第69話 とある王国の滅亡

ここはとある平原。所狭しと並ぶのはとある王国の兵士達。その数、約1万。皆、どこか覚悟を決めた顔をしており、開戦の狼煙が上がるのを今か今かと待っていた。辺りには緊張感からか、張り詰めた空気が漂い、誰1人として気を緩めることなく、背筋がしっかりと伸びた状態で前を向いていた。兵士達が見つめるその先、平原のど真ん中に自分達が仕える王とその取り巻き達が偉そうにふんぞり返り、今回の戦の相手である青年とその仲間である少女2名と対峙していた。


「ふんっ。約束通り、来たようだな」


「約束?あんなの脅迫だろ」


「貴様!一体、だれを目の前にして、そんな口の利き方をしている!」


何やら、王と取り巻きが青年に向かって、何かを言っていた。遠くにいる兵士達にはよく聞こえなかったが、どうせ無茶苦茶なことを言っているのだろうと勝手に結論付けていた。あいつらなら、そのぐらいのことはやりかねないと……………そもそも何故、こんな事態になっているのか。事の発端は王国に帰還したとある貴族のもたらした一報だった。曰く、"最近、急成長を遂げているクラン、黒天の星。こいつらには絶対に余計なことをするな。甘く見ていると必ず痛い目に遭う。現にちょっかいをかけた仲間の貴族が殺られた。我々も気を付けた方がいいだろう"と。これを聞いた王は発狂し、たかが冒険者ごときに馬鹿にされたまま、おめおめと引き下がる訳にはいかないとすぐに軍を編成させ、件の冒険者に向けて書状も書かせたのだ。ちなみにその内容はこういったものだった。



"拝啓、クソ冒険者。お前が元気かなんて、どうでもいいが、こちらはすこぶる調子が良い。ここ連日は天気にも恵まれ、非常に過ごしやすい日々かと思う。しかし、残念だ。その内、そんな日々を台無しにしてしまうような天気となってしまうだろう。もうじき、雨が降るのだ。お前の血の大雨がな!…………時間がもったいないので、早速本題に入るとする。こちらが指定した日時と場所に必ず来い。もし、破ればお前の大事なものを壊す。完膚なきまでに……………これは脅しではない。来るか来ないか、全ては任意である。だが、良く考えて決断することだな"




「のこのことやって来たということはワシらに恐れをなしたということ。何が大注目のクランじゃ。所詮は人の子。数や単位という暴力には勝てん」


「何か、勘違いしているようだから一応言っておくぞ。俺達がここに来た理由はお前らに恐れをなしたからでも大事なものを守る為でもない」


「ほぅ、では一体、どんな理由があるというんじゃ?ほれ、馬鹿になどせんから言ってみぃ。ま、言ったところで許してなどやらんがな。ガハハハハッーーーー!!」


「暇だったから」


「ハハハハハ……………は?」


「今、他の仲間達があることを行っていてな。その間は暇になるから、今の内に色々なことを片付けておこうと思ってな」


「…………貴様、ワシらを馬鹿にしとるのか?」


「いや、してない。ってか、興味もないし、眼中にないし、どうでもいい」


「ぬぐぐぐっ!絶対に許さん!おい、大臣!開戦の狼煙を上げろ!今すぐ、この高慢ちきなガキを討ち取るのじゃ!」


「やるのか?言っておくが、後で許してくれと言っても止めないぞ。その覚悟はあるのか?」


「ふんっ!この期に及んでまだ言うか!貴様らなんぞに許しを請う訳なかろう!」


「シンヤさん、私達は?」


「お前らの意思を尊重する」


「では、いかせて頂いても?この3人が久々過ぎて、私も興奮しておりますわ」


「あ、ずるい!私も参加させてもらいますよ、サラ」


「望むところですわ、ティア」


――――――――――――――――――――








「こちら、ーーー。本日のご報告です」


「頼む」


「彼等が例の王国を滅ぼしてから、1ヶ月が経ちましたが、あれから、ちょっかいをかける輩はうんと減りました」


「さすがに国相手に勝利を収めるような者に下手なことはできんだろ。それにしてもあれから、もう1ヶ月が経つのか…………随分と早いな」


「はい」


「そういえば、その時は上3人のみで他のクランメンバーはいなかったそうじゃないか。しかもクラマスは手を出さず、"二彩じさい"と呼ばれる側近がやったんだろ?」


「みたいですね。私は現場にいなかったので、よく分からないんですが………」


「他の同志がちゃんとその場面を目撃している。一言でいうと、そこは地獄のような場所だったらしい。見たこともないような魔法やスキルが飛び交い、次々と兵士達が倒されていったようだ。かと言って、別にその王国が弱かった訳ではない。現に優秀な魔法使いや剣の達人などが複数おり、様々な兵器もあったみたいだ。だが、そんなものは奴らの前では児戯に等しい。問答無用でそれらを打ち砕いていった。まさに天災のようだと」


「そんなことは言われなくても分かっています」


「そうだな。には愚問だったか」


「……………話を戻しまして、もう1つの報告です。遂に彼等のクランが盤石の体制を整えました。幹部"十人十色"の下にそれぞれ10人の組長達、まとめて"十長とさ"と言うみたいですが、その部下である組員達の育成がどうやら完了したようです。さらには従魔部隊なるものも編成され、いよいよ向かう所敵なしという状況に…………これに危機感を覚えた"四継"や"雲海"、"炎剣"が動き出したとの情報もございます」


「たしかクラマスや側近が王国と殺り合っている時に他のメンバーが色々な場所でクラン拡大の為に動いていたんだっけか」


「はい」


「これはいよいよ危ない状況になってきたな……………だが、こちらもその間にかなり準備をさせてもらったがな」


「準備?」


「いや、何でもない。では引き続き、監視の任を続けてくれ。何かあったら、定期報告だけでなく、いつでも呼んでくれて構わない」


「かしこまりました。お疲れ様でした」


「ああ」




報告を終えた私は壁にもたれ掛かりながら、一息つく。空を見上げれば、青々としており、今の心境との差異に顔を思わず顰める。現在、自分がいる場所が路地裏という薄暗いところなのも相まって、どんどんと陰気臭くなっていくのが分かる。分かっていても止められない。止める気もない。今の自分にはこれがお似合いだ。それにしても……………


「いつまでこんなことを続ければいいのかな」


ここには私1人しかいない。当然、私の問いは誰にも届かず、反響して、自分へと返ってきた。それはまるで自分自身で答えを出せと誰かに言われているような気がしてならなかった。

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