サイコパスが集まるとこうなる〜サイコパス純愛物語〜

@oootupai

第1話



誰が悪いとか、正義とか、もうそういう縛りから解放されてからある意味俺は無敵になった





















1



「ガーク君!!今日もなんか、、インキャ臭ぷんぷんだね!」

リーゼント頭の男が俺に言う。

「ちょwそれ言っちゃダメなヤツやん」

と言い、眼鏡をかけた低身長の痩せた男が笑う。

「まあ本人も自覚あるだろうよ」

ガタイの大きい野球部が俺を見下して言った。

「顔は良いのになー、言動が一々つまらんのよなー」

呆れ顔でそう言ったのは耳にピアスを開けた金髪のイケメンだ。ここの高校の校則の緩さが垣間見えている。

「何様だよお前」

呆れながらも今までの中ではかなりまともな発言をしたマッドサイエンティストみたいな男。(実際にあだ名がマッドサイエンティスト)

肩まで伸びた髪はボサボサで、目はなんだかギロついている。

風貌はマッドサイエンティストなのに言動は普通の男子中学生という奇妙な特徴を持つ男だ。


俺の元にやってきて、早々にバカにしてきた5人組。共通しているのはこの高校のヤンキーということだけで、それ以外は何もない。

5人全員個性豊かすぎだ。

それ故かは分からないが、この5人はいつも殴り合いなどの喧嘩をしている。

一回巻き込まれた時はこんな世界があるのかと目から鱗だった。

学校裏でバットを振り回したり、麻薬みたいなものを振り撒いたりと、やりたい放題の世界だ。

そんな彼らが俺と関わるのはカツアゲの為と言ったらとても彼ららしいのだが、そうではない。

俺に彼らが絡む理由はリーゼント野郎が俺と話す様子が大好きで、そのやりとりが面白いかららしい。


リーゼントはニシシと笑いながら机に突っ伏している俺の顔を覗き込む。

思わず俺は顔を上げた。

彼の笑みは男である俺でも惚れてしまいそうな程の美貌だ。

こんな俺には勿体ないが、このリーゼントは俺の親友だった。


「なんだよお前ら、ただ悪口言いたいだけだろ」

と俺が軽口を叩くと、

「ご名答!」

リーゼントは若干ムカつく気障ったらしいキメ顔をしていた。

「まあなんとでも言いやがれ!なんてんたって今日は、、、」


「遂に出荷が決まったのか?」

眼鏡野郎が神妙な顔で聞いてくる。

「俺は豚か」

全くことごとく話の腰を折る奴等だ。


「デートだよ!でえと!」


「え、ロバと?」

今度は野球部野郎が意味のわからん事を言う。

「人間と!」





(可愛くない方の)からかい上手なのは認めるが、これは万人ウケしないだろう。

インキャの最底辺の俺とつるむ奴等なだけある。凄くボケがイタイ。


「ま、まあ初めての彼女だからな!今日もまたメロメロにしてやるわ」

そう宣言する俺。

その宣言に何か突っ掛かるものがあったのか、リーゼントは顔を顰める。

「そんなにお前デート行ったん?何回や?」

「18回」


「めっちゃ即答するやん」

そう言ったのは風貌と反してまとも枠のマッドサイエンティスト君だ。


俺の即答具合に若干引き気味に5人は俺を見る。



「関心度がちげえんだよ!どこで何をしたかも即答できらぁ」

誇らしげに俺は胸を張る。

「ていうかお前俺とその彼女さん以外で誰かと遊んだ事ないっしょ笑だからよく覚えてんじゃない?」

そんな俺をリーゼントは馬鹿にする。

「うるせえ!彼女いねーような奴に言われてもしょうがない」

こんな美貌な容姿を持つリーゼントに彼女がいないのも変なものだが。

「それは理由ありきだわ」


「なんだよ?言ってみ」

少し興味があった俺はリーゼントと今日初めて目を合わせた。

だが、

「は?言わんよ」

そう俺の興味の矛先をバッサリ切り捨てるリーゼント。

「はは、これはウザいな!俺やっぱリーゼント嫌い」

俺に同情した野球部野郎が言い捨てた。



「まあ俺ら全員誰とでも敵同士だしぃ?お互い嫌いなのは当たり前よ」

そう鼻で笑った眼鏡野郎が言う。

彼の言う通りで、彼ら5人は全員仲が悪い。お互い嫌い合っている。金髪なんかは過去にリーゼントを撲殺しようとしてたそうだ。

そんな彼らが一緒につるんでるのも奇妙なものだが、実はお互いの隙の探り合いをする為やむを得ないのかもしれない。



「まとめるとお前ら全員クーズ」

そう言って俺は荷物を片付け始めた。

もう下らない雑談にも飽きたのだ。

「じゃーな!14時からなんだよね!デート」

そう言い残し、4時間目のチャイムが鳴るのと同時に俺は教室を出た。

その前にもう一度言ってみる。

「じゃーな!」

「………」

クラスの誰も返事をしてくれない教室を背に、俺は遂に歩き出したのだった。




13:34


「ゔーん、早すぎたな」

大門駅東口の階段を降りた所にあるラーメン屋の扉の横で呆然と呟く。

(大門駅とは日本に存在する大門市という大都会の、駅の事だ。鬼怖県に属している。)

