第204話 十彗会議

「さて…………全員いるな?」


議長である1人の男が室内を見回しながら、そう言った。男の名はギース。"魔剣"ブロン・レジスターの愛弟子"四継"の1人であり、"剣聖"の異名を持つSランク冒険者だ。そして、今この場にいる他のメンバーもそれぞれ名の知れた者達であった。ちなみに彼らがいるのは数ヶ月前にスタンピードによって滅びた街、ホスベルに建てられたクランハウスの会議室である。実はゴーストタウンということもあって邪神災害の影響を一切受けなかったホスベル。その後、ついでだからとシンヤがクランメンバーに命じて復興させたのが災害から1週間が経った頃だった。そこから徐々に人が増え始め、フリーダムで行っている事業の2号店も構え出したことから、さらに人口の増加に拍車がかかっていた。住居やインフラなど生活に必要な設備も今ではだいぶ整い、他で働く場を失った飲食・小売関係の者達がこぞってやってきて、店を出し始めた為、一応この街で暮らしていく分には不自由がなくなりつつあった。もちろん、そこまでを全てシンヤだけがお膳立てした訳ではなく、ブロンを筆頭とする今まで関わってきた者達の力も借りながら再建していったのだが。ともあれ、そんな活気付いてきたホスベルにおいて、最も目立つ場所にギース達のクランハウスがあった。そこは"黒天の星"の傘下クラン専用のクランハウスであり、会議やイベントだけではなく、好きな時に出入りすることができるようになっている。と同時にまだ街として完璧に機能しておらず、衛兵や冒険者ギルドもそこまで稼働している訳ではない為、あえて目立つ場所に建てることでいざという時に住民達が助けを求められるようになっている。というのもホスベルもまた"黒の系譜"の縄張りの一部となっている為、困ったことがあった場合には力を貸すつもりでいるのだ。そのことはもちろん傘下クランのメンバー全員が承知済みである。


「ではこれから傘下クランによる会議を始めたいと思うのだが、その前に1つやらなければならないことがある。今日はいつもと違った冒頭になるがこれは大切なことだから、分かって欲しい…………じゃあ、前へ出てくれ」


ギースがそう言うと彼の傍らに控えていた少年が静かに皆の前へと進み出る。自然と集まる視線。しかし、その少年はそれをものともせずにはっきりとこう言った。


「初めまして。この度、新たに"黒天の星"の傘下に加わることとなりましたクラン"黒椿"のクランマスター、クリス・キャニオンと申します。これから、よろしくお願い致しますね先輩方」


その場にいた者達は皆、唖然としていた。彼らもまた傘下クランのクランマスター達であり、クリスの先輩にあたる。それがギースを含めて9人いるのにも関わらず、何故そこまで堂々としているのかと。まさか少しの緊張もなく、そればかりか軽く微笑みながら、はっきりと自己紹介されるとは思いもしなかった面々は改めてクリスの表情を見て、今度は違う意味で驚いた。なんと段々と顔が赤く上気していき、しまいには鼻息が荒くなっていったのだ。


「ご、ごほんっ!既にシンヤから聞いているとは思うが新たに傘下が1つ増え、その数は計10にもなった。そこでその代表である我々クランマスター10人に役職が与えられることとなった」


「役職だと?」


「それは聞いていないな」


「ああ。その筈だ。なんせ、俺も先程聞かされたばかりだからな。いいか?心して聞いてくれ……………今後、我々は"十彗じゅっけい"と名乗り、"黒の系譜"の発展に尽力していくこととなる。より一層気を引き締め、"黒天の星"の傘下であることに誇りと責任を持って行動していってくれ。また品位と信頼を損なうことのないよう、くれぐれも注意してくれ」


「「「「「了解!!!!!」」」」」


「では早速始めようか。具体的に俺達には何が出来るのか……………それを決める"十彗会議"をな」

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