第40話 出立
「ええっ、この街を出る!?」
「ああ。店主には世話になったから、挨拶に来た。今までありがとう。といっても、もしかしたら、すぐに戻ってくるかもしれないけどな」
「そうですか…………。街の救世主様ということを抜きにしても寂しくなりますね。こちらこそ、カグヤとイヴを引き取って頂いて、ありがとうございます。これからも2人のこと、よろしくお願い致します」
「ああ。悪いな、急に居なくなって…………そっちも困るだろ。なんせ、上に報告ができなくなるんだからな」
「ほ、報告!?い、一体、何のこと……」
「落ち着け。大丈夫だ、店主には手を出さない。なぜなら、俺があんたを気に入っているからだ。だから、今まで見逃してやっていた…………きっと何か理由があるんだろ?」
「す、すみません…………」
「まぁ、いいさ。それは今度会った時にでも聞かせてくれ」
「……………」
「そう暗い顔をするな。店主が罪悪感に苛まれる必要はないし、俺が勝手にそう思ったってだけだ。だから、上へもシンヤ一行は何にも気が付くことなく、街を出ていったと報告してくれればいい。そうすれば、店主がしくじったと思われずに済むだろ?」
「ほ、本当によろしいんですか?わ、私にそこまで」
「気にすんな。あと覚えておけ。俺は店主の………ミーム・トリセルの味方だ」
「ありがとうございます…………では行ってらっしゃいませ。皆様のご無事を心の底から祈っております」
「ああ、行ってくる」
――――――――――――――――――――
「よろしいんですか?見逃して」
「ああ…………不思議とあの男は嫌いになれないんだ」
「では組織の方を?」
「いや、それは向こうが本格的にこちらに何かしてきた時だな…………だから、お前らも常に警戒は怠るなよ?」
「かしこまりました!」
「襲ってきたら、魔物の餌にしてやりますわ」
「遂にアタシも組織壊滅デビューか?」
「そんな、デビューは、ない」
「…………っていうか、サラさんもサラッととんでもないこと言ってますよね?」
「ププッ………こほんっ。ダジャレのレベルが低すぎるのじゃ」
「今、軽く笑っていただろう」
「もし、戦いなんてことになったら、相手に同情するわ」
「覚えてやがれデス!」
「それ、悪役の台詞なの」
――――――――――――――――――――
「そうか…………やはり、行くんじゃな?」
「ああ。今までありがとう。どうやら、随分と俺達のことを気にかけてくれてたみたいだな」
「な、何のことか分からんのぅ………ってニヤニヤするでない!お主らもその生暖かい目はやめるのじゃ!」
「ジジイの照れ顔とか、めっちゃキショいな」
「ふんっ!ワシもお主のようなガキんちょが居なくなって、せいせいするわ」
「おい、くだらんことで話を脱線させるな」
「それはお主も一緒じゃ!」
「同レベル………」
「ツッコむ方がいらっしゃらないと収拾がつかなくなりますわ」
「とにかく、これの更新はここではできないんだろ?」
「そうじゃな、残念ながら…………じゃが、今すぐでなくとも。ま、まぁ別にワシはどうでもいいんじゃが」
「いや、実は迷宮都市での目的はもう1つあってな………何らかのトラブルに巻き込まれた場合などを考えると今から余裕を持って出発しておいた方がいいと思ってな」
「もう1つの目的?なんじゃ、それは」
「ずばり、オークションだ」
――――――――――――――――――――
「あ、シンヤさん!おかえりなさい!マスターとのお別れは済みました?」
「ああ。お前らも今までありがとう。俺達の相手は大変だっただろ?」
「そうですね………色々なことがありましたね。でも、シンヤさん達がいらしてから、間違いなく何かが変わりました!こちらこそ、今までありがとうございました!」
「どういたしまして」
「それにしても一番寂しく感じているのはやっぱり、マスターでしょうね」
「ん?どういうことだ?」
「あれ?もしかして、知らないんですか?」
「何をだ?」
「いえ、実はマスターには昔、シンヤさんぐらいの歳の息子さんがいらっしゃったんです。すごく溺愛していたらしいのですが、それを直接、態度で本人に示すことはなかったそうで当時は今ほどの余裕もなく、毎日仕事ばかりしていたみたいです。そのせいか、相手にされていないと感じた息子さんが冒険者になって、復讐と称して身の丈に合わないクエストをわざわざ受注したんです。これをクリアして見返してやると………。ですが、息子さんはそのまま行ったきり、帰ってこなかったのです。マスターは深く悲しみ、己の不甲斐なさ、そして息子さんが感じていたものに全く気が付いていなかったことを激しく後悔しました。そこからです。マスターが冒険者に対して、熱心に指導を行い、依頼を失敗した時の罰則を設けたのは。今後、こういったことがあってはならない、自分がまだ生きている内はしっかりと見張っていようと決めたんです」
「……………」
「もしかしたら、息子さんもただ見返したいだけでそんな行動に出た訳じゃないんじゃないでしょうか。普段、仕事で冒険者のことばかり考えている父親に自分のことももっと見て欲しい、認めてもらいたいと思って冒険者になったとか………」
「…………俺に対して、特に世話を焼く理由は?」
「ああ、それはですね……………」
――――――――――――――――――――
「おい、この世話焼きジジイ!」
「うおっ、な、何じゃ、シンヤか。驚かすでないぞよ。いきなり、ギルドマスター室を開けて入ってくるから、何事かと思ったわい。人がせっかく、これから休憩を………」
「何を勘違いしてるのか知らないが、言っておくけどな………」
「ど、どうしたというんじゃ。一旦、落ち着け」
「今生の別れじゃねぇんだぞ!約束してやるよ!俺達は必ず、ここに戻ってくる!それが一体、いつになるのかはまだ分からないが…………そうじゃなくても何か困ったことがあれば、いつでも言え!」
「………………」
「ここに通信の魔道具を置いていく。忘れるな。助けが欲しければ、いつでも呼べ………すぐに駆けつけるから」
「な、何なのじゃ、お主は………こ、こんな老いぼれごときにそんなことを…………わざわざ大声を出してまで言うことか?」
「もう一つだけ言っておくことがある」
「?」
「いいか?一度しか言わないから、よく聞いとけよ」
「う、うむ」
「俺・も・お前のことを本当の父親のように思っている」
「…………お、お主…………一体、どこでそれを」
「じゃあ、元気でな」
「ち、ちょっと待っとくれ!おい、シンヤ!」
――――――――――――――――――――
「ああ、それはですね…………なんでもシンヤさんがその息子さんにそっくりだそうですよ?といっても髪色とか性格は全然似てないみたいなんですが、顔と雰囲気は息子さんそのものらしいんです」
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