集合時間の実に26分前である。

それを自覚して異様な虚しさが俺を襲った。


これで26分待つのは恥ずかしすぎる。


まるで俺が凄く楽しみにしてるみたいじゃないか。

中学生の俺にはその恥ずかしさを許せるほどの容量というか貫禄はなかったのだ。

と言う事で治安の悪い東口を少し散策しようとした時だった。

「あ、あのぉ、、」

そう掠れた声が背後から聞こえる。

この女性にしては低い声に聞き覚えがあった俺は後ろを振り返る。

すると可愛い女が上目遣いで俺の顔を見つめていた。

「お、お、おm、瑠璃子、来てたんだね!早ああぁ」

うぶぶぶぶぶと笑う俺。

「へへ!ちょっと早めにきちゃった」

そうはにかんだ笑顔を見せる瑠璃子という名の少女は正真正銘俺の彼女だ。

キリッとした目や、少しがたいのいい身体の彼女は見た目で見るとカッコいい印象を受けるだろう。それに相対して黒と白の縞々のダボダボの囚人服みたいな上半身のコーデに薄い生地のフリフリスカートを着用している。

かなり派手な服を着る、というか瑠璃子でしかあり得ない服装に俺は微笑みを隠せない。


言動は少し天然っぽい女の子で、そのクールな見た目とのギャップが堪らなく愛おしかった。

そして、そんな天使のような瑠璃子に俺はカッコいいところを見せなきゃならん。

そういうわけで、俺は今瑠璃子をリードするのに全神経を使っている。

「じゃ、じゃあ、行こっか」

さっと瑠璃子の手を取り東口の治安の悪い通りを歩く。

「そんな焦んなくていーよ」

必死な俺が見苦しかったのか、そう言って笑う彼女。

可愛いらしくて、昇天しそうになる。

「きょ、今日は、どっか店寄ろうぜ」


そうカタコトに言葉を紡ぐ俺。

「いやよ」

緊張で凝り固まった俺を彼女の甘い囁きが包む。

「ずっとこうして歩いてたいわ」 


瑠璃子は、俺の隣で歩きながら前を向いてそう言うのだった。

その幸せそうな横顔を見て、俺はただ彼女の言う事に従うことにした。

瑠璃子の奥に感じる絶対的な力に抗えないまま。

そう言うわけで、俺らは結局4時間くらい大宮駅周辺を何周も歩き回ったのだった。

ビルの屋上に上ったり、そこで変なコスプレした爺さんに屋上へ上がるんじゃないと怒られたり。


治安の悪い通りでよく分からんオッサンにタバコを勧められたりもした(作者体験談)。


そんな中身のない今日はただ過ぎてゆく。

今日俺と瑠璃子でトーク以外にした事といえば、遠距離カラオケアプリ、DM内容丸裸アプリ(このアプリで繋がった2人は、LAINE、Inustagram上でお互い誰とDMしてどんな会話をしたのか丸裸にできる。)、位置情報アプリとか、LAINE、Inustagramとか色んなアプリを交換させられた。


「なんか一つめっちゃメンヘラチックなアプリがある気がするんだけど、、」


「メンヘラ?本当に流行を知らないのね。全部学生なら入れてるはずのアプリよ?」

と半ば呆れられた。

スマホを買ったばかりなのでそういう流行についてはよく分からない。

なんだか騙されてる気がするがどーでも良い。

明日和貴とも交換しておこう、なんて思案する。

そんなこんなで18:30.


