が窺えた。


「…………今、ビオラはどうしてるんだ?」


「あたしが表に出ている間は眠っている。その間の記憶はないから、あたしが体験したことは全て口頭で伝えることにしてるんだ」


「ん?その理屈でいくとビオラが表に出ている間、お前があいつを心配などできないんじゃないのか?なんせ、裏に引っ込んだお前はその間の記憶がないんだろう?」


「いや、あたしの場合は違うんだ。ビオラが表に出ている間もあたしはちゃんと同じ体験をすることができる。だから、さっきの対戦中にあたしが心配していることをビオラは察知したんだ」


「ちなみにお前らは会話が可能なのか?」


「うん。ビオラが表に出ている間だけね………………だから、あたしは必死に止めたんだよ?いきなり、人様のご自宅にアポなしで向かうなんて非常識だって」


「……………なるほど。どうやら、お前の方はいくらか話が分かるみたいだな」


「あたしなんて全然……………結局、ビオラを制御できなかったし」


「そうか。止めてくれて、ありがとう。あと、悪かったな……………色々と強い言葉をぶつけてしまって」


「ううん。逆にありがたかったよ。あたしもビオラと似たようなもんだから」


そう言って、少し目を伏せて寂しそうにするセキレイ。彼女は今、何を思い、何を考えているのか………………その心中は計り知れなかった。


「そういえば、この後はいつ入れ替わるんだ?」


「う〜ん……………その時によるけど、だいたい30分ぐらいかな」


「と、すると…………もうすぐか」


「うん。だから、この際に訊きたいことがあったら、何でも言って。そのぐらいしか、あたしにはできないから……………というか、それがあなた達にできる最大限の償いだと思う」


「それはニナ達にしたことを言ってるのか?」


「……………」


「ニナ」


「はい」


「お前はこいつにされたことを許せないか?」


「いいえ。たった今、謝ってもらったばかりですし……………あと、こんなことを言うとせっかく助けてくれたシンヤ様達に申し訳ないのですが」


「?」


「私はあんな貴重な体験ができて、とても良かったと思います。私達はこれから先もまだまだ強くなりたいので……………その際に外から来た強い人と戦えるチャンスなんて、滅多にないです。だから、今日は良い機会を頂けて、とても嬉しいです。皆さん、ありがとうございました!!」


ニナ、それから彼女の言葉に頷いていた4人も一斉に俺達に頭を下げる。その中にはもちろん、セキレイとビオラも含まれていた。


「というか、セキレイさん…………とビオラさん、凄いです!!私、人格が入れ替わる?なんて話、聞いたことないです!!私、セキレイさん、大好きです!!」


そう言うとニナは徐にセキレイへ向けてダイブした。セキレイはそんな人懐っこいニナに対して、あわあわと困惑気味だったが……………


「そ、そんな、あたしは」


「えへへ」


「も、もう…………仕方ないな」


満更でもなさそうに頬を赤くしていた。一方の俺達はというと時々、入るニナの謎スイッチに対して、頭を悩ませていた。


「あ〜……………話を戻すぞ?」


「っ!?ご、ごめん!!」


「は〜い!」


俺の言葉に対して、ハッと我に返るセキレイと無邪気な笑顔を浮かべて俺の側まで戻ってくるニナ。俺はそれを仕方ないなぁと思いつつ、隣をチラッと見るとそこにはニナを凄い形相で見つめるティアの姿があった。


「………………」


「ひっ!?す、すみません!!」


声こそ発しないものの、視線だけでティアの言いたいことを理解したのか、ニナはビクッと怯えて思わず、俺の腰に抱きついてきた。そして、それによって、ティアはさらに額に青筋を浮かべ、事態を悪化させてしまうのだった。


「ごほんっ………………セキレイ」


「は、はい!!」


今のやり取りを視界の隅で捉えていたはずだが、巻き込まれたくないのか、瞬時になかったことにするセキレイ。その時点で彼女はビオラよりも切れ者なのは確実だった。


「お前に訊きたいことだが……………」


俺がそうやって切り出した質問はビオラにとって……………そして、セキレイの今後に関わるものだった。


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