第319話 全面戦争

「くぁ〜……………ありゃ凄い数だな」


広い平原の向こうから駆けてくる軍勢を見ながら、カグヤはそう口にした。


「なんて呑気な……………これは戦争ですよ」


「……………そういうお前だって、呑気に武器の手入れしてんじゃねぇか」


苦言を呈してきたクーフォを半目で睨みながら、カグヤは言い返す。しかし、そんなカグヤの反論を軽く無視したクーフォは遠くを見つめて呟いた。


「本当に懲りないですよね。何で次から次へと喧嘩を売ってくる奴が後を絶たないんでしょうか?」


「そりゃそうだろ。アタシらはある者にとってはデカい金脈、またある者にとっては目の上のたんこぶだ…………………良い意味でも悪い意味でもこんな目立つ存在が狙われないと思うか?」


「そういうもんですかね?」


「お前は内側にいるから、分からないんだ。一回、冷静に外から"黒天の星"もしくは"黒の系譜"という組織を見てみろ……………たぶん連中の気持ちが分かるぞ」


「へ〜…………………っと、カグヤさん」


「ああ、分かってる………………あ〜こちら、第一部隊部隊長兼指揮官のカグヤだ。第ニ部隊〜第十部隊に告ぐ。後衛組はただちに部隊長の指示に従い、行動せよ。繰り返す。後衛組はただちに部隊長の指示に従い、行動せよ………………よし、じゃあ」


「私達はこのまま待機ですね?」


「ああ……………奴らがここ本陣に乗り込んでくるまではな」







―――――――――――――――――――――






連盟ユニオン"赤き殲滅騎士団"との戦いに際して、例の3人とカグヤの話し合いの次の日、"黒の系譜"はそれぞれの軍団長レギオンマスター宛に挑発文を叩きつけた。"ルーズ平原にて、我々は貴殿らの挑戦を受けよう。日時はそちらに合わせる。もちろん、日時を敢えて知らせず、一方的に急襲しても構わない。我々は逃げも隠れもしない。本日より、ルーズ平原にて貴殿らを待っている。ではーーー黒の系譜よりーーー"……………そんな文言が記された手紙をくくりつけた矢文が超長距離から、それぞれの軍団長レギオンマスターがいる部屋の中へと放たれたのだ。呑気に襲撃計画を練っていた軍団長レギオンマスター達はこれにかなり驚き、すぐに連盟会議ユニットを開いて、今後の動きについて話し合った。そして、出た結論というのがそれぞれが今すぐ本拠地を離れ、最速でルーズ平原へと向かうというものだった。挑発文には"矢文が飛んできた日からルーズ平原で待ち構えている"というような内容が記載されていたがまさか、その日のうちに襲撃を受けるとは思うまいというのが連盟ユニオンの考えだったのだ。そして、いざその現場まで向かい、3つの軍団レギオンが揃った段階で敵側の陣営を見渡した彼らは読みが当たったとほくそ笑むこととなった。


「予想通りだな。奴ら、呑気に談笑しているな」


「ふんっ。緊張感の欠片もない奴らめ」


「そんじゃ、さっさと殲滅するか」


軍団長レギオンマスター達のその発言の直後、彼らは"黒の系譜"へ向かって、進軍を開始したのだった。










「今、通信が、入った。後衛組は、用意、して」


ノエの号令によって、無駄のない統率の取れた動きで準備を始める者達。


「ノエさ〜ん。隊列は〜?」


「ん〜……………"5ー3ー3"で、いい」


そこにリームの間延びした声が響き、他の者達はそれに対するノエの返答に耳を傾けた。現在、幹部である"十人十色"はそれぞれの担当する組の者達……………だけではなく、傘下も1つずつ受け持ち、それが1つの部隊となっていた。部隊長を"十人十色"のメンバーが務め、第一部隊の部隊長であるカグヤの部隊は全体の総指揮も担っている為、全体を見渡せる最後尾に構えている。そして、あらかじめ緊急時に備え、軍団レギオン全体で大規模な集団との戦闘を想定した訓練もしていた為、メンバー達は隊列の組み方も事前に心得ていた。ちなみに"5ー3ー3"とは「縦5列横3列を1組とする陣形が計3つ」という意味である。


「用意、できた?」


「は〜い。大丈夫で〜す!」


「僕達も大丈夫だよ!」


ノエの確認にリームとクラン" "風神"のクランマスター、ウィンが返事をする。基本的に傘下達のクランメンバーの数はそれぞれ40〜50名と多く、彼らだけでも陣形は作れるのだが、万全を期して必ず"黒天の星"のメンバーを最低2名は一緒に組み込むようにしていた。現にウィンも銅組の組員に囲まれている。


「よし。それじゃあ……………放て」








―――――――――――――――――――――






「な、何だあれは………………」


「凄い数と質量」


「まるでこの世の終わりだな」


異変に最初に気が付いたのはそれぞれの軍団長レギオンマスター達だった。勢いよく進軍していた彼らに向かって、なんと空から雷や氷・炎の塊が降ってきたのだ。そして、それらは横に大きく広がりながら進んでいた彼らに逃げ場を与えることなく、着弾していく。


「うわああああっ〜!?」


「ぎやああああっ!?」


「熱ぃよぉ!」


「冷てぇ!?」


「あばばばばっ!?」


"赤き剣群"総勢800名、"殲滅連合"総勢1000名、"戦線騎士団"総勢1500名からなる大規模な軍勢は総勢800名の"黒の系譜"に対して、数の面でいえば圧倒的なアドバンテージを誇っていた。しかし、数が多ければその分、デメリットもある。そのことを彼らは忘れていたのだ。


「全軍、倒れた味方に気を取られるな!どんなに悲しくとも彼らの屍を超えて、前へ前へと突き進め!!」


規模が大きくなればなる程、的もその分、広くなる。今の先制攻撃により、"赤き戦線騎士団"は実に1000名もの仲間達を失ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る