第5話 一歩
リリアはこの日、心に決めていたことを実行しようとした。
夕食のテーブルで、リリアは心を決めてエレノアに顔を向けた。彼女は穏やかで誠実な表情を保ちながら、慎重に言葉を選んだ。
「お母様、お願いがあります」
エレノアはリリアを不思議そうに見つめたが、口に出す前にリリアに続けさせた。
「最近、私は経済や政治について学びたいと思っています。新しいことを学びたいのです」
エレノアは少し驚いたような表情を見せたが、その後、微笑みを浮かべた。
「それは立派な志だわ、リリア。でも、なぜ今になってそれを言い出したの?」
リリアは彼女の問いに対して真剣な表情で答えた。
「アンから学んでいることがあるのです。彼女のおかげで、自分が何かを成し遂げる力を感じています。でも、家族としての役割も果たしたいと思うようになり、そのためには経済や政治の知識も必要だと考えました。」
エレノアはリリアの言葉をじっくりと聞き入れ、考え込んだ。
最近何かおかしいと思ったけれど、本当におかしくなってしまったのかしら?学ぶ事など不要だとしていたというのに。
そして、伯爵である夫ローランドが彼女たちの会話に気付き、加わった。
「何か問題があるのか?」
エレノアはリリアの頼み事を説明し、その後の展開について尋ねた。伯爵はしばらく考えた後、重要な決断を下した。
「リリアの願いは立派なものだと思う。彼女が王国に貢献する意欲を持っているのなら、私たちもその夢をサポートすべきだろう。」
「え、ええ、そうね。私もそう思います。リリア、貴方に先生を付けてあげるわ。希望はあるかしら?」
伯爵はリリアに興味が無いと思っていたのに、家庭教師をさらに付けるなんて、まるで期待しているみたいだわ。
エレノアは少し驚いたが、最終的には夫の判断を受け入れた。
「あ、ありがとうございます。私はお父様達が選んでくださった方なら喜んで受け入れます」
リリアはすんなりと要望が通ったことに驚いた。
エレノアの反応は思った通りだったが、伯爵が許可するとは思わなかったのだ。
「最近、リリアの良い評価を聞くからな。これからも頑張るように」
「はい!ありがとうございます」
これからが戦いね……。リリアは自分に強く誓った。
伯爵はリリアの学びたい分野に合った家庭教師を見つけ、彼女の新たな旅路を支えることになった。
――――――
リリアが新しい家庭教師を迎えて半年が経つ頃には、妹であるクララと差が無いほどの知識を有していた。
「リリアももう12歳だ、そろそろお披露目会を開いても良いのではないか?」
「そうですね、クララも控えていることですし、良いと思います」
伯爵の言葉にエレノア夫人が答えた。
やはり、伯爵の言うことには従順なのね。家庭教師をつける時に伯爵がいる前で話したことは間違いではなかったわ。
私にとって良い方向に進んでいる。また同じ道を辿らないようにチャンスはこの手で掴むのよ。
リリアはより一層、タイミングを見計らうように努めようと心に決めた。
「エレノア、お披露目会のことは任せたぞ」
「はい、分かりました。リリア、どのようなドレスが良いかしら?」
伯爵からお披露目会を託されたエレノアは、リリアに顔を向け聞いた。
「そうですね、あまり華美では無いものが良いです」
「そう?貴方は髪色が地味なのだから、ドレスで着飾った方が良いのではなくて?」
エレノアやクララの金髪に比べると、確かに地味に見えるかもしれないが、手入れされたキャラメルブラウンの髪はリリアの顔をより際立たせた。
私は顔が良いから、髪色が地味でも良いのよ。華美なドレスを着ていた時は、贅沢だ、妹を見習えと言っていたじゃない。
「明日、セリンと一緒に洋裁店に行って決めます」
リリアは感情を押し殺して笑顔で答えた。
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