第172話 自己紹介

私の名はセーラ。セントラル魔法学院に通うごくごく普通の生徒です。昨日、担任の教師が突然、辞職を宣言して教室を出て行ってから一夜が明けました。今日は朝からクラスメイト達がザワザワしています。理由は単純明快。これから特別講師の先生方がいらっしゃるからです。とはいっても一体どこの誰なのかは知らされておらず、生徒達の士気が下がったこの状況下においてもやはり教える者が変わるというのはちょっとしたイベントらしく、まるで転校生が来る時のようなワクワク感と怖い先生だったらどうしようという不安がない混ぜになったような空気が教室内を支配していました。そんな中、私はというと……………


「絶対に負けません」


1日経っても尚、自分こそが生徒達を導いていく存在だと未だ姿を現さない者達に向けた対抗心のようなものは収まる気配がまるでありませんでした。






――――――――――――――――――――






扉を開け、教室へと入った俺達を迎えたのは驚きと戸惑いの視線だった。余程珍しいのか特に人族ではないメンバー達に視線が注がれている。だが、それも俺が言葉を発するまでの話だった。


「今日から少しの間、特別講師を務めることになったクラン"黒天の星"だ。俺達は普段、冒険者として活動しているがこの度、依頼を受けお前達を指導していくことになった。形式としてはここにいる総勢17名が交代で授業を受け持つということになる。あと見てもらえば分かると思うが、人族以外や明らかに幼いクランメンバーもいて違和感を感じる者もいるだろう。それについてまずは言っておく。この王国が人族至上主義を謳っているのは予め知っていた。だが、そんなこと俺達には関係がないし、強制も一切するな。また年齢についても特に指定がなく、俺の独断でメンバーを選定していいと言われた為、こういう結果になった。いずれにしても実力があれば、そんなことは小さな問題だ。他種族でもメチャメチャ活躍している冒険者もいれば、若くして出世した冒険者もいる。要は強ければいい。この世界は力が全てだからな」


誰もがいきなりの自己紹介に面食らい、言葉を発せずにいた。完全にこちらのペースだった。


「あ、名前を言うの忘れてたな。俺はシンヤ・モリタニ。"黒天の星"のクランマスターだ。以上で何もなければ、このまま……………」


「ち、ちょっと待って下さい!」


しかし、そのペースを崩そうとしたのか、はたまた別の意図があったのかは計りかねるが1人の少女が大きな声を発した。


「はじめまして。セーラと申します。先程のあなたの発言に気になるところがあったので意見させて頂きます」


「ああ」


「人族至上主義が関係ないし、強制もするなと仰っていましたが"郷に入れば郷に従え"という言葉があるのでは?カンパル王国に入国した時点でこちらの考え方に従うべきではないでしょうか?」


「その必要はないな」


「それは何故ですか?」


「至ってシンプルな理由だ。彼女達は俺の大切な仲間だからだ。お前の言いたいことも分かるがそれは迷惑をかけてきたり、嫌な思いをさせてくる者に言え。誰にも迷惑をかけず、ただただ幸せに生きようとする者の権利を奪うことなど、たとえこの国の王であってもしてはならない」


「でも人族ではないんですよ?」


「だから、どうした?こいつらがお前達に何かしたか?まさか、何もしていないのに追い出す気じゃないだろうな」


「いや、それは…………」


「この国の者達はその考え方が浸透して、当たり前になっているから、本質に気が付きやしない。外に出てみろ。そんなくだらない考えなんて、すぐに吹き飛ぶぞ」


「言うに事欠いてっ!今すぐ取り消して下さい!」


「お前こそ自分の発言を取り消した方がいいんじゃないのか?後でこの場面を思い出したら、恥ずかしくなるのはお前の方だぞ」


「くっ…………ああ言えばこう言って…………まぁ、いいです。とりあえず、その話は一旦保留にします。でも、もう1つの問題は流石に今、この場で解決しなければなりません!」


「何だ?」


「明らかに小さな女の子がいるじゃないですか!そんな子が戦える訳ないでしょう!」


「俺はさっき何て言った?年齢については特に指定がなかったと言わなかったか?当然、戦える者を選定したに決まっているだろう。まぁ、とはいってもうちに非戦闘員は1人もいないし、全員お前達よりも圧倒的に強いから安心してくれ」


「なっ!?そ、それってどういう意味ですか!」


「俺達からしたら、お前達は全員雑魚だって言ってんだよ」


「馬鹿にしないで下さい!そんなに言うんだったら、証拠でも見せて下さいよ!」


「ああ、見せてやる。じゃあ外に行くぞ」

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