第233話 ゲーム

「ん?何だ、お前達?ここはワシの家の敷地内じゃぞ。どうして勝手に入っ………」


「うるさい」


「ごおっ!?」


その日、世界各地に白い修道服を着た集団が現れた。


「な、何なんだよ!お、俺達が一体何をしたっていうんだ!」


「黙れ」


「ギャーッ!?」


その集団は何の目的があるのか、時に街へ、時に国へ、はたまた街道へ赴き、次々とあらゆる者を無差別に襲い始めた。


「ゆ、許してくれ!俺には妻も子もいるんだ!」


「ではそいつらも一緒にあの世へと送ってやろう」


「や、やめてく………」


選ばれた者に規則性はなく、戦えるかそうでないかは関係なかった。狙われた者は運が悪いとしか言いようがなく、戦う術を持たない一般人では対処のしようもない。また冒険者であっても低ランクでは太刀打ちできず…………


「この野郎!」


「ぬるいな」


「お、俺の攻撃が効いてねぇ!?」


「潔く逝け」


「ぐわあああっ!う、腕がああああ!?」


事態は一刻を争い、この惨状にいち早く気が付いた国では兵士を急いで動員し、現場の収拾へと向かわせた。また別の街では普段、見回りをしている衛兵を全て召集し、その集団の掃討に当たらせた。各地でできうる限りでの対処がされるそんな中、冒険者ギルドもただ黙って指を咥えて見ているだけではない。つい今しがた、緊急ギルマス会議が開かれ、対処についての話し合いが行われたばかりなのだ。それは時間にして、5分にも満たない迅速なもの。それほど切羽詰まったものだった。


「以上で会議は終わりだ。では各自の健闘を祈る」


「了解!それにしても邪神災害の件があってから、何かあった時の為に備えをしておいて良かったですね」


「口を慎め。それが財政上や人の問題でできてないところもあるんだ」


「すみません!」


「だが、まぁ備えあれば憂いなしというのは事実だ。余裕のある奴らは他の場所の救援に向かうぞ!」


「「「はい!!!」」」


それぞれがそれぞれの思いを胸に動き出す。邪神災害を彷彿とさせる今回の事件。もう二度とあんなことを繰り返させてはならない。戦える者は各地で固く拳を握り、己の大切な人を街を暮らしを…………守りたいと思った全てのものの為に滾る心の刃を振るった。








――――――――――――――――――







「前もこんなことなかったか?」


「ありましたね」


「皆、既に動き出していますわ」


「ったく、何で世の中はこうも馬鹿ばっかりなんだ」


「ゴミ掃除、大変」


「でも目的は何でしょうか?」


「どうせ碌なことじゃなかろう」


「だろうな。もう少し有意義な時間の使い方をして欲しいもんだ。我も暇ではないぞ」


「よく言うぜ。さっきまでカグヤと酒の飲み比べをしていた癖に」


「結局、ミー達は怪しそうな奴らを片っ端からぶった斬ればいいんデス?」


「エル、脳筋すぎるの。そして、ボクは眠いの」


「レオナはいつもそれだね。でも、欠伸が出るぐらい連中のしていることはくだらないよね」


「本当よ。せっかくこれから、シンヤとデートする筈だったのに。邪魔しないで欲しいわ……………ボソッ」


シンヤ達はフリーダムのクランハウスを出て、ギルド前へと向かう。そこには映像の魔道具があり、これから何かが映し出されるということで移動しているのだ。


「おおかた予想はつくがな」









「こんにちは、世界中のゴミ共」


それは最悪な挨拶から始まった。魔道具には黒髪黒眼の青年が感情の読めない顔をしながら、不特定多数の者に向かって話しかけ始めた。


「俺の名前はハジメ。突然、こんな形での登場に驚いている者もいると思うが、まずは俺の話を聞け。今、各地で起きている騒動……………その元凶は俺だ」


この発言に多くの者は驚き、それから食い入るように魔道具に映る男を見つめた。自分達を恐怖に陥れようとしているのが一体どんな人物であるのか、そこから分かることは少ないかもしれないがそうせずにはいられなかったのだ。


「俺達は組織として動き、世界各地でこの騒動を起こしている。組織の名は"聖義せいぎつるぎ"。そして、俺の横にいるのは幹部である"十王剣武じゅうおうけんぶ"だ」


人々は彼らに対して、ただならぬ異様さを感じ紡がれる言葉の1つ1つに心臓を鷲掴みにされるような感覚を覚えた。ただそんな思いをしてでも目を逸らすことは決してできなかった。


「俺達の目的が分からず、不安な者はさぞ多いことだろう。だから、俺がこうして魔道具を使って貴様らの不安を取り除く方法を教えてやろうとしたんだ。感謝しろ」


自分勝手なその物言いに腹が立つ者は多かった。しかし、今はただ黙って続きの言葉を待つことにした。


「俺から1つ提案がある。これから、ゲームをしないか?ここにいる幹部達にそれぞれ鍵を持たせて、別の場所へと解き放つ。そこで貴様らゴミ共は脆弱な力を合わせて、幹部達を倒し鍵を手に入れるんだ。そして、その鍵を全て集めたら俺のところまで来い。そうしたら、俺達の目的を教え、お前達を今ある恐怖から解放してやる」


「な、なんだと…………」


「ゲーム!?ふざけやがって!」


「人の命を何だと思っているの!?」


ここにきて、ようやく黙っていた人々は声を発する。男に届いていないと知りながら、それでも荒れ狂う感情をぶつけずにはいられなかった。



「ちなみに俺の今いる場所は獣人領と魔族領の間に位置する場所だ。俺はここから一歩も動かない。勇気と無謀を履き違えた愚かな者共よ、貴様らの挑戦をここで待つ……………さぁ、ゲームスタートだ」


今、最悪なゲームが幕を開けた。

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