第35話 対抗戦

「は?お前、まだそんなこと言ってんのか?舐めんのも大概にしろよ!」


「お、土下座野郎、威勢がいいな。そんなお前のところにはドルツを送り込むわ。ってことで頑張って対策でも考えてな」


「土下座野郎だと!ふざけんじゃ………ってか、ドルツ!?おい、ただの情報屋がどうしてここにいるんだよ!」


「で、ヒョロ眼鏡。お前のところにはラミュラを向かわせる。気を付けろ。こいつは戦闘に関して、妥協しないからな」


「無視すんな!俺の質問に答えろ!」


「ヒョロ眼鏡!?僕にはギヌっていう、ちゃんとした名前があるんだけど………」


「で、最後にお前んとこにはアスカな。こいつはラミュラほど武闘派って訳じゃないから、そこは安心しろ。ただし、地雷は踏むなよ」


「先程から、なぜ他人の話を聞こうとしないのだ………」


「んじゃ、対抗戦を始めるか」


「「「お前が仕切るな!!!」」」



――――――――――――――――――――



今回の対抗戦、試合形式は攻城戦で場所はフリーダム周辺に誰にも迷惑をかけない広い土地がある為、そこを使うことになった。それぞれのクランはお互いの城のある場所が見えないほど離れており、道中に森や岩などの障害物も存在する。よって、城へと辿り着くまでにも攻撃を受ける可能性があり、かといって、そこで体力を使い過ぎると相手の陣地まで保たないこともあり得る。相手の戦力・戦況の把握や戦場での臨機応変な行動、冷静な判断力など多くのことが求められるこの戦い。勝っても負けても冒険者として得られるものは大きいだろう。そうは言っても勝つに越したことはない。また、自分達のクランの強大さを思い知らせる、またとない機会。中でも俺達以外の3つのクランはフリーダムの救世主を倒すことができれば、周りからの評価も鰻登りで仕事も取りやすくなる為、やる気に満ち溢れていた。そんな中、俺達はというと…………


「おい、誰だよスペードの10持ってんの!」


「そんなの言う訳ないじゃないですか」


「七並べは、性格で、勝敗が、決まる」


「いいや、戦略じゃぞ」


「そんなのどっちでもよろしいですわ。どうせ、ビリは決まっているのですから」


「早くしやがりやがれデスよ!」


「……エル、"やがり"が1つ多い」


「お前ら、これが終わったら、別のゲームするぞ」


暢気に自分達の城の中でトランプで遊んでいた。テーブルには所狭しとカードが並べられており、その真ん中にはクランのシンボルマークが入った旗が立っている。ちなみに俺達のクランのシンボルマークは黒の外套と左肩から右脇腹にかけて斜めに描かれた刀が重なったマークである。このマークは普段から、皆の黒衣にも入っていて、クラン設立の時に決めたものである。


「それにしても皆さん、上手くやれているんでしょうか?」


「ティア、心配か?」


「少し………」


「心配すんな。お前が手塩にかけて育てたんだ。あいつらはそんなヤワじゃねぇよ」


「いえ、私が心配しているのはちゃんと3人が手・加・減・できるのかどうかです」


「そっちかい!」



――――――――――――――――――――



俺の名はガルーヴァ。Bランククラン"サンバード"のクランマスターをしている。人呼んで"剛拳"ガルーヴァだ。10年前、俺は仲間達と一緒にクランを結成した。当時、俺達以外のクランは今ほどなく、ルーキーだなんだと騒がれていたことをまるで今日のことのように覚えている。周りは口を開けば、"やれ将来が楽しみ"だの、"こいつらと同じ時代にいれて良かった"だのとほざいていたがそれも数年もすると収まった。それどころか、"ガッカリした"や"期待させといて、この体たらくかよ"と好き勝手に言う始末。俺は思った。どんだけ自分勝手な奴等なんだと。勝手に期待して、勝手に裏切られたと勘違いして、勝手に失望して…………。いつか、絶対に見返してやる。あの時、自分達の目は曇りに曇っていたんだと、街の代表はギルドマスターではなく、領主でもなく、ましてや爵位持ちの貴族でもない。Bランク…………いや、未来のSランククラン"サンバード"なのだと!その反骨精神で今日までやってきたんだが…………一体、これはどういうことなんだ…………?思えば、初めてそいつらの噂を聞いた時から、どこかおかしいとは思っていた。そいつらは初めてフリーダムを訪れたその日の内にギルドですぐに揉め事を起こしたらしい。といっても絡まれたのを無視したら、逆上されて襲われた為、武力でもって解決したみたいだ。問題はその方法と相手である。よりにもよって、Bランククラン所属の有望株を殺してしまったのだ。普通は相手の素性が分からないうちは決して手を出さず穏便に済ませるのが冒険者達の中の暗黙の了解。どんだけ、こちらに非がなくともである。それを何も考えず、あっさりと手を下したのだ。いくら、冒険者になりたてとはいえ、不用心が過ぎる。そんな身の程知らずはすぐに消えていくだろうとその時は思っていた。しかし、心のどこかでもしかしたら、それも全て了解済みでたとえ全戦力を向けられたとしても確実にそれらを跳ね除けるだけの力と自信を持っているんじゃないかと考える自分もいたのは確かだ。そんな感じでそこから数週間が経った頃、ついに愚狼隊が動き出したと聞いた時はまた新人が減るのかという哀れみの気持ちが少し湧いたが弱い者が淘汰されていくのはこの世の常。それが嫌ならば、強くなればいいのだと半ば自分自身にも言い含める形で納得しかけた矢先、これまた驚きのニュースが飛び込んできた。なんでも愚狼隊が一夜にして壊滅。奴らのクランハウスに最後に出入りしていたのはなんと直近で揉めた相手………新人冒険者の仲間のドワーフだというのだ。だが、俺はそんなはずがないと一蹴し、裏組織の存在や闇の力を信じたくない者がそのドワーフを犯人に仕立て上げただけだと自他共に言い聞かせて回った……………今、思えば、俺の方こそ"天下のBランククランが新人冒険者の仲間ごときにやられたと思いたくない"と裏組織を犯人に仕立て上げていたのかもしれない。一体、なぜ今になって、そう思うのか。それは……………


