第200話 我が家へ

「何〜!?逃げ出しただと!?」


「はい。先程、兵士の1人から通信がありまして」


「それで?ちゃんと連れ戻せたのか?」


「目下、捜索中とのことです。直に連絡がくるかと」


「そうか。全く、ヒヤヒヤさせおって」







「おい!連絡はまだか!?」


「それが……………その」


「何だ?モゴモゴしおって」


「非常に申し上げづらいのですが…………」


「構わん。はっきりと申せ」


「通信が途絶えてしまいました」


「……………は?」


「兵士全員に持たせていた通信の魔道具の反応が一切なくなり、連絡が取れない状態となってしまったんです」


「そ、それはい、一体どういうことなんだ!?」


「おそらく魔物か盗賊にでも襲われて、その拍子に破壊されてしまったのだと思われます。でないとあまりにも不自然ですから」


「な、なるほど。確かにそうだ…………」


「不自然な部分はそこではないでしょう」


「マドラス……………お主は何が言いたいんだ?」


「勇者様方が訓練を行っていた場所ではランクの高い魔物の出現がこれまでに観測された例はありませぬ。もし仮に運悪く突然変異の高ランクに出会ってしまったとしても連絡する余裕くらいはあったでしょう。それから盗賊ですが、それこそ有り得ませぬ。現在、あの森を縄張りにしている盗賊は1つも確認されておりません。それと魔物の時と同様、もし遭遇してしまっても連絡する猶予はあったはずです」


「つまり、何が言いたいんだ?」


「兵士達はそんじょそこいらの輩や魔物に殺られたのではなく、とんでもない化け物によって瞬殺されたかと………………これは相当、根深い問題ですぞ」


「な、ならばどうする?」


「勇者様を本気で連れ戻す気があるのなら、しっかりと軍の編成はなさった方がよろしいでしょう。油断は大敵です。相手を侮らず、慎重に水面下で動く方が得策です」


「そ、そうか。お主がそう言うのなら、そうしよう。おい、今すぐ軍の編成を急いでくれ……………マドラス、お主の忠告、大義であった」


「いえいえ。お褒めに預かり光栄にございます」






――――――――――――――――――






「助けて頂いた上に首輪まで……………本当にありがとうございます!」


「気にするな。既に交渉は成立している。お前に何をしてもらうかも考えてあるしな」


「何でも仰って下さい!私、頑張りますから!」


「じゃあ覚悟しとけよ、サクヤ」


「あ……………やっぱり聞き間違いじゃなかったんですね」


「ん?」


「いえ…………先程、私のフルネームを呼んでいた気がしたのですが、まだ名乗ってもいないのに知っている訳ないと思っていたので……………あの、どうして私の名を?」


「その質問に答える前に1つ確認しなければならないことがある。それが終われば、質問の答えだけではなく、俺達のことも含めてお前に教えるつもりだ」


「分かりました!確認とは何でしょうか?」


「……………お前、俺達と一緒に冒険者をやる気はないか?」


「ぼ、冒険者!?」


「ああ。嫌か?」


「いえ!むしろ、喜んでやらせて頂きたいのですが……………何故、私を?」


「最初に言っておくと俺達はとあるクランに所属していてな。そこで新しく遊撃部隊を作ることになったんだ。で、現在そのメンバーを探しているところでな」


「……………へ?それが私ですか!?」


「ああ。気が進まないか?一応、お前が何でもしてくれるって言っていたからな」


「それって、私が得しているだけじゃないんですか!?助けてもらって冒険者として活動もさせてもらえるなんて……………勇者なんかより全然いいですし」


「そんなことはない。今となってはお前が欲しい。だから、これはお互いにメリットがあるんだ」


「わ、私が欲しい!?そ、それって」


「うちに来てくれないか?」


「は、はい!喜んで!足を引っ張らないよう精一杯努めさせて頂きます!」


「そうか。俺はシンヤ・モリタニ、"黒天の星"のクランマスターをしている。これから、よろしく」


「シンヤ・モリタニ……………"黒天の星"……………って、ええ〜〜〜っ!?」


「よし、お前ら!新しい仲間も増えたことで帰るぞ!フリーダムへ!」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


こうして、より賑やかになった一行はフリーダムへの帰還を目指す。これから様々な問題が待ち受けているのだが、それはまだ先の話。今はただ仲間達と笑い合えるこの時を心地良く過ごしていたい。誰もがそう思っていた。

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