第338話 はぐれ者の過去

「まずは俺の生い立ちからだ……………いきなりだが、俺はこの世界の出身ではない」


「「「「「っ!?」」」」」


キョウヤのこの言葉に驚きを示したのはブロン達だけだった。ティア達は誰1人として驚くことなく、続きの言葉を待っている。


「いわゆる"異世界"、それも"日本"と呼ばれる国に生まれた。俺が生まれ育った国は世界的に見ても比較的安全だという認識があった。犯罪発生率が周辺国と比べて低く、食料の入手が比較的安易。勉学や仕事も成果に応じた将来が待ち受けており、生きていく為のサポートもしっかりしている。また、国柄的にそこに住む国民は大らかで優しく、気遣いのできる気質を持っていることが多かった。ここまで聞くとその国での暮らしはさほど難しくないどころか、むしろ、とても生活しやすい環境が整っているように思える。しかし、潤う者がいる一方でそれとは正反対にあらゆる艱難辛苦に耐えることを強制される者達がいることもまた事実だった。俺の生まれた……………というか、俺が捨てられた場所はそんなところだった」


「っ!?お前……………まさか」


周囲が複雑な表情をする中、何かに気が付いたシンヤはハッとして、キョウヤを見据えた。


「俺は捨て子だった。俺が捨てられた場所は日夜、危険が蔓延るような場所で"廃棄場"と呼ばれていた。殺人や窃盗が横行し、その日生きていられる保証など、どこにもない場所。住民は生きていく為に道徳に反した行いを繰り返しており、そんなところに捨てられた俺はいくら赤子といえど、見つかれば、タダでは済まなかった。そんな中で俺は運の良いことにに拾われた。そして、その後、その男は父親として、俺を育て上げてくれた」


「「「「「………………」」」」」


周囲がただ黙って耳を傾ける中、キョウヤの語りは続いていく。


「男からは色々なことを学んだ。勉強、生活の知恵、手先を使った技術、常識………そして、戦闘術や殺しの技など。その種類は多岐に渡るが、どれも生きていく上で役に立つものばかりだった。ちなみに俺の名字と名前はその男にもらったものだった。それを初めてのプレゼントとして、もらった時はとても嬉しかった。男がやけに笑顔だったのも覚えている」


キョウヤは遠くを見据えて、何とも言えない表情をしており、シンヤはどこか懐かしい気持ちになりながら話を聞いていた。


「月日が流れ、俺が18歳になった時、男から1つの提案をされた。それは"廃棄場"を出て、外の世界を見てみないかというものだった。男は常日頃から、外の世界の素晴らしさを俺に語って聞かせていた。その為、外の世界に興味を持っていた俺はその提案に二つ返事で答え、各地を放浪する旅へと出た。今でも思う。あの当時の俺は本当に世間知らずのガキだったと………………そんな俺が"廃棄場"を出て、まず驚いたのは普通に生活することの難しさに対してだった。最低限の金を持って飛び出したはいいものの、それは軽い食事程度で消えてしまうものだった。しかし、人は食わねば死んでしまう。その為には金を手に入れる必要があった。そこで俺に残された選択肢は2つ。盗むか、働くかだった」


コロコロと毛色が変わる話についていくのが精一杯のブロン達。そんな彼らを慮ってか、ここで少し間を空けるキョウヤ。それは時間にして約1分程だったが、彼らにとってはちょうど良かった。


「盗みをするつもりは最初からなかった。男との約束でどうしようもない場合を除き、他人に迷惑をかけるような行為はしてはならないと決めてあったからだ。となると、残る選択肢は1つ。俺は働いて金を手に入れ、それを食費と旅費に当てることにした。それからは沢山の仕事をした。多くの者は仕事などしたくないと口を揃えて言うだろう。しかし、俺は街の景色1つ取っても初めて見るものばかりで感動するような人間だ。その為、仕事も新鮮でワクワクした。もちろん、分からないことだらけで大変だったし、普通に生きていくことの辛さもそこで知った。だが、今までの暮らしと比べると天と地の差だった。ここでは常に命を狙われるようなことはない。突発的な事件に巻き込まれる危険性があるにはあるが、それもあちら側にいた者ならば、対処できる程度のもの。俺はすぐにこちら側の生活に順応した」


キョウヤはゆっくりと自身の記憶をなぞり、それを言葉にしていく。その表情はとても穏やかなものであり、先程の戦いで見せていた顔と全然違っていた。


「そんなこんなで各地を旅して4年がたった頃、俺はとある1人の女と出会った」


ここで急に声のトーンが変わった為、皆が何事かとキョウヤを凝視する。そんな中、キョウヤは真っ直ぐとシンヤを見つめて、こう言い放った。


「それが後にシンヤ…………お前の母親となる人物だ」


その時、気が付けば外では雨が降り出していた。




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