「ふー楽しかった」

満足そうに瑠璃子は言う。


相対的に疲れ切った俺はなんとか言葉を絞り出した。「足ガクガクだよ」




「ガクだけに?」そう言う瑠璃子はドヤ顔だ。


「つまんな」


なんだか俺の知り合いはボケが痛い奴ばかりだなと思った。

ゆうてリーゼント組と瑠璃子だけだけど、、、。

そんな感想に瑠璃子は、

「それは彼女に使う言葉やないわ。会う時のあのキョドリはどこいったのよ」 

と少しご立腹の様子だ。

「正直なにしても瑠璃子可愛い」

唐突に俺は言いたくなったのだ。

その発言の返答こそ付き合ってる彼女の言うこととは思えないものだった。

「おーそうか、お前だけイイ気分になりやがって。こっちは隣にブスだから大変だわ」


「ホンマにひどい」


カッカッカと笑う瑠璃子。

そんな彼女に“俺は一年生の時にクラスの6人の女子から告られたんやぞ!”と言ってやりたかったがやめておいた。

告られるたびに返事もせずその場から逃げまくった過去まで口を滑らせてしまうかもしれないからだ。


だから、あえて大袈裟に傷ついたリアクションを取る俺。

それを見兼ねた彼女は、

「まー、でもね、そんなのどうでもいいくらい今私は凄く幸せ」

そう言って、さっきよりももっと顔をしわくちゃにして笑うのだった。


それを見て俺は望んだ。

この女とずっとこうして永遠にゆっくり歩き続けていけたらなと。

ずっと、親友がいて、瑠璃子がいて、満たされたこの日々を過ごしていたい。

そう、望んだのだ。

だから、ダメなのだ。絶対何かが欠けては、いけないのだと。

そういうものだと信じていたのである。

偽物の幸せであるとも気付かずに。

翌日13:22




「骨抜きにしたったわ」

ランチタイム、手作り弁当の卵焼きを口に頬張りながら俺はリーゼントに言う。

「へぇ?どんな風に?」

「瑠璃子は俺といるのが幸せらしいぜ」


それを骨抜きというのかは知らないが。

「へー」気の抜けた声でリーゼントは応える。

「そーいや、昨日はかなり毒舌だったな」

そう俺は呟く。

「ん?毒舌?」

聞き返すリーゼント。

「あぁ、デートで会う瑠璃子はかなり優しいパティーンと毒舌なパティーンがあるんだ」


「そんな性格って周期的に変わるものなのか?」

呆れたようにリーゼントは肩を落とした。


「まあガクの彼女だししょうがねぇだろ。」

そうマッドサイエンティストが回りくどく俺を小馬鹿にする。


「うるせーな」


「は、は」

リーゼントは少し苦笑いをする。

「てかー、俺とガク声変わり全然しないよな」

「めちゃくちゃ話とんだな」

俺のツッコミに反応せずリーゼントは教室を見渡す。

たしかに周りで弁当を食ってる男らはもう皆んな声変わりしてダンディーでいい声になっていた。

リーゼント以外の5人組も声変わりしていた。

「今度は俺が話飛ばすね」

さほどその話題に興味のなかった俺は新たな話を切り出す。


「おいリーゼント。お前の名前なんだ?」


「なんだよ急に」

教室をキョロキョロと見渡していたリーゼントだが顔だけを俺の方に向けた。

「そういや知らんなと思って」


「はは、面白ー」

いつの間にやら現れた金髪が嬉しそうに名前を覚えてもらってなかったリーゼントを嘲笑う。


「人の名前なかなか覚えないもんね」

必死に取り繕うリーゼント。

だが彼の言う通りだ。

俺が知ってる名前なんて、母と父、彼女ぐらいだ。

何でそれしか覚えられないのか、それは人そのものに興味がないからだ。


「俺の名前ねー、」そう呟いてオカズの肉団子をツンツンした後、リーゼントは言った。

「瑠璃子って呼べよ」


「え、、、、」


リーゼントは俯いてたしかにそう言った。

唖然とする俺。

「俺は、俺は、お前にとっての瑠璃子になりたい」


「ふぇ?」


小さく、小さく言葉を紡ぐリーゼント。

だがよく聞き取れない俺の頭の中では彼が瑠璃子と自分を呼ぶように言った事だけがグルグル回っている。

言い終え、

俯いたまま動かないリーゼント。意味がわからない。何なんだコイツと思っていると、


「いいや、やっぱ好きなように呼んで」


「え、あ、そう?」


リーゼントは誤魔化すように笑顔で言う。

「え、瑠璃子って?!」

興味津々に聞く金髪。

「なんでもない」

金髪を冷たく突き放すリーゼントはなんだか当たりが強い。



リーゼントはさっき瑠璃子がどうだのと言った事をなかったことにするらしい。