「おい、A班!応答、願う!」


「B班!何をしている!」


「C班!報告は!?」


「どうなってる、D班!」


まるで不測の事態が起きたかのように城の中を忙しく動き回る仲間達。本来ならば、偵察や陽動・斥候に向かわせた班員達から魔道具を使って逐一報告が入るはずであった。しかし、どんだけ待っても来ない報告に焦りを募らせ、我慢ができなくなった仲間の1人が先程、試しに通信をしてみたところ、反応がなかったのだ。これはおかしいと他の者も一斉に通話をしようと試みたが結果は散々。聞こえてくるのはうわ言のように何かを呟いている声もしくは自然の音だけである。ここまで来て、俺はふと思い出した。あいつが言っていたあの言葉を…………


「つ、通信が繋がりました!おい!そちらはどうなっている!」


「こ、こちらE班!や、奴は化け物だ!たった1人で………ひぃっ!こ、こっちに来るな!なんで情報屋のお前がこんなに強いんだよ!」


そう、あいつは言っていたのだ。元情報屋のドルツをこちらに送り込むと。そして………


「たった1人だと!?そんなはずなかろう!それで一体何ができるってんだ!」


「ほ、本当なんだ!う、嘘じゃ………」


「E班?おい、E班!応答、願う!」


確かに言っていたのだ。全員で迎え撃つのは過剰戦力であると…………。だが、そんなことがあり得るのだろうか。Bランククラン相手にたった1人。それも奴らの中では新入り………それどころか冒険者自体もなって2週間しか経っていない。そんな奴が10年もBランククランとしてしのぎを削ってきた俺達を相手にするだと?…………ふざけるのも大概にしろ。こっちにもプライドってもんが…………


「あー、あー、聞こえるか?"サンバード"の諸君」


その時、E班が使っていたと思われる魔道具を介して、いきなり声が聞こえてきた…………ってこの声は!?


「俺だ、ドルツだ。今から、お前らの城に突撃するから、首を洗って待っとけよ…………あ、ちなみにそこら辺に転がってるお前らの仲間は殺してないから安心しろ。そんなことしたら、失格になっちまうからな」


「…………ただの情報屋風情が調子に乗りやがって!俺を誰だと思ってる!栄えあるBランククラン"サンバード"の………」


「あ、そういうのいいから…………あと元・情報屋な?今は超大型新人冒険者が仕切るクランの一員だから…………にしても10年経っても何も変わってないのな、お前。だから、未だにその位置で燻っているんじゃないか?」


「誰に向かって偉そうに説教してるんだ!来るなら、来いよ!その偉そうな口を叩けなくしてやる!もしかして、奴と同じクランだからって口調まで移ったのか?はっ、あんなのと同じとかお前も災難…………っ!!」


その瞬間、背筋を駆け抜けていったのは何だったのか。恐れか殺気かはたまた武者震いか…………いずれにしても俺の一言で空気がガラリと変わったことだけは確かだ。


「今、誰のことを悪く言った?」


「い、いや………」


「覚えておけよ。俺達、クランメンバーは全員を家族のように大切にしている。もし、その誰かを悪く言えば、威圧。手を出せば、武力行使。何度もしつこいようなら、一族もろとも根絶…………で、特に外部が触れちゃいけないのはシンヤだ。これには普段、温厚なあのアスカですら、豹変し鬼と化す………分かったら、二度とその地雷は踏むなよ。まぁ、今回は状況が状況だしな………良かったな?これが対抗戦で」


「っ!!」


「んじゃ、今から向かうから、覚悟しとけよ」


ドルツがそう言うと通信は途絶え、そこからは自然の音すら入ってこなくなった。俺とドルツとのやり取りを静かに見守っていた仲間達はそれを合図に一斉に動き出し、準備をし始めた。


「…………一体、何なんだ」


それはこの状況に関しての思いか、それとも自分自身に対する問いかけなのか………俺の吐いた呟きは無情にもバタバタと忙しなく動き回るこの環境では誰にも拾われなかったのである。

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