傍に…

 緋月が学校を休むと連絡を受けて、私と準人は緋月の家に来ていた……のだが、

 準人は私を一人、緋月の部屋に残してそそくさと学校に戻ってしまった。


 そこで私は意を固め、緋月の看病にあたる事にした。


 緋月……すごい汗だな。

 息も荒くて、熱……そうとうに高いんだな。


 途中で買ってきた渇いたタオルを使って汗を拭っていこう。

 見える範囲で……って……うーん……服が汗ですごい濡れてる。


 あ、ベッド横のこの服、使わせてもらおう。


 ごめん、緋月……服……着替えさせるね。


 ……よ……ぃ、しょ……。

 腕を……通して……頭を……通して……。

 濡れた服をとって……一度タオルで拭いて……体を私のほうにもたれさせて……背中も拭いて……。


 そんで、新しい服を着せて、ベッドに横にさせる。

 ……よし、出来た!

 兄弟の看病の時の経験が活かせて良かった!


 濡れた服……勝手に人の家をウロウロするのもな……。

 買い物袋の中を取り出してこれを使おう。


 緋月……キレイな顔してるなぁ……。

 って何考えてんだ、私は!

 不謹慎!


「……り……お」


 ん?

 名前、呼ばれた?

 私だって気づいたのかな。

 目が覚めたとか?

 声掛けてみよう。


「緋月?」


 あ、起きてない……。

 夢?

 夢に私が出たとか……いや、そんなわけないか。

 私や準人達といる時間が多いから、きっと皆の夢を見ているんだな。


 あ、なんかうなされ始めた……。

 なんか嫌な夢を見てるのかな。


 頭撫でたら、少しはマシになるかな?

 やってみよう……。


 あ……緋月の髪サラサラだ。


「う……ん?」


「緋月?

起きた?」


 緋月、ちょっとだけ目を開けた……。


「はや……と……?」


 あれ?

 あ、そうか。

 さっき、入り口で私……準人の後ろに隠れてしまったんだっけ。

 だから緋月は準人としか会ってない事になってて……あとは熱のせいで寝ぼけて……るのかな。


 うーん……私と知ったらビックリするかな……。


「……さっき……理央の……夢見てた気がする……」


 うん?

 緋月が語り出した……。

 あれ……また目は閉じてる。


「あいつ……変わったやつだな……。

準人から……事前に聞いて……いたけど……。


女で……男装していて……いいやつって……。

実際会ったら……ほんとだった……。


俺が知ってる……たちとは……ちが……過ぎて……こま……る……。


……かわ……い」


 あ、緋月……また寝た。


 っていうか……今の何?!

 あ、準人だと思って話してくれたのか。

 それにしてもだよ!

 ビックリしたのは私の方なんだけど?!


 準人ってば、私の事緋月にどんな風に話していたのよ~。

 しかも、「かわい」って何?!

 可愛いって言いたかったの?!


 いやいやいや、落ち着け、私。

 だって、緋月の前ではいつも男装なんだよ?!

 男装に可愛いって言う人いないでしょ!!


 でもそしたら「かわい」の言葉は?


 うーん……でも……聞くのが怖いものがある。

 はぁ……。


 緋月……どういう意味?

 起きたら……聞かせてくれたり……しないよね……。


 なんか……緋月の寝顔を見てると……眠く……なって……き……――


 私はそのまま緋月のベッドに突っ伏して寝てしまったんだ。

 あれからどのくらい時間が経ったんだろう。


 頭を撫でる心地よさに意識が次第に現実に呼び戻される感覚。


「ん……んー?」


「理央……起きたか?」


「緋月?

……はっ……私、寝てた!

ごめん、お見舞いで来たはずなのに」


「うん。

準人から連絡来てた。

『人の看病してると、寝てしまう理央をよろしく』って」


「わー……ごめん」


「いいよ。

熱……だいぶ下がったみたいだ。


理央がいろいろしてくれたんだろう?


ありがとう……」


 わー……笑顔だ……しかも優しい笑顔。

 あぁ……好きだなぁ……。


 少しは状態が落ち着いてよかった。


「緋月の状態も落ち着いたみたいだから、私は帰るよ。

私がいたらゆっくり休めないだろうし」


 さすがに私が居続けるのは緋月が休めないと思った。


 だから帰ろうと背を向けたんだ。


 なのに……腕を掴まれて、はばまれてしまった。


「……理央……そのまま……」


「ん?」


 何?

 緋月……俯いているから全部は表情見えないけど……ちょっと……顔赤い?

 あ、でも、風邪のせいか。


「どしたの?」


「……そのまま……そばに、いて欲しい……。


理央になら……話せる。

というか……話したい。


でも……今は、待って……」


「うん……わかった」


 そばにいて欲しいって言ってくれた……。

 風邪のせいで心細い……とかかな。

 それに、私に何か話したい事があるって事?


 緋月の事、わかったようでわからない……けど……。

 今頼られているのは素直に嬉しい。


「そういえば……」


「うん?」


「服……理央が着替えさせてくれたんだよな」


「うん……。

僭越せんえつながら……」


「……その時……抱きしめたり……したか?」


「え……」


 あー……そういえば、あの時は必死だったから意識していなかったけど、私にもたれさせて背中拭いたりしたっけ。


 ……って事は、抱きしめた事に……なるのかな。

 うわー……私ってば大胆。


「えと……結果的に……そうなる……かな。


イヤだった?」


「……イヤじゃ……ない……」


「よかった」


 あれ、でも何で聞いたんだろう。


「何か……気になる事あった?」


「あー……そういう訳でも……ないんだけど……」


「……気になる……」


「え……」


「なんか……すごく言いにくそうにしているけど、それがよけいに気になる」


「……」


「緋月?」


 私はちょっとだけ緋月に意地悪をしてみたくなって、頬を軽く両手で包んで視線を合わせてみた。


 で、葵ちゃんが言っていた追い打ち笑顔を緋月にも試してみた。


「教えてくれないの?」


「……」


 あ、緋月の顔……さらに赤くなった。

 この表情は……初めてだ。

 しかも、両手に頬の熱が伝わっていて、先ほどよりも熱さが増している。


「……いい匂いがした」


「え……」


 視線をらしながらだけど、緋月は応えてくれた。


 でも、今度は緋月の言葉に私が頬を赤くする番だった。

 それと同時に緋月の頬から手を離して俯いてしまった。


「……ふっ……。

理央の顔……真っ赤……」


「緋月も真っ赤だよ」


「俺は風邪のせい」


「あ、ズルい。

じゃぁ、私はその風邪が移った」


「それは困る……。

俺のせいで理央が風邪ひくのはイヤだ」


「……ウソ。

大丈夫だよ。


私は風邪をひいたりしないよ。

任せて」


 私は緋月に安心してもらいたくて、笑顔で伝えた。

 とうの緋月はというと、そっぽを向いたんだけど、今のは拒絶の方じゃないってちょっとだけわかった。


 だって…緋月の