何だか気になってしょうがないが、取り敢えず流しておこうと決めた。

「じゃあ、リーゼントって呼ぶわ」


「おぉ、」


結局彼の名前を聞き出す事はせず、印象から適当に取った名前で呼ぶ事にした。

実はクラス内で和貴は結構有名なあだ名を付けられているのだが、俺にはそれで呼ばれたくないらしい。俺もあのあだ名は嫌いだしね。

ともかく、リーゼント、と呼んだ時初めて"お前"以外でこの男を呼んだ気がした。


それさえともかく、力なく返事をするリーゼントは、いつもと違って俺の方を見ずにずっと床を見ていた。


なんか気味が悪かった。


「そろ、帰ろーぜ」

6限後のホームルーム(帰りの会)も終わり、教室から生徒が一目散に出ていくなか、俺はリーゼントに話しかける。

しかし、

「ご、めん」

そう言ってリーゼントは荷物を持って教室から騒々しく出ていく群衆の一つになってしまった。

「……んだよ、ったく」

「うわー最低やなあいつ」


悪態をつく俺と同調して悪口を言う金髪。

いきなり1人で帰ってくなんて彼はあまりしないのだ。

何かがあったのだろうが、俺には心当たりがない。

だがそれでも何か引っ掛かるものがあって、

「金髪君じゃあな!」

「お、おう」

金髪に早く別れを告げ、俺はリーゼントを追いかけた。

郊外の少し寂れた街。今俺が通ってる道はリーゼントと俺の帰り道だ。

俺はリーゼントの通る道をここしか知らないから、この道をただひたすら走っているのだ。


走って数分が経った時、前方に人が見えた。

髪型は後ろ姿だからよく分からないが、歩き方でリーゼントだと気づく。

後ろから脅かしてやろうと思った俺は、物音を立てない様に静かに彼に近づく。

そしてリーゼントとあと数十メートル、という時に、彼は道の横にずれた。



彼がずれた先にあるのは所謂廃墟と言われるところで、草木は生い茂り、その中に鉄鋼のアパートが建っていた。

窓ガラスは割れ、2階へつながるアルミの階段は茶色く錆びている。


いつもそこを通り過ぎる時は少し気味が悪かった。

特にリーゼントと帰る時もそこでは足を速めていて、なるべく廃墟を見ないようにしていた。

だが今平然とそこへ足を踏み入れる彼を見て、俺は異常な空気を感じる。

だから、リーゼントとコンタクトを取るために

俺も足を速めようとした、その時だった。



「トスッ!!」


俺の鼓膜に物凄い振動が走る。短く、鋭い、そして大きな音が脳内を響き渡る。

そう、それは、


銃声だった。


その意味を理解するのに刹那の時が俺の頭を支配する。

そして理解していくと同時に、

胸が締め付けられるように痛くなり、頭に熱が籠る。

緊張で握られた拳に手汗が浮かぶ。

中々動かない全身。

それでも震える足を尚、走らせ廃墟に駆け寄った。


そこには、人が1人、横たわっていた。

その周りの雑草に、緑と対照的な鮮やかな赤色がよく目立っている。


赤い液体が、1人の男の周りで存在を強調している。

ポタポタと雑草の葉から垂れるそれを見て、一気に俺の血の気が引く。


その近くに力なく横たわる彼を見て、全身の力が抜けていく。


「え、、、り、リーゼント?」


中学2年。冷たい風が吹き始め、紅葉が見頃になりつつある今日、

俺の親友は、廃墟で誰かに射殺された。


 前に出っ張った髪には土やら草やらが沢山付着している。瞳は黒く澱み、唇は乾燥して紫の色が濃くなっている。

そんな救急車に運ばれる彼を見つめる。こうしてられるのも、

あの時俺も救急車に乗せてもらえたからだ。

数分前、俺は急いで救急車を呼んだ。

廃墟の近くに公衆電話が設置されていたのは、本当に運が良かった。

その後、

がむしゃらに心臓マッサージをし、人工呼吸だってした。

やり方なんてわからなかったが、丁寧に、全神経を注いだ。

そうしてる間に、一台の救急車が到着した。

中から出てきた人が素早くリーゼントを運ぶ。

彼は大宮の栄えている所の大きな総合病院に救急搬送された。

いろんな検査を受けた後、彼は一つの病室に移され、リーゼントはその部屋のベットに仰向けになった。


1人の医師が病室に入る。

俺はすかさず医師に質問を投げかける。

「あ、医者!こいつ助かるんですか?」

一瞬俺の大声に驚いた様なリアクションを取ったがすぐに俺の質問に答えた。

「えぇと、現在の状況を説明しますと、頭に銃弾が掠れて脳に衝撃が伝っている様子です。

