第31話 一触即発

「情報屋?」


「ああ」


「それなら、丁度いい。ちょっと聞きたいことが………」


俺がそこまで言いかけた時、不意に俺達に近付いてくる者達がいた。いつもならば、ここで無視をするが、そうなるとずっと付き纏われて邪魔される可能性がある為、今回だけは対応してやることにした。


「"黒天の星"クランマスター、"黒締"シンヤだな?」


「黒締?」


俺が困った顔でドルツを見るとすかさず教えてくれる。


「"黒締"ってのはお前の二つ名だ。ちなみに"黒天の星"全員に二つ名があるからな」


「へ〜…………で、お前は?」


「ふむ。やはり、俺を知らないか」


「ああ。ついでに言えば、そこの2人もな」


「なんだと!」


「よせ、ガルーヴァ!噂通り、こいつは他人に興味がないだけなんだ!」


「うるさい!お前ごときが俺様に指図するな!」


「なぁ、さっさと自己紹介してくれないか?時間がもったいないんだが」


「これは失礼。俺の名はオーロス。Aランククラン"守護団ガーディアンシールド"のクランマスターを務めている」


「ちっ……Bランククラン"サンバード"のクランマスター、ガルーヴァだ」


「同じくBランククラン"フォートレス"のクランマスター、ギヌとは僕のこと」


「ふ〜ん…………で?なんか用か?」


「テメェ…………さっきから、何なんだよ、その態度!」


「こら、ガルーヴァ!よしてくれ!」


「だから、お前ごときが………」


「…………もう行っていいか?」


「ま、待ってくれ!ここは俺が代表して、話をしよう。あまり時間を掛けたくなさそうなので、単刀直入に言うが…………俺達3つのクランと対抗戦をしてくれないか?」



――――――――――――――――――――



「対抗戦?何だ、それ」


「ぷっ、そんなのも知らねぇのかよ」


「礼儀も知らない奴に言われたくはないな」


「んだと!」


「ガルーヴァ!いちいち突っかからないでくれ!話が前に進まないじゃないか」


「ぐっ………分かったよ」


「で?」


「あ、ああ。クラン対抗戦とはクラン同士で何かルールを決めて、行う戦いのことだ。その時によって、勝敗の条件や環境、形式が異なるがいずれにしても勝った時に得られるものは大きい。例えば、金品や装備に物資、中にはクランハウスごと差し出すものもいる。皆、クランの誇りと尊厳をその一戦にかけて臨むのだ」


「…………なぜ、そんな提案を?」


「それは……」


「それはテメェがうちのメンバーを1人殺ったからだよ!」


「ん?………一体、誰のことだ?」


「お、お前!覚えてねぇのかよ!」


「ああ」


「な、なんて奴だ。人を殺しておいて、覚えてねぇだと………それもBランククランの」


「俺は危害を加えようとしてきたり、敵意を向けてくる・命をかけた勝負といった理由以外では基本的には殺さないぞ。それとこの際だから、はっきりと言っておくが………お前ら冒険者全般はランクが高いから、強い・偉いとか勝手にほざいているみたいだが、俺に……俺達にそんなものは一切通用しないからな。お前らの価値観を押し付けてくるなよ?俺達は敵意を向けてくる奴がいるのなら、そいつがどんな奴だろうが、完膚なきまでに叩き潰す。ただ、それだけだ…………たとえ、そいつがどんなランクだろうがな」


「…………ゴクリっ」


「で?俺が殺ったってのはいつ、どこでだ?」


「…………スタンピードが起きた日のフリーダム門前だ」


「…………ああ、あいつか。俺を詐欺師呼ばわりした」


「そ、そうだよ!」


「で?」


「そいつが俺のクランのメンバーで………」


「まさか、逆恨みとかじゃないだろうな?お前もあの場にいたのなら、一部始終は見ていたはずだろ」


「そ、そうだけどよ!何も殺すことはねぇだろ!」


「そういえば、あの場でそんなことを抜かした馬鹿がいたな…………お前はその後の俺の返答を聞いていなかったのか?」


「…………いいや、聞いていた」


「だったら、何故また突っ掛かってくる?こういう無駄なやり取りをしたくないから、ちゃんとあの場で言っておいたんだぞ…………仲間以外に同じことは二度言わないからな」


「………あの時、言っていたことは理解できるし、的を得ているとも思う。だが、感情は……感情だけはどうしようもない」


「本当に何も分かっていないんだな。そもそもあいつがあんなことを言わないようにクランマスターであるお前が教育していれば、そんなことにはならなかったんじゃないのか?俺はむしろ、あの言葉はあの場にいたクランマスターに向けて言ったんだがな………これで気付けよという最終通告といった形で。現にそこで勘づいたクランマスターはいない訳じゃない…………つまり、まとめるとお前があの男を殺したんだ」


「お、俺が!?」


「だって、そうだろ?どんな理由があるのかは分からないが、ちゃんとした教育を施さないというお前の怠慢により、あの男は死んだんだ。可哀想にな。こんな無能のせいでむざむざ命を散らすことになって………」


「ぐっ………」


「よって、先程から俺に突っ掛かってきているが、そんな権利など本来は一切ない。むしろ誠心誠意、謝罪をする立場だろ。うちのメンバーが申し訳ございませんと。部下の尻を拭うのもボスの務めなんじゃないのか?」


「……………」


「それができて、初めて次の話へ進めるようになる。だから、まずは謝罪だ。それがなければ、話すら聞いてやらんぞ」


「…………わ、分かった。謝」


「ちゃんと土下座して誠心誠意、謝れよ?暴言を吐いたりお門違いなことをしているんだから」


「くっ…………この度は大変申し訳ございませんでした」


「で?」


「………よろしければ、対抗戦を引き受けてもらえないでしょうか?」


その問い掛けに一言、俺はこう言った。




「いいだろう」

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