第192話 セーラ

クリスの発した熱い気持ちはしっかりと俺達まで伝わってきた。他の生徒達の方を見てみると皆も同じ気持ちなのか、しきりに頷いている。だからこそ、こんなことをされてはしっかりと彼らの想いに対して答えを出さなければならない。俺は一言こう言った。


「好きにしろ」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ」


「や、や、やった〜〜〜!!!」


「「「うおおおっ!!!」」」


「だが、その前に1つ言っておくことがある」


「何ですか?」


「セーラについてだ」


俺が目配せをすると彼女は頷いて、クラスメイト全員が見渡せる位置へと移動した。そして、自らの口である事実を語った。


「みんなに話さなければならないことがあります」


「話さなければならないこと?」


「はい。私の冒険者活動についてです」


「冒険者……………あ、そういえば僕達がクランを設立する際にセーラは入らないって言ってたよね?そのこと?」


「はい。私は以前から、とあるクランに入りたいと懇願していて、それが受け入れてもらえたのでそちらに加入させて頂くことになったのです」


「あ〜だから、"黒椿"には入らなかったんだ」


「そうです」


「ちなみにそこって有名なところなの?僕達でも知ってる?」


「……………"黒天の星"です」


「……………………え?」


「ここからの説明はクランマスターである俺がさせてもらう。最近、うちに新しい部隊を作ることが決まってな。その名も"遊撃部隊"だ。この役職は幹部・組員など関係なく、有事の際や手が足りない時にあちこちへと出向いて、サポートするのが仕事だ。それ故、臨機応変な動きや器用さが求められる。セーラにはそういった周りをサポートする才能がずば抜けてある。それは一緒に過ごしてきたお前らも分かっていることだと思うが」


「そうですね」


「だからこそ、セーラは"遊撃部隊"に欲しい人材だと思い、こういう結果になった」


「正直、それを聞いてとても嬉しいです。彼女が自分の得意な分野で先生方の助けになろうとしている。それこそがまさに僕達の理想形なんです。先生、彼女もまたよろしくお願い致します」


「ああ……………セーラ、良かったな。全員、祝福してくれているぞ」


「はい!みんなと同じクラスになれて本当に良かったです!」


「よし。以上で報告は終わりか……………あ、ちなみに"遊撃部隊"はこれからも良いと思った人材を取り入れて、増やしていくつもりだ。直近で言うとセーラの他に1ヶ月程前にクランに入った新人もそこに配属するつもりだ」


「了解致しました!」


「さて、じゃあ帰るとするか」


こうしてカンパル王国での用事を全て済ませた俺達は帰路へと着く。依頼を受けた時はまさか、これほど大所帯で帰ることになるとは思いもしなかった。生徒達が笑顔で歩いているのを見て、自然と口角が上がってくる。とその時、セーラが近付いてきて、小声でこう言ってきた。


「先生、これからもよろしくお願いしますね」


「お前な…………」


「ふふっ」


彼女のこの時の笑顔はこの中にいる誰よりも最も輝いていた。

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