頭の骨にまで傷が到達しているので、、、最善を尽くしますが、助かる見込みは低いです。でも貴方が適切な対処を取ったので可能性はゼロではないです。あとは任せて下さい」


「そうですか。よろくしくお願いします!!!!!」


「はい」


声を絞り出すのがやっとだがまだ助かる可能性が少しでもある事に安堵する。


しかし余裕がなかった。全身からボタボタと汗が流れ落ちる。

そんな俺とリーゼント、医者のいる部屋に2人の女が入ってきた。

「ちょっ?!和貴っ!!大丈夫なの?」

「和ちゃん!!」



「わっ?!」

俺をおしのけ、仰向けになっているリーゼントを覗き込む2人の女。

最初は少し驚いたが、その女2人をまじまじと見る。1人は中年でオレンジ色のエプロン姿だ。

そしてもう1人は紺色のブレザーとスカートを纏い、赤いリボンを胸に付けている。

そんな彼女らを見つめていて、ある驚くべき事が発覚した。



ショートカットの髪。少し女にしては低い声。自分と同じくらいの身長。

間違ってるはずがない。

「え?瑠璃子?」



「えええ、ガクくん!?」」


瑠璃子も驚いたような表情を浮かべる。


「ああああかずきい、うわああああ」


俺と瑠璃子の変な遭遇とは関係無しに泣き叫ぶ女。存在感の大きい彼女はリーゼントのなんなのだろう。


だがそんなことはどうでも良い。

「なんで瑠璃子がここにいる?」

とりあえず気になってたことを質問する。


「あーね」

少し困った様に目を逸らす瑠璃子。

「なんだよ?」


「私ね、、この子の妹なのよ」

瑠璃子は仰向けのリーゼントの胸を触り、とんでもないことを暴露する。


「え?えぇ?!?!」

あまりに仰天したもんで、俺は尻餅をついてしまう。

更にベットの角に頭をぶつけてしまった。



「はは、お可愛い」

瑠璃子は微笑む。

「え、じゃあその女性は、、、」

そう言い俺は意識のない和貴に覆い被さり泣く女に顔を向ける。

「あ、母よ!私と和貴の!」

「和貴、、、、か、、」

今までリーゼントと呼んでいた男をまじまじと見つめた。


「改めてよろしく!和貴の妹の、槇原瑠璃子よ!」

 手を俺に差し出す瑠璃子。


クスクスと笑う瑠璃子は今まで見たどの笑顔より曇りがない様に見えた。

俺と一緒にいると向けてくれる無邪気な笑顔だ。


「あ、あぁ」

俺はぎこちなく答え、瑠璃子の手を握った。

そして意識の戻らないリーゼント、いや、和貴の手を握ってみた。

彼の手を握るのは初めてのことだった。和貴の手は少し冷たい。

それを自覚して、俺は泣いた。突然だった。瑠璃子という存在による安心から来たモノなのか、和貴が昏睡状態に陥って死ぬかもしれないと言う今の状況に自覚が芽生え始めたからなのか、分からない。

でも、瑠璃子と和貴、2人の手を握ったまま、俺は嗚咽混じりに泣き続けた。

そんな俺の手を強く握り、瑠璃子は優しく俺の身体を包み込んでくれた。

俺は和貴の方に向き直る。


彼の弱った姿を見ると、現実が押し寄せてきて、目の前が無になる。力が抜ける。

助かる希望はあるだろうか。

あの時助けられたのではないだろうか。

後ろから脅かすなどと下らない企みをしないで、すぐ和貴の隣を歩いていればよかった。

廃墟に行くのを止められた。俺ならできた。

無駄な後悔とわかっていても、この後悔を止められない。

圧倒的な負の感情が俺を襲って、それに満たされていく。

和貴が銃で撃たれて、痛い思いをした。死に至ったかは分からないが、彼がなす術もなく撃たれ、倒れる様を俺は見た。

それだけでも気が狂いそうだった。

だから、もし、和貴が死ぬのなら、もう闇から俺は抜け出せなくなる。


和貴の生を、願った。

何よりも、俺自身のために。

しかし願っても、

全く動いてくれない。しかし微かに呼吸音が聞こえる、そんな和貴を見つめた。

今まで見たことのない和貴を見て、感情は静かに破裂した。


「絶対殺してやる」


破裂した感情が具現化した涙を溢し続けながら、枯れてる声を絞り出す。

ずっと瑠璃子と共に、リーゼント…いや、和貴の手を握りながら、意識を彼が取り戻すのを待ち続けた。

そしてこの時、警察に捕まるより早く和貴を撃った犯人を見つけようと決意した。

そこに宿っていたのは禍々しい殺意と憎悪の権化だった。


瑠璃子と和貴が日常にいつまでもあって欲しいという願望は見事に打ち砕かれた。


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