第304話 名の知れた男3

「じゃあ行ってくる」


「シンヤさんのことは私達に任せて下さい」


「この3人での行軍は邪神討伐以来ですわね」


会議室での話し合いから数日後。シンヤ・ティア・サラはクランハウスの玄関先にいた。そして、そこには代表してカグヤが見送りに来ていた。


「例の件、任せた」


「ああ。昨日のシンヤの言葉を聞いたあいつらは張り切って、早速動き出したぞ」


「そうか。出来た仲間だな」


「それだけみんなが今回のことを許せないって思ってるんだよ………………あ、それとシンヤ」


「ん?」


「アタシらの分まで奴らを叩き潰してくれ」


「ああ。完膚なきまでにな」










―――――――――――――――――――――





 



「お、お前ら何なんだよ!」


とある軍団レギオンハウスへと連れて来られた1人の少女が警戒心を顕にして叫ぶ。そこにはその少女だけではなく多くの者達が無理矢理、手錠を嵌められて連れられていた。そして、その者達全員がもれなく獣人族だった。


「アタシらを一体どうする気だ!!」


「だから、言っただろう?お前らは人質だって」


「こんなことをしてタダで済むと思っているのか!お頭が黙っていないぞ!」


「そのお頭もまた人質に取られたから、お前らはここにいるんだろうが………………いいねぇ〜。お互いがお互いを人質とする関係。それにしてもお頭さんも可哀想だな。部下がリーダーなしでは何もできない無能集団で」


「くっ……………」


「あ、分かっていると思うが余計なマネをすれば、お頭さんが大変な目に遭うからな………………まぁ、そう脅されてこうしてノコノコと連れられて来る訳だから重々承知しているか」


「お前ら、絶対に許さないからな」


「はっ!好きなだけ吠えてろ。その威勢がいつまで保つか楽しみだな」


「くそっ!この手錠さえなければ……………」


「あ、そうそう。こんなところに連れてこられた哀れな人質共おまえらにいいことを教えてやるよ」


「いいこと?」


「そうだ。まず、お前らの大切なお頭さんを連れて行った奴らだが……………なんとあの"闇獣あんじゅう"のメンバーだ」


「何だって!?」


「この件には闇組織が関わっている。あ、ちなみに俺達は"闇獣あんじゅう"のメンバーじゃないぜ。このマークを見て分かる通りにな」


「っ!?そ、そのマークは!……………まさか、お前ら」


「ご想像の通りだ。つまり、"闇獣あんじゅう"と俺達は手を組んだ………………いや、正確には違うな。あいつらの背後バックに俺達がついたということだ」


「そ、そんな……………」


「おっと、衝撃的な事実はまだまだ続くぞ。そもそも大金を払ってお頭さんの誘拐を奴らに依頼し、お前達がこうなってしまっている原因を作ったのは他でもない…………………だ」


「っ!?う、嘘だ!そんな訳ない!あの人がそんな」


男の言葉に少女…………シーフォンは手錠を激しく打ち鳴らしながら叫んだ。


「分かるぜ。世の中には信じたくないこともあるよな………………だが、これは現実だ。分かったら、諦めて大人しくしてな」


「そんな………………まさか」


シーフォンは呆然となり、その場に座り込んでしまった。そして、それは何も彼女だけではなかった。男からもたらされた現実を聞いてその場にいたほとんどの者は力が抜けて、倒れ込んでしまったのだ。


「………………何か事情があるはず」


後にはただシーフォンの小さな呟きが静かな空間に響き渡っていた。









―――――――――――――――――――――






シンヤ達がクランハウスを出発する2日前の夜遅く。玄関の前にとある書類が封筒に入って落ちていた。それを拾ったシンヤは急いで幹部達を会議室に集めて、中を確認していった。こういった封筒や届け物には罠が仕掛けられている可能性がある為、幹部立ち会いの下、開けるのがルールとなっていたのだ。


「これは…………」


封筒の中身を取り出してみるとそこには現在、"獣の狩場ビースト・ハント"がとある軍団レギオンに狙われ、メンバーが次々と連れ去られているという情報とその軍団レギオンが所有する主な軍団レギオンハウスまたはクランハウスの場所が記された書類が入っていた。


「ドルツ」


「分かった。今すぐに調べる」


そこからの動きは早かった。ドルツ達緑組が件くだんの軍団レギオンの主な情報を数十分で調べ上げ、シンヤはその日のうちにブロンの元を訪れて、書類に記載されていた軍団レギオンハウスとクランハウスの場所が合っているかどうかの確認をした。すると……………


「ワシも彼らの拠点は少ししか知らんが、それは合っておるな。であれば、それ以外のも合っておるじゃろう」


そして、差出人が気になると言ったブロンの為にシンヤが封筒を裏返すとそこには………………"キョウ"と小さく書かれていた。


「"キョウ"?」


「ふむ。聞いたことがあるの。おそらく時々、各地に現れる浮浪者のことじゃな。皆、その者のことを説明する時は口を揃えてこう言うらしい………………"名の知れた男"と」


「"名の知れた男"?」


「名前以外、素性が分からんかららしいの」


「何だ、それ」


不思議に思ったシンヤがクランハウスに戻り、ドルツにその男のことを聞いてみると………………


「"キョウ"?ああ、そいつなら"名の知れた男"として各地で噂にはなっているな」


結局、ブロンと同じ答えが返ってきた為、謎は深まるばかりだったがしかし、有力な情報をくれたその男にシンヤは心の中で感謝をしたのだった。










フリーダムから一番近い森の中。そこからフリーダムを見つめる男がいた。薄汚れたローブを纏ったその男はニヤリとした笑みを浮かべると担いでいた魔物を地面に下ろして、集めた薪に火をつけた。


「求めたいものが……未来があるのなら、足掻けよ小僧共」


数十分後、火事を心配したフリーダムの門番が駆け付けるとそこには火が消えて燃えかすとなった薪の跡があるだけだった。もちろん、男の姿はどこにもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る