第7話 アメリカ西海岸沿岸荒らし
イ201は船団襲撃を終え、すでに戦闘海面から数海里離れた海上を進路を方位60にとりロサンゼルスに向け原速よりやや速い10ノットで航行していた。
セイルの露天ブリッジに上がった明日香と鶴井静香艦長。
露天ブリッジには2人の他3人の見張り員が双眼鏡をのぞいおり、他に5人の乗組員が腰を下ろして15分の煙草休憩でくつろいでいた。
合わせて10人が露天ブリッジにいるわけだがイ201のセイルはそれなりに大きいので狭苦しいというほどではない。
「もうじき日が暮れる。
海に投げ出された連中の救助作業は明日の朝からになるんだろうが、フカもいそうな海だしほとんど助からんだろうな」
「そうですね」
「これが戦争だ」
「はい」
「せめて成仏してくれと祈るしかないな。
南無阿弥陀仏」
「南無阿弥陀仏」
「こんなところでする話でもないが、静香はこの戦争の落としどころをどう見る?」
「考えたことはありませんでした」
「アメリカの工業力はわが国の10倍を超えているそうだ。
このままずるずる戦争を続けていれば物量でわが国は飲み込まれてしまう。
時間は連中の味方だということだ」
「ということは?」
「なるべく早いうちに、敵の戦争意欲を挫く。それしかない」
「具体的に言うと?」
「アメリカは民主主義の国だ。
敵兵を1兵でも多く殺すことで市民は厭戦に傾く。
そうすれば帝国に戦争を仕掛けた今の政権は倒れる。
次の大統領選は2年後だが中間選挙は今年の11月だ。
ここで今の与党が大敗すればアメリカは必ず軟化し停戦の可能性が高まる。
そのためにも今月いっぱい暴れ回ってやる!」
「なるほど」
「軍部もバカじゃないから、このままアメリカ相手に戦っていたら大陸利権はおろか国体まで危うくなることくらいわかっているだろう。
逆にアメリカと停戦し和平が成ればアメリカも中国に一方的な肩入れができなくなる。
そうすれば中国は簡単に倒れる。
そのあとじっくりソ連と向き合うことも可能だ」
「ソ連とは不可侵条約を結んでいるのでは?」
「ソ連がそんなものを真面目に守ると思うか?
ドイツとの戦いに優勢になれば必ず連中は条約を反故にする。
こちらから条約を破ってまで打って出る必要はないが北への備えは必要だ」
鶴井艦長のほか、露天ブリッジにいた全員が黙って明日香の言葉を聞いていた。
戦後判明したこの日のイ201の戦果。
駆逐艦×4、沈没
輸送船×8、沈没(武器、弾薬、その他軍需物資3隻。兵員5隻(陸軍1個連隊+海兵1個大隊))
この時点でのイ201の魚雷と爆雷残数は、前部魚雷発射管室、魚雷12、後部魚雷発射管室、魚雷6、爆雷54。
日本時間10月9日、午後10時。ロサンゼルスの現地時間では10月9日の午前6時。
イ201はロサンゼルスの沖合30海里=55キロに到達していた。
50分後。日の出とともに潜望鏡深度まで潜航したイ201は6ノットでロサンゼルスの向かいにあるサンタカタリナ島を右手に、回り込むようロサンゼルス港に接近していった。
最初の船団襲撃からここまでの航海でイ201は再度護送船団を殲滅している。
前回同様先に駆逐艦を全滅させたから機雷でじっくり輸送船を沈めていく作戦を取ったため、駆逐艦の撃沈に魚雷を使用している。
戦後判明した2度目の船団襲撃の戦果。
軽巡×1、沈没
駆逐艦×5、沈没
輸送船×12、沈没(武器、弾薬、その他軍需物資4隻。兵員8隻(陸軍2個連隊)
今回の連合艦隊司令部への戦果報告では軽巡×1、駆逐艦×5、輸送船×12撃沈確実としている。
2回目の船団襲撃の結果イ201の残魚雷数は前部魚雷8、後部魚雷4、爆雷数は42となっており、大型艦を相手に大暴れするには、いささか心もとない状況となっていた。
そのため明日香はロサンゼルス沖からサンディエゴ沖まで南下しつつ商船狩りをし、サンデイエゴで大物を1、2隻食ってからクェゼリンに取って返し、補給後ハワイないしサンディエゴに向かうことにした。
サンディエゴからクェゼリンまでの距離は4370海里(8100キロ)あり毎時10ノットで航行して17日。
クェゼリン到着時には11月に入っており、11月のアメリカ中間選挙へ決定的影響を与えることは難しくなる。
しかし、武器が無くては戦えないので明日香も苦渋の決断をしたようだ。
日本時間10月10日、午前2時。現地時間で10月9日午前10時。
ロサンゼルス港から10キロ地点まで潜望鏡深度で接近したイ201は1時間ほど入出航する船の出現を待ったが、船影を認めなかった。
イ201はやむなく沿岸から12海里程度の距離置いてサンディエゴに向けて南下を開始した。
ロサンゼルスからサンディエゴまで110海里=200キロ、半速6ノットで18時間。夜間は9ノットで浮上航行する予定である。
日本時間10月10日、午後11時。サンディエゴの現地時間では10月9日の午前7時。
イ201はサンデイエゴ沖12海里に到達した。
途中発見した大型貨物船を標的として深度150からの機雷浮上試験を行なっている。
その結果海流の流速は時速約0.5ノット、方向は北から南であることが分かった。
標的とした貨物船は浮上試験で使用した機雷が命中し沈没している。
イ201はその他にも3隻の貨物船と1隻の油槽船を機雷で撃沈している。
サンデイエゴ沖に到達時の残魚雷数は前部魚雷8、後部魚雷4、爆雷数は37。
日は既に上がっているのでイ201は深度150で懸吊し3時間ごとに潜望鏡深度まで浮上し獲物を待った。
[あとがき]
ここでは、アメリカ西海岸時間は日本時間から16時間遅れているものとしています。
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