第288話 対峙

「シンヤっ!」


「お、イヴか。その様子だと用事は済んだみたいだ……………っと」


ギムラの中心にある大きな噴水。そこから500m程離れた物陰にいるシンヤ達。そこに向かって音も立てずに走ってきたイヴはその勢いのまま、シンヤに思い切り抱きついた。


「あらあら」


「……………今回は仕方ありませんわね」


「だな」


ティアやサラ、カグヤはその光景を見て、一瞬動きかけたがシンヤにしがみつき必死に震えを抑えようとするイヴに気が付いた為、大人しく静観することに決めた。


「ううっ…………シンヤ」


「自分ではもう大丈夫だと思っていても知らず知らずのうちに傷を負っているもんだ……………よく頑張ったな」


シンヤはまるで子供をあやすようにイヴの背中を優しく撫でた。その顔はとても穏やかなものでイヴは思わず力を緩めると顔を上げて、シンヤを見つめた。


「シンヤもそうなのか?」


「そうかもな……………俺の傷もまだ完全には治っていないかもしれない」


「そうか。シンヤもか………………ふふっ」


「ん?どうした?」


「なんか共通点ができたみたいで嬉しいのじゃ。いつも美味しいところはティアに持っていかれるからのぅ」


「ちょっと、イヴ!それって、どういう意味ですか!」


「共通点?それって、そんなに重要か?そんなもんがなくとも俺達は仲間だ。それは変わらないぞ」


「はぁ。シンヤはもう少し乙女心というものを学んだ方がいいのじゃ」


「は?何故そうなる?」


「シンヤのことを好いておる者は多いのじゃ。だから、常に不安なんじゃよ。自分だけ除け者にされておらんか。それが共通点1つあるだけで少しは安心するんじゃ」


「何だ、そんなことか」


「何だとはなんじゃ!妾は真剣に言っておるのじゃぞ!いつもティアばかりずるいのじゃ」


「安心しろ。俺はイヴ、お前のことが好きだ………………そして、愛している。これも一生変わることのないものだ」


「っ!?」


「な、な、な……………」


「ティア!しっかりするんですの!」


「お、おい。シンヤは相変わらずだな」


「何を他人事のような顔をしているんだ?言っておくが、お前達のことも同じように思っているぞ」


「「「ふへっ!?」」」








――――――――――――――――――








「師匠、見ていて下さいね」


離れたところでシンヤ達がイチャつき…………もとい楽しくお喋りしていることなどは露知らず、シャウロフスキーはそう呟いた。ちなみにシャウロフスキーがいる場所はギムラの中心にある噴水のすぐそばであり、普段であれば多くの魔族達で溢れ返る時間帯なのだが今は魔王の影響で彼以外誰もいなかった……………正確に言えば彼ともう1人を除いてだが。


「どうやら国民達は逃げたみたいね」


蒼い長髪を風に靡かせながら、魔族の女は呟いた。そして、紅い瞳でシャウロフスキーのことを値踏みした。


「随分と他人事のように言うんですね。あなたが原因でこうなっているんでしょう!」


「そうね……………で?あなたは?」


「僕の名前はシャウロフスキー!魔王であるお前を倒しにきた者です!」


「あなた……………そう、"黒山羊種"なのね。まだ角が1本のところを見ると相当幼いようだけど」


「っ!?そ、そんなこと今は関係ないじゃないですか!」


「動揺を隠せていないわよ?その様子だととっくに気が付いているみたいだけど、"黒山羊種"って強さでいったら下から数えた方が早いぐらいの種なのよね。それでも流石に人族よりは強いけど獣人族には勝てるか分からないわね。つまり、魔族の中じゃ、落ちこぼれって訳ね」


「だ、だから何だっていうんですか!そんなの一般例でしょ!僕がそうとは限らない!これでも修行して強くなったんですから!」


「あら、そう…………じゃあ、長々と話していても仕方ないし、とっとと始めましょうか」


「落ちこぼれでも努力すれば、強くなれるってことを証明してみせます!」


「できるといいわね」


そう言うと徐に手を前にかざす魔族の女。すると直後、禍々しい魔力が集まり出し、数秒後には手に1本の大きな剣が握られていた。


「っ!?そ、その剣は!」


「お察しの通り……………魔剣よ」


そこには紅く目を光らせ、妖しく笑う魔王の姿が確かにあった。

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