第8話 ランクアップ

「あ、そうだ。忘れてた」


俺はすっかり頭から抜け落ちていたある事をする為に先程までいた受付まで戻っていった。


「すまん。魔物の死体を買い取って欲しいんだが……ついでに装備も」


「あ、は、はい!かしこまりました!」


それから、俺はゴミの死体から剥ぎ取った装備に加えて、アイテムボックスから次々と魔物の死体を取り出していった。全て絶望の森で狩ったもので念の為、こんなこともあろうかと保管しておいたのだ。受付嬢はどんどんと積み上がっていく死体に一人ではさすがに手に負えないと思ったのか、他の職員にも声を掛けると急いで選別・査定へと取り掛かった。最初の内は魔物のレベルの高さに驚いたり、興奮したりしている者がちらほらといたが、どんなに対応しても終わる気配のない査定の連鎖にいつの間にか疲労困憊になっていた。そして、そんな時、彼女達は聞いてしまったのだ。これよりもさらなる地獄へと叩き落とす青年のその悪意のない一言を……。


「これで三割くらいか……」


ある者は目を丸くし、また、ある者は顔を青ざめさせた。中にはぶつぶつとうわ言のように何か呟いている者もいる。いずれにせよ、彼女達が気の毒であることに変わりはない。しかし、彼女達もプロ。目の前にこなさなければならないミッションがあるのなら、そこから逃げるわけにはいかない。ましてや、相手がギルド内で平然と殺しを行うような人物なのである。丁寧すぎる対応に越したことはないだろう。


「そこまでにしてやってくれんかの?」


すると受付嬢達がまるでこれから死地へと赴く戦士の表情を浮かべ、気を引き締め直しているところへ声が掛かった。


「誰だ、お前?」


「ワシか?ワシはな……ギルドマスターじゃ」



――――――――――――――――――――



「ほぅ…こいつはゴブリンキングか…大きいのぅ……こっちのはロックバード!おかしいのぅ……ここら辺では見かけないはずなんじゃが」


ギルドマスターと名乗った目の前の老人はあたふたしていた受付嬢達を押し除けると自ら、査定に参加してきた。ギルドマスターという言葉自体、虚言を吐いている可能性がある為、神眼を使ってみるとどうやら、嘘はついていないということが分かった。



――――――――――――――――――――


ブロン・レジスター

性別:男 種族:人族 年齢:73歳


Lv 50

HP 3000/3000

MP 2500/2500

ATK 1980

DEF 1867

AGI 1443

INT 1725

LUK 1000


固有スキル

金剛・火事場の馬鹿力・脳筋・限界突破・不屈の闘志・状態異常軽減・物理攻撃軽減・魔法攻撃軽減・賢人・魔学・薬学


武技スキル

剣術:Lv.7

槍術:Lv.3

杖術:Lv.5


魔法

火魔法:Lv.6

水魔法:Lv.5

土魔法:Lv.4

風魔法:Lv.6

無魔法:Lv.7


称号

ギルドマスター・魔法剣士の才・切り開く者・努力をこよなく愛する者・戦闘狂


――――――――――――――――――――



「……なるほど。よし、お主ら、査定が終わったぞ」


「ご苦労さん……受付嬢達」


「ワシにじゃないんかい!!」


「で、いくらになった?」


「無視かい……まぁ、ええわい。魔物の死体が合計100体で……金貨62枚と装備の方が銀貨500枚じゃ」


「了解……いきなり、大金持ちだ」


「言っとくが普通、新人冒険者は初日でこんな稼げんぞ」


「ふ〜ん」


「反応薄いのぅ……ところでお主ら、ちょいと時間はあるかの?」


「ない」


「まぁ、何となくそう言うと思ったが……いいから聞いとくれ。これから、ワシと模擬戦をしてくれんかの?ワシと良い勝負ができれば、お主…シンヤのランクをギルドマスター権限でFからDにするぞよ」


「その条件じゃあ、無理だ」


「ふむ…というと?」


「俺がお前に勝ったら、俺のランクをA、こいつらのをBにしろ」


「なんと……お主、無茶苦茶なことを言いよるのぅ」


「今、こうしている間にもお前に無駄な時間を使ってるんだ。ほら、早くしないと条件のランクを吊り上げるぞ」


「分かったのじゃ……では場所を変えようかの」



――――――――――――――――――――



「殺しはなし。どちらかが負けを認めるまで続ける。よいな?」


「ああ」


俺達は場所をギルドの地下にある訓練場へと移して、説明を聞いていた。目の前にはギルドマスターがいる。得物は直剣だが、魔法も得意としている俗に言う魔法剣士タイプ。容姿を言うと顔は年相応で眉毛や髭は白く伸びて垂れ下がっている。一見すると好々爺のように映るかもしれないが、目はギラつき、口の端を吊り上げて笑うその様子からは歴戦の戦士たる貫禄が溢れてやまない。そこから視線を下へとズラすと体は昔から鍛え込まれていることが一目で分かるほどガッチリとしている。所々、斬り傷や火傷の跡があり、この人物がいかに過酷な戦場に身を置いてきたのかが窺える。体幹もとてもしっかりしているのだろう。丸太のように太い2本の脚でどっしりと立つその威容はまるで樹齢100年を超える大樹が大地に根を張り、災害をものともせずに決して倒れない様を連想させる。………こいつはただの老人ではないな。


「では始め!」


「最初から全力でいくぞよ!遠慮はなしじゃ!金剛、脳筋、無魔法の重ね掛」


「それ以上、喋ったら、腕を斬り落とす」


だが、そんなものは関係ない。大きな力にはそれ以上の圧倒的な力を用いてねじ伏せる。今、この瞬間、この場で通用するのは忖度でも八百長でもましてや話し合いでもない。主導権を握り、優位に立つこと……これが全てである。


「な、い、一体、いつの間に」


「今の質問にだけは答えてやる。模擬戦が始まった瞬間、自力でお前の後ろに回り込んだ。ただ、それだけだ」


「ぐぬぅ……分かったのじゃ。審判!」


「は、はい!勝者、シンヤ・モリタニ!」



こうして俺達の冒険者ランクは初日から大いに上がったのだった。

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