リリア・ヴァンダーヘイデン2
まずは、現状把握といきましょう。
「セリン、今日は何月だったかしら?」
リリアは侍女であるセリンに質問した。セリンは碧い瞳をパチリとさせ、答えた。
「3月20日です」
日付だけじゃ分からないじゃない。私がどのような状況にいるか判断するにはアヴァロン暦が必要だわ。リリアは続けて質問する。
「日記を書こうと思うのだけれど、アヴァロン暦何年だったかしら?」
「アヴァロン暦ですと1512年でございます」
「そう、ありがとう。後でペンとメモ帳を用意しておいてくれるかしら?」
「畏まりました」
セリンは朝日でキラキラと光る碧い瞳をパチパチとさせ答えた。お嬢様がお礼を言うなんて何年ぶりだっただろうか。セリンはただのお礼に懐かしい気持ちを思い出した。
――――――
朝食の時間になり、リリアは席に着いた。
「皆おはよう」
リリアの父であるローランド・ヴァンダーヘイデン伯爵が家族に挨拶した。彼はいつも皆が席に着いたあたりにやって来る。
「お父様、おはようございます」
リリアの弟であるアレクサンドルが答えた。その後、他の家族が挨拶を続けた。
「今日も良い日差しが出ていますね」
リリアの今の母親であるエレノアが言った。リリアを産んだイザベルは、身体が弱かったこともあり、リリアを産んだ後亡くなってしまった。その後に後妻として迎えられたのがエレノアである。
最初はエレノアもリリアも良い関係を築いていたが、リリアの弟であるアレクサンドルが産まれた後、リリアへの目は厳しくなっていった。妹にあたるクララが産まれるとさらに当たりは強くなった。
――――――
「お嬢様、仰っていたペンとメモ帳をご用意いたしました」
リリアの部屋で侍女のセリンがペンとメモ帳を差し出した。ペンとメモ帳にはこれでもかと言うほど飾りや宝石が着いており、書きにくそうだった。
うっ、そうだったわ……。リリアは煌びやかなペンとメモ帳、部屋を見渡して落ち込んだ。
自分に自信の無いリリアはフリフリのドレスや飾り立てられた多くの宝石を好んでいた。妹に勝てるのは多くの男性を惑わせた美貌だけだと感じていたため、沢山の贅沢品で自分を飾り立てていた。
「セリン、もう少し飾りの少ないペンはあるかしら?」
「は、はい!お持ちします」
普段は冷静なセリンは吃驚して思わず、言葉に詰まってしまった。
飾りはあるだけ良いと思っているようなお嬢様が、飾りの少ないものを欲するなんて……あのペンはお好きではかったのだろうか。
セリンは恐る恐る新しいペンを手渡した。
「ありがとう」
リリアはセリンにお礼を言った。
はぁ……私が華美なものを選ばなかったことに驚いているのね。私どれだけ贅沢していたのよ……。
リリアは過去の自分を恨んだ。
まあ、いいわ。これから私は悪女リリア・ヴァンダーヘイデンを抜け出すのよ!
まずは私が覚えている限りの出来事を書き出しましょう。
リリアは思うがままにペンを走らせた。
まず、今日は1512年の3月20日ね。私は12歳、アレクサンドルは10歳、クララは8歳。
アレクサンドルはアカデミーに通っているはずだけれど、春休みかしら?クララの教育ももう始まっているわね。
私も家庭教師などをつけてもらっているが、後妻であるエレノアに嫌われているため、十分な教育とは言えないだろう。リリア自身、勉強は苦手になっていた。
勉強が出来ずとも、男性達は寄ってきたから不要だと考えていたのよね。今はそんな事言ってられない。多くのことを学び、吸収して糧とするのよ。
リリアは決意を強めた。
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