堀口明日香の仮想戦記その3、ハワイ封鎖
山口遊子
第1話 大佐昇進
ミッドウェーで赫々たる戦果を挙げた堀口明日香海軍中佐が艦長を務めるイ201はハワイ近海で商船狩りを行ない魚雷二本を残し、7月中旬、呉に帰投した。
現在はイ201潜と入れ替わるような形でいったんクェゼリンで補給を受けた第6艦隊所属の複数の潜水艦戦隊がハワイ周辺をパトロールし商船狩りを行なっている。
イ201の乗組員たちは3日ずつの半舷上陸で英気を養った。
そんな中、堀口明日香中佐と鶴井静香少佐は柱島泊地で投錨中の連合艦隊旗艦大和の長官室に呼ばれた。
呉から内火艇を仕立てた明日香は、副長の鶴井静香少佐を伴い大和に向かった。
「艦長はいいにしても、私まで呼ばれたというのは何でしょうね?」
「ミッドウェーでのわれわれの大活躍を褒めてくれるんじゃないか?」
「わざわざ長官が?」
亀井少佐が怪訝そうな顔をして明日香に返した。
「長官に褒められてはいかんのか?」
「そういう意味ではないんですが」
「金一封でも出れば乗組員たちにいい思いをさせてやれたんだか、まず金一封は無理だろうなー」
「ミッドウェーでの活躍はだれしも認めていますから、艦長は大佐に特進するかもしれませんよ」
「それならありがたいな。
だとすると静香も一緒に呼ばれたということは、静香も特進するんじゃないか?」
「それならうれしいですが、わたしは無理でしょう」
「そうかなー?」
大和の舷側に横付けした内火艇から舷側のタラップを駆け上り、迎えに出た当番兵の後について長官室に二人して入室した。
二人がテーブルに着いたところで、山本長官が、
「堀口中佐。今日付けできみは海軍大佐に昇進だ。おめでとう。ミッドウェーの英雄を感状で済ますわけにはいかんからな。
そして、鶴井少佐、きみも今日付けで中佐に昇進だ。おめでとう」
「「ありがとうございます」」
明日香の予想通りだった。
その後山本長官が続けて、
「イ202、イ203が来週竣工し引き渡される」
「はい」
「イ201、202、203の3隻で潜水戦隊を組む。きみは潜水戦隊司令として指揮を執ってくれ。
イ201は大型潜水艦ではあるが所詮は潜水艦だ。大佐を潜水艦長のまましておくわけにはいかんからな」
「はい。それで自分の後任は?」
「きみの後任は鶴井静香
「わたしが艦長に?」
「ほかに適任者がいるのかね?」
「はっ。いえ。ありがとうございます」
「うむ。
明日付けでイ202の艤装委員長の斎藤くんとイ203の艤装委員長の鈴木くんがおのおの中佐に昇進してそれぞれの艦長となるから、仲良くやってくれたまえ。
4人は兵学校の同期なんだろ?」
「はい。58期です」
「ほう。若いな。俺は32期だから26年先輩になるわけか。
そろそろ俺も引退だ」
「長官はまだまだお若いですから」
「そうかい。
きみのような若い女性にそう言ってもらえると嬉しいものだな。
それとイ204は引き渡しがしばらく先になるが、これもきみの戦隊に引き渡される。
艤装はまだ始まっていないはずだから、きみの好みで艤装委員長を選んでくれていいぞ」
「ありがとうございます。出来れば同期が望ましいんですが、海兵同期116名の中で潜水学校に進んだのは6名でしたからあと2人しかいません」
「結構少ないな。今はだいぶ潜水学校に進む生徒も多いようだが、彼らが艦長になるころにはこの戦争も終わっているだろうしな。
それはそうときみの潜水戦隊だが、連合艦隊司令部直轄部隊となる」
「潜水艦隊の第6艦隊ではなく?」
「そういうことになる。
ようは1個潜水戦隊ではあるが南雲くんの機動部隊と同じ扱いだ。
きみの戦隊は機動部隊同様優先的に物資などが支給される。
戦隊名は独立第1潜水戦隊でいいな」
「はい」
「うむ。
それで、きみの独立第1潜水戦隊にやってもらいたいことは、ハワイの封鎖だ」
「ハワイの封鎖?」
「そう、ハワイだ。
無線傍受班の分析によると、ハワイから発せられる敵艦からの無線数が極端に細り、サンディエゴからと思われる無線の数が急増しているそうだ」
「つまり、アメリカ海軍はハワイを捨ててサンディエゴに下がったということでしょうか?」
「軍令部ではそう見ているし、
これもきみのイ201潜のおかげのようだがな」
「それで、自分の潜水戦隊の任務は具体的にはどうなりますか?」
「独立第1潜水戦隊には9月初旬までに準備を整えハワイ方面に向け出撃し、10月、11月、12月の3カ月間ハワイを封鎖してもらいたい。
命令書は2、3日中にイ201に届ける」
「ついにハワイ攻略ですか?」
「いや。残念だがわが方の輸送船の船腹から考えてハワイは攻略できたとしても維持できないとの結論となった。
維持できない物を取ってしまえばそれが足かせになるからな。
そこで、その逆をやってやろうという作戦だ」
「というと?」
「ハワイの住民と陸軍部隊を囮にして米軍に出血を強いる。
きみの独立第1潜水戦隊によってだ。
知ってのとおり、ミッドウェーに連合艦隊全力で出張った関係で、わが方の燃料が心もとなくなってしまった。
武蔵の引き渡しは来月初めだが、しばらく大和や武蔵のような大食いの出番はないだろう。
とはいえ潜水艦程度はいくらでも動かせる。そこは安心してくれ。
イ202とイ203の訓練期間は1カ月少々しかないが、きみなら何とかできるだろ?」
「はい。1カ月で仕上げてみせます」
「うむ。よろしく頼む。
そうそう、一式機雷改について聞いているかね?」
「いえ、一式機雷が水中発射管から射出できる自動調深機雷であるということまでしか」
「一式改は一式を95式改酸素魚雷同様深度150から射出できるように改造したものだ」
「ということは
「そういうことになるな。魚雷を積むもよし、魚雷を減らして機雷を積むもよし。
そのあたりは戦隊司令であるきみに任せようじゃないか」
「はい!」
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