第21話:覚醒



「「「「「はぁ、はぁ、はぁ……………」」」」」


戦いが始まって、数分。ニナ達は息を荒げながら、ビオラを見据えていた。しかし最初から、全力な為、それも致し方ないことだった。問題はそんなことではない。


「みんな、再びいくよ!!」


「「「「うん!!!!」」」」


ニナ達5人の華麗なチームワークでの攻撃をビオラが対処できているということだった。とはいってもビオラも無傷という訳ではない。


「くっ…………これはなかなかに厳しいな。仕方ない。アレを使うしかないか」


ローブの中から取り出した剣を使い、ニナ達の攻撃に対応しているのだが、流石にその全てを捌き切れてはいなかった。そのせいでところどころ、身体に傷ができてきている。


「"覚醒"!!」


と、そうこうしているうちにビオラが奥の手を使い始めた。その瞬間、俺とティアはお互いに顔を見合わせ、最悪の事態に備えた。


「お前ら!ビオラから距離を取れ!迂闊に近付くな!」


「勝てないと感じたのなら、手出しはせず待機していなさい!」


俺とティアの言葉にビクッと身体を震わせながら、後ろに下がるニナ達。流石に彼女達も感じているのだろう………………ビオラに起こった異変に。


「ううっ……………うああああっ〜〜〜!!!!」


ニナ達が様子を見る為に後ろへと下がった瞬間、それは起こった。突然、叫び声を上げたビオラ。それに伴うようにして、彼女の周りから膨大な魔力が迸り、それらが一斉に彼女へと覆い被さると次の瞬間、その様相が一変していた。


「「「「「っ!?あ、あれは…………」」」」」


ニナ達がその異様な様に対して、恐怖すら感じ始めていた時、俺はこの状況にどこか既視感を覚えていた。


「ふうっ〜〜〜。まさか、これまで使わされるとは……………」


ビオラの様子だが…………まず頭からは真っ赤な一本の角が、そして背中からは黒と白の大きな翼が生え、両眼が共に金色に輝いていた。さらにニヤリとした笑みによって、口の両端から鋭い歯が覗き、その表情も先程とは違い、邪悪さすら感じさせるものとなっている。当然、こんな変化を遂げるぐらいだから、ステータスの値も以前より高くなっており、纏う魔力も普通ではない。


「じゃあ、ちょっくら行こうか!!」


そう言って、地面スレスレを飛んで真っ直ぐニナ達へと向かっていくビオラ。その姿はついさっきまで和やかに話をしていた彼女とは似ても似つかなかった。


「「「「「ひぃっ!!!!!」」」」」


おかげでニナ達はそれに対する恐怖で身体を強張らせ、5人で身を寄せ合って固まっていることしかできなかった。


「くらえっ!さっきとは全然違」


「ほぅ?どう違うのか、説明してもらおうか?」


「っ!?」


ビオラは突然、横から現れた俺によって手首を掴まれたことに驚き、その動きを止めた。念の為、ニナ達のそばにはティアがいて魔法で結界を張っていた。


「お前、ニナ達をどうする気だったんだ?」


「うぐっ!?」


折れない程度に力を込めて、ビオラの腕を掴む俺。そんな俺に対して、苦悶の表情を浮かべたビオラは助けを求めるようにこちらを見た。


「妙なことをするだろうとは予測できたが、威嚇程度に留めておけば、俺達も出張ってはこないつもりだった。だが、お前は攻撃に転じてしまった」


「い、痛いっ!?」


「お前は今、どっちだ?ビオラなのか?それとも」


「ううっ、許して下さい……………勝てないかもしれないと思って、やっちゃいました………………ビオラは悪くないんです。悪いのはあたしで……………」


「………………」


俺はビオラ…………かもしれない奴の言葉を聞いて、掴んでいた腕を離した。その際に魔法で回復を施した為、そのしなやかな腕には傷一つ残っていなかった。


「次、妙なことをしたら、分かってるな?」


「ううっ……………ごめんなさい」


その場で彼女から謝罪を受けた俺は後ろへ振り向くとティア達にこう言い放った。


「対戦は終わりだ。ティア、ビオラを連れて応接室に戻っていてくれ。ニナ達は俺に任せてくれて構わない」


俺の言葉に頷いたティアは早速、ビオラを伴って歩き出した。その際、ビオラは非常に申し訳なさそうな表情をしており、それは先程まで話していた彼女の表情とどうあっても結びつかないのだった。



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