第100話 おかえり

「とんでもない奴だ…………起き上がって、すぐに失った両腕を再生して、新たなスキルでステータスを元に戻した後、さらにスキルをいくつも重ね掛けとは…………」


「ご丁寧な解説、どうも。ただお前のような反則級な存在に言われたくはないな」


「我もお前もそれはそう変わらんさ。現にあの一瞬でここまで強くなる奴など今まで聞いたこともないし、見たこともない」


「そうか。じゃあ、その強さを最初に味わえるのは嬉しいだろ」


「ふんっ、思い上がるなよ?いくら強くなったからといって、我の上を行こうなどと…………」


「"神滅刀"」


「ぐはっ!な、何!?」


「あれ〜?おかしいな?これ、さっきと同じ技なんだが?…………で?何だって?我の上がどうとか」


「お、お前!!」


「その顔が見たかったんだ。常に自分が優位だと思ってさっさととどめを刺さないから、こうなるんだ。だから、技も食らうし足元も掬われる………………俺はお前とは違う。ここからは絶対に死なないよう死ぬ気でお前を倒す!!」


「お前みたいな矛盾したことを言う奴には絶対に負けん!!」


こうしてお互いが死力を尽くし生死をかけた戦いが幕を開けた。


――――――――――――――――――――






「んぅ?…………あ、あれ?私…………」


「ティア!目が覚めたんですのね?」


「ええ……………あれ?確かシンヤさん達が来るまで邪神と戦っていたような」


「そうですわ。よく頑張りましたわ!本当にありがとうございます」


「…………でも結局、歯が立たずに私は倒れてしまって……………情けないです」


「何を言うんですの!あんな化け物相手に良くあれだけ頑張りましたわ!あなたは自分に厳し過ぎるんですの!こんな時ぐらい自分を褒めたらいいんですわ!それでも納得できないなら、私がいくらでも褒めて差し上げますわ!光栄に思いなさい!」


「サラ…………あなた…………」


「ふんっ!」


「ありがとうございます」


「…………何で私がお礼を言われるんですの」


「私を回復してくれて、こうして守ってくれているじゃありませんか…………ところで話は変わりますが今は」


「見ての通りですわ。シンヤさんが邪神と戦っていますの」


「流石シンヤさんですね。何だか急に強くなっている気がしますが」


「ええ。実際、先程までは邪神に危うくとどめを刺される寸前でしたの。倒れ伏して動けない状態みたいでしたし……………ですが、急に立ち上がったかと思うと別人みたいに邪神相手にあれだけの攻撃をできるようになってましたわ」


「何かがあったんでしょうか?」


「そうみたいですわね。そして、それは私達にも影響を及ぼしているようですの。ティア、あなた自分のステータスを確認してみて下さる?何か変化が起こっているかもしれないですわ」


「はい。どれどれ……………えっ!?こ、これは……………」


「やっぱり、あったんですのね」


「もしかして、サラも?」


「ええ…………私達だけでなく他のメンバーにも同じようなことが起こっているかもしれないですわ」


「まさか、こんなスキルが眠っていたなんて」


「このスキルを使えば、シンヤさんがピンチの時、役に立てるかもしれないですわね」


「ええ。いつ出番が来ても良いように態勢を整えておいた方がいいですね」


――――――――――――――――――――






「"黒神刀"!!」


「ぐはっ!………"破滅斬"!!」


「"崩煌刀"!!」


「ええい、小賢しい!いい加減、くたばったらどうだ!」


戦い始めて、かれこれ10分が経過していた。その間に行われた攻防により、両者とも傷を負っていたがその大きさには差があった。シンヤは邪神の攻撃をほぼ見切っており、防御にしても受け流すにしても撃ち漏らしが少なく軽い切り傷が生まれているだけである。一方の邪神は自身の攻撃をシンヤに上手く当てることができず、防御も間に合っていなかった。その為、ダメージが徐々に蓄積されていき、遂には……………


「くっ…………か、身体が」


立つことも難しくなっていた。たった一瞬で先程までとは大きく変わった状況。攻守の主導権が完全に逆転し、自身が見下していた筈の人間にいいようにされている。これはあの時とほぼ同じ状況ではないか?と邪神は思った。その昔、自身の力に慢心し驕り、気を抜いたその瞬間、憎っくき勇者達に封印されてしまったあの時と……………そして、現在それをもう一度繰り返そうとしている。そもそも何故、この者達を発見した時すぐに片付けようとしなかった?小手調べのようなことをして、上から目線で相手の力量を計る必要が一体どこにあったというんだ?身体を慣らす為だと言い訳をして、ただ戯れていたかっただけなのか?それとも別の理由か?どちらにしてもこの者達の潜在的な力を完全に見誤り、隙を与えてしまったのは事実だ。自分はあの時、確かに学んでいたはずだった。戦闘スタイル以前に根本の考え方を見直さなければこうなる危険性があると……………しかし、起こってしまったことはもうどうしようもない。今は目の前のこの者にどう立ち向かっていくかが重要だ。


「……………とか考えているのか?」


「っ!!」


「顔を見ていれば、大体の想像はつく。だが、残念なお知らせだ。お前がいくら策を練り、どんな手で立ち向かってこようが次の一撃で終わらせる」


「ぐっ!そ、そんなことをさせると思うか?我を一撃で葬るなど、よっぽどの大技に違いない。そんなものを放とうとすれば、きっと大きな隙が生じる!それを待っていてやるほど、こちらに余裕はないぞ!」


「確かに俺、1人なら厳しかっただろうな。だが、俺はお前とは違う………………俺にはかけがえのない仲間達がいるんだ!!」


「な、何だと!?まだ伏兵がいたのか!?」


「ティア、サラ!」


「「只今、ここに!!」」


「誰かと思えば……………その2人か。忘れたのか?我に遠く及ばないことを………」


「お前の方こそ忘れたのか?その油断のせいでこれまで大変な目に遭ってきたことをな!」


「ま、まさか!」


「ティア、サラ!これから大技を使う!10秒だけでいい。時間稼ぎを頼んだ!」


「「お任せを!!」」


確かにさっきまではこの2人も邪神に全く歯が立たなかっただろう。しかし、今は違う。俺が死の淵に立ち、再起を誓ったあの瞬間、新たな固有スキルを授かったのは別に俺だけではなかったのだ。もっと正確に言うとこの2人の場合、元々潜在的にはあったが"???"としか表記されておらず、しっかりと発現していなかったのだ。それが今回、ちゃんとした固有スキルとして明らかとなり、使用できるようになったのである。そして、その固有スキルとは……………


「「"先祖返り!!"」」


先祖返り………簡単に言うととてつもないチート級の力である。1週間に1度しか使用できないが10秒間、全ステータスを10倍にすることができる。それは俺が大技を放つのにかかる時間ちょうどであり、おそらく今の弱った邪神相手ならば、持ち堪えることができるだろう。というより、絶対にこの2人ならできる。俺はそれほど信頼しているのだ。


「くそっ!そこをどけ!"消滅波"!!」


「「絶対に退きません(わ)!!"神滅波"!!」」


「何故だ何故だ何故だ!こんな序盤で!出てきてすぐに!"破滅籠"!!」


「「そんなの知りません(わ)!!"神滅光"!!」」


「お前ら!!これ以上、我の邪魔をするな!!"巨星滅砲"!!」


「「それはこっちの台詞です(わ)!!"邪神滅剣"!!」」


何やら喚いているのが1匹いるが、ティアとサラのおかげで準備はできた。後は…………


「2人共、助かった!もう大丈夫だ!後は俺に任せろ!」


「「はい!!」」


2人と入れ替わるように俺は邪神の前へと進み出た。いつもは片手で持つ刀を両手でしっかりと持ち、深呼吸をする。ミスは許されない。放ったら確実に邪神へ当て仕留めなければ今度はこちらが返り討ちに遭うかもしれない。常人であれば、とてもではないが耐えられない程のプレッシャーと緊張感の中、俺は不思議と落ち着いていた。俺は奴と違って1人ではない。支えてくれる大切な仲間やこれまでの様々な出会い、そして暮らしがあるのだ。奴では手に入れることのできない尊いものがそこにはある。奴にはあって俺にはないもの。それは……………負ける要素だ!!


「くそが!本当ならお前なんかにやられる筈では!!」


「本当も何もこれが現実だ!あの世でずっと悔いていろ!黒刀滅神技"絶栄"!!」


「くそ〜〜〜!覚えてろ!いつか生まれ変わってお前を!!」


この瞬間、邪神という世界にとっての脅威は消え去った。そして、それから少しして各地で動き回っていたアスターロ教のほとんどの者達も捕らわれ、あるいは撤退を余儀なくされ、これ以上被害が出ることは阻止された。結果、大きな犠牲を伴った地もあるがアスターロ教は大敗を喫し、その歴史に幕を閉じることとなったのだ。今回の一連の出来事を通して改めて日常を守ることの大切さを痛感した各国や各都市では代表者が集まり、もう二度とこのようなことがないよう再発防止に向けた会議を行う運びとなるのだが、それはまだ当分先の話である。まず優先されるべきは負傷者の手当てや復興である。いずれにしてもすぐに動くということは難しく、可及的速やかに行わなければならない案件でないのであれば、多くの者が取るべき行動はたった一つである。それは……………休息だ。


――――――――――――――――――――





「何だ、緊張しているのか?」


「だって…………」


あれから数日が経った。邪神を倒した俺達はクランメンバーの安否確認の後に一度フリーダムのクランハウスへと全員で戻り、休息を取った。皆、各地でどういうことがあったのかお互いに語り合う中、俺はというとブロンやミームの元を訪れ、その後の話を聞いたり、とある人物に会いに行ったりしていた。その人物とはノエであった。


「お前の事情は分かったと言っただろ?だから、こうして一緒にいるんだろうが」


「ごめん、なさい」


俺とノエは現在、クランハウスの扉の前にいた。クランメンバーにはノエの過去も今回のこともまだ話していない為、ノエが一向に帰ってこないことをしきりに心配していた。それを解消する為にシリスティラビンのクランハウスでカグヤと共に療養していたノエが完全回復したのを見計らって、ここまで連れてきたのだ。


「謝るな。お前が全て悪い訳じゃない。かと言って全く悪くない訳でもないが…………カグヤがどうしてお前を生かしたのか分からないとは言わせないぞ」


「………………」


「ちゃんとみんなに全てを話して謝って、仲直りすればいいんだ」


「でもっ!!」


「そこまで渋るってことはみんなを信用していないのと一緒だ。確かにお前の事情はとても可哀想なものかもしれないが、他にもそんなのを抱え込んでいる奴は山程いる。ハッキリ言って、お前の悩みなんてこの世界からしてみたら、随分と小さなものだ。そんな小さいことをあいつらが一々気にして、お前を遠ざけるとでも思っているのか?笑わせるな……………あいつらを信じろ」


「…………うん、分かった。なかなか、踏ん切りが、つかなくて、ごめん」


「謝るのは俺にじゃないだろ?」


「…………やっぱり、シンヤは、凄い。強いし、かっこいいし、優しいし…………そんなシンヤが私は大好き」


「お前、口調が」


「ふふっ」


軽く微笑んだノエは勢いよく扉を開けた。そして、彼女を待っていた仲間達に事情を説明し謝った後、涙を流しながら仲良く抱き合った。しかし、ふと我に返った皆はノエに対してまず最初に言うべき台詞を言っていなかったことを思い出して、慌ててこう言った。


「「「「「「おかえり!!!!!」」」」」


「ただいま!!」


――――――――――――――――――――






ここはシンヤが今いる世界でもましてや彼が元いた世界でもない、全く理の違うどこか。そこは一切の音も聞こえない真っ白な空間であり、ある1人を除いては何もなかった。そして、その1人は俯いていた顔を上げると何もない空間に向かってこう言った。



「ごめんなさい…………全ては私が………」



その声はとても小さくどこかに吸い込まれていったのか、すぐに聞こえなくなった。何もない空間において、とても異質なことではあるが他に誰の目がある訳でもない。その者はその後もしばらくの間、同じ姿勢をしたまま動くことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る