第74話 真実

「さて、大人しくこちらに来てもらいましょうか」


「……………」


「すみません…………すみません」


「…………ミームよ、そう自分を責めるでない。お主のような心優しい男がこんなことをするのには何か訳があるんじゃろ?」


「あ…………それは」


「おい、一体何を言おうとしているんです?ミーム、あなたはただ言われたことをやればよいのです」


「ううっ…………」


「なるほど、今のやり取りだけでお主らのクランがどういうものなのか、だいたい分かった。まさか、陰に隠れて、このようなことをしておるとは…………」


「ここまでくるのに随分と苦労しましたよ…………なんせ、この街には貴方だけでなく、猛者も多い。それと長年の計画を邪魔するかのようなことがいくつも起こりました。特にあいつらがうざいのなんのって。事あるごとに数少ないクラン同士、仲良くしようとして……………だから、対抗戦に誘われた時は断るのに苦労しましたよ。私と同じ臆病者であるギヌですら、参加するって言いますし…………」


「お主が臆病者?ここまでのことをしでかしておいてか?」


「ええ。だから、陰で動いていたんですよ…………それなのに対抗戦の誘いのような我々を邪魔することが後を絶たなくて。それもこれも全部アイツらがこの街に現れたせいです」


「アイツら…………」


「クラン"黒天の星"ですよ。新人冒険者にして、数々の功績を残している、いけ好かない連中です。人は突然の変化に思わぬ反応をするものでしょう?でなければ、あのギヌが対抗戦のような催し物に参加するはずありません。おそらく、彼の中で何か思うことがあったのでしょう」


「……………」


「まぁ、最も邪魔されたと感じたのはそんなことではありませんけど…………」


「それは一体………」


「スタンピードですよ。せっかく、我々が傍観者を決め込み、あまり目立たずにいたのに……………奴らが止めやがったんです」


「ど、どういうことじゃ!あそこで食い止めていなければ、お主らも無事では済まなかったんじゃぞ!それではまるで初めから………」


「ええ、初めから我々はスタンピードが起こることを知っていましたし、いつでも逃げられる準備はできていました」


「っ!!な、何故…………!?」


「さ〜何故でしょうね?」


――――――――――――――――――――






「お〜お前ら、久しぶりだな」


「お久しぶりでございます、ダート様。お待ち申し上げておりました」


「ああ。この街に来たら、まずはお前らに顔見せとかないといけないと思ってな。おそらく、俺が来ることはヨールから聞いてるだろうし。まぁ、そんなことより、今までご苦労だったな。遂に魂の供給率が半分を越えたみたいだぞ」


「つ、遂にですか!」


「ああ。だから、俺達も方々に散って最終段階に向けての仕上げに入っているんだ。それから、今まで以上に教徒の動きも活発になってくる」


「なるほど…………ようやく、我々の悲願が達成される時が来るのですね」


「ああ。このまま上手くいけばな」


「大丈夫ですよ。その為にこうして危険因子を捕らえてあるんですから」


「どれどれ……………おっ、こいつがあの"魔剣"ブロンか。お前ら、気が早いな。せっかく、俺が直接やろうと思っていたのに」


「…………お主らがまさか繋がっておったとはな」


「お、もしかして、俺のことも知っているのか?」


「当然。と言っても知っておるのはギルドの上層部と一部の者だけじゃ。お主、アスターロ教の幹部"狂反"のダートであろう?」


「……………おい、ハイド。このジジイは捕らえて正解だったな。こいつ、俺の名前だけじゃなく、地位も二つ名ですら把握してやがる」


「ええ。長年、フリーダムにいて我々にとって最も危険だと判断したので捕らえました。現に我々が裏で動いていたこともうっすらと気付いていたみたいなので…………」


「なるほど。これから、世界中を恐怖に陥れようというのにこういう奴の邪魔が入っちゃ興醒めだからな」


「ええ」


「あ、あの〜」


「ん?どうしたんです、ミーム?」


「先程から随分と物騒な会話が繰り広げられているんですが…………魂の供給がどうとか、世界中を恐怖にとか」


「ああ、そのことですか。それなら、安心して下さい。貴方は別に知る必要はないですし、ただ言われたことをやっていればいいんです」


「おいおい、仲間はずれは良くないぞ。せっかくだから、教えてやれよ」


「よろしいのですか?」


「ああ。どうせ、知ったところで何もできんだろ。それなら、せめて真実を明かしてやった方がいい」


「なるほど、そういうことでしたら…………いいですか、ミーム?これから、話すことは他の誰にも話してはなりません。内容は我々の真の目的についてです」


「真の目的………ですか?」


「ええ。そもそも我々、Bランククラン"人猟役者"はとある目的の為、アスターロ教という方々の命によって、設立されました。いわゆる下部組織のようなものですね。そして、その目的はただ一つ……………アスターロ様という偉大な御方をこの世界に復活させることです」


「…………アスターロ様?それは一体、どんな御方なのでしょうか?」


「その昔、この世に蔓延る者全てを無に帰そうとした邪神様です。一時は世界滅亡というところまでいきかけましたが、寸前で勇者という者によって、封印されてしまったのです」


「そ、そんな危険なのを何故、復活させようとしているんですか!?」


「およそ、数十年前に現在、アスターロ教の教祖であらせられるランギル様に神託が下ったのです。"我を復活させよ。世界の滅亡に関してだが、それはしないから安心しろ。それどころか、お前らにとって、住みやすい世界を創り上げてやる"と。俄には信じ難いことでしたが、試しにその後も度々下った神託の通りに動いてみたところ、全てが上手くいったそうなのです。そこでこの御方の仰ることは間違いないと感じたランギル様がアスターロ教を立ち上げ、今日までアスターロ様の復活の為、活動を続けてきたという訳なのです」


「わ、私がやっていることもその活動の一環ですか?」


「ええ、もちろん。"人猟役者"の面々は主に裏で動く為の特殊部隊のようなもの。メンバーは普段、様々な職種に就き、そこで別の顔を演じています。それも全てはアスターロ様の為。人々の感情の揺らぎこそがあの御方を復活させるのに必要なもの」


「え…………じゃあ、魂の供給率とかいうのも」


「ええ。その際に発生する負の感情を生命力と共に吸い取っているんですよ。それがいわゆる"魂"と呼ばれているものですね」


「一体、どうやって…………」


「忘れたんですか?貴方が奴隷商を始める時に私が渡した魔道具があるでしょう?ずっと置いておくようにと言って」


「あ…………!!」


「思い出しましたか?」


「わ、私は今までなんてことを……………」


「知らないのも無理はありません。今、話した内容はアスターロ教と"人猟役者"の幹部しか知りませんから」


「ううっ…………」


「今更、後悔してももう遅いですよ。貴方は"人猟役者"のメンバーとして、これまで色々としてきたのですから。そして、これからも我々の命令を忠実にこなしていくことしかできません。その意味は分かりますよね?」


「…………はい」


「では早速、次の命令です。これを肌身離さず、持っていて下さい」


「これは……………?」


「そこにいるブロン・レジスターから取り上げた通信の魔道具です。ブロンは貴方の奴隷契約によって、命令がなければ身動きができない状態となっていますが、万が一があるといけません。あの忌々しい"黒天の星"とも何やら親しいみたいですし、助けを呼ばれでもしたら厄介ですからね」


「おい、ハイド。それこそ、それを使って、こいつが助けを呼ぶってことはないのか?通信の魔道具の受信側に表示される名は発信側の魔道具の所有者…………つまり、ブロンの筈だろ?」


「ミームはそんなことできませんよ。我々を裏切るということがどういうことになるのか、彼自身が一番良く分かっているでしょうし、弱味も握っていますので。それとその恐怖を乗り越えたとしても奴らとの間に信頼関係がありません。現にミームの報告で"黒天の星"は何にも気が付くことなく、この街を出ていったとありました。もし、ミームとの間に友情のようなものが芽生えていたとしたら、きっとその時点で動く筈です。つまり、奴らの中で彼の存在は眼中にないに等しいでしょう。奴らの行動の中には仲間の為に動くというものがあります。その点、ミームはその対象外。リスクに対してのリターンの可能性は限りなく低い。ここにきて、そんな賭けはしないでしょう」


「そうか。残念だな。そいつらを一目見ておきたかったんだが………………」


「ダート様には申し訳ないのですが、なるべく不確定要素の乱入は潰しておきたいので……………ということで、我々の邪魔をする者は今後、この街に現れることはないでしょう」

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