第5話:マリーのため息


「お、おい。マジかよ」


「へぇ〜こりゃ、また」


とある冒険者ギルドの掲示板を見て、ザワザワとする冒険者達。そこには世界中の冒険者達に関する記事が貼られていた。その中でも一際目立っていたのが……………


「"黒の系譜"、"獣の狩場ビースト・ハント"、"愉快な大行進ビッグ・パレード"の三軍団レギオン連盟ユニオンを組むだと!?」


「これで彼らは向かうところ敵なしとなった訳か」


「お、おい。"愉快な大行進ビッグ・パレード"ってのはもしかして………………」


「ああ。最近、出来た軍団レギオンだね。"笛吹き"が率いる"愉快な行進パレード"が親クランとなり、元々同盟を組んでいたクランが傘下となったそうだ」


「マジかよ!あいつらの連盟ユニオン、どんだけヤバくなってんだよ!!」


「いや、それを言うのなら"黒の系譜"だけでも相当ヤバいでしょ。なにせ、冒険者としての力量もさることながら先の聖戦では彼らのおかげでどれだけの人々が救われたか」


「……………」


「ふぅ〜……………うちも大変だよ。これからは彼らのことをよく知らない若い者もきっと入ってくるだろうし……………彼らにだけは手を出しちゃ駄目だとどれだけ言い聞かせればいいか」


「お、お互い大変だな」


「ああ。頑張ろうね」








―――――――――――――――――――――







「あ、サクヤさん!こんにちは!!」


「こんにちは、マリー」


「今日もまた依頼を受けに来たんですか?精が出ますね〜」


「うん。新しい目標も出来たからね〜……………まぁ、今日は別件でこの子達の付き添いって訳。ほら、みんな。この人がマリーよ。私達がいつもお世話になってる受付嬢さんだから、挨拶して」


「「「「「はい!!!!!こんにちは、マリーさん!!!!!」」」」」


「あら、まぁ。可愛い子達だこと。こんにちは〜……………もしかして、冒険者登録?」


「そうなんだよ。なんか最近、入団希望者が多くてさ」


「それは……………もしかしなくてもこの間の聖戦の影響ね」


「うん。それで朝から晩まで入団希望者が殺到しちゃって………………酷い時は何列も作って並んでんの。1人1人を面接するだけで一苦労よ」


「ありゃりゃ……………それでサクヤさんはお疲れなんだ」


「多少はね。まぁ、私の担当なんて一次面接だけだからマシよ。上の人達はもっと大変だし」


「ん?でも、普通に考えたら、一次の方が大変なんじゃないの?だって、その後の面接官は振るいにかけられた人を面接すればいい訳だから、数が減るでしょ?」


「そうだね。でもさ、二次からは少し本腰入れて見極めないと後の人達に迷惑が掛かっちゃうんだ。簡単に言うと無駄な時間を使わせることになっちゃう。そうでなくともニ次で不合格と判断できる人を三次に通しちゃった時の罪悪感がエグい」


「そっか〜。数は少ないけど、その分責任があるから神経を削ると」


「そうそう」


「あれ?それでいうと一次は気楽なの?」


「そうだよ〜。だって、大雑把でいいもん。まぁ、そうはいってもちゃんとやるけどね」


「へ〜……………そういえば、サクヤさんは何でニ次のことについて詳しいの?一次を任されてるんでしょ?」


「いや〜それが実は少しだけ体験って形でやらせてもらったことがあって」


「す、凄いやる気ですね」


「うん。ちょっと最近は……………ね。それでその時に大変さを知ったのよ」


「なるほど………………っと!はい!その子達の冒険者登録とついでにクランへの入団手続きも完了したわよ。あと、冒険者ランクも全員Cにしといたわ。あなた達のことだしどうせ、そのぐらいはあるんでしょう?」


「まぁ、柔な鍛え方はしてないからね……………っと、ありがとう」


サクヤが礼を言って、ギルドカードを受け取ったまさにその時だった。彼女達に向かって、大きな声が投げかけられたのは。


「おいおい!聞いたかよ!あんな小娘達がCランクだってよ!!」


「ああ。それも冒険者登録した段階でって、何様だよ!!」


「賄賂でも渡してんだろ!見たところ、15、16歳くらいのガキばっかじゃねぇか!!」


「リーダー!なんとか言ってやってくれよ!」


「あぁ、そうだぜ!あんな登録したてのガキがあんたと同じCランクだなんて、おかしいぜ!!」


「まぁ、落ち着け。お前らの言いたいことも分かる。なんせ、獣人族の兎人種にハーフエルフ、さらには人魚族、魔人族のパンプキン種、そして龍人族の蛇人種……………いくつか珍しい種族も混じってるが所詮はただのガキ。それに保護者気取りの人間もどこからどう見てもただの小娘だ」


そう言うとリーダーと呼ばれた男は徐に背中に背負った大剣を抜いて構え出した。すると、それを合図に仲間達も一斉に武器を構え出す。


「侮辱された気分だせ。俺達はあんな小娘達が簡単になれる職業に就いてる訳じゃねぇ!!」


「ち、ちょっとイノーナカさん!一体何をする気ですか!!」


「うるせぇ、マリー!俺は今、むしゃくしゃしてんだよ!」


「今すぐ武器をしまって下さい!!そして、今すぐに彼女達に謝罪して下さい!!じゃないと………」


「はんっ!"じゃないと"……………何だ?俺が小娘達に遅れを取るとでも?」


「「「「んな訳ねーよ!!」」」」


「ほれ、仲間達もこう言ってる………………よし!お前ら、ついでに俺達の強さを見せつける意味でもあの小娘達を殺せ!!」


「「「「おう!!!!」」」」


リーダーと呼ばれる男の号令で動き出した男達。男達は自分達の勝利を確信して、サクヤ達へと武器を振り下ろした。


「「「「はぇっ!?」」」」


しかし、それが彼女達に当たるはずもなく、一人一殺。男達は一瞬にして首から上が宙に舞った。


「……………は?」


リーダーと呼ばれた男は何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くした。そこにサクヤがゆっくりと歩み寄っていった。


「ありがとう。彼女達のいい準備運動になったよ」


「お、おい。や、やめ」


リーダーが最期に見た光景は目の前の少女が笑顔で刀を下ろすところだった。


「はぁ、言わんこっちゃない。そもそも全員でかかっても1人にすら勝てる訳ない上に今はSSランクのサクヤさんっていう保護者までいるのに」


後ろではマリーの独り言が静かなギルド内に響き渡っていた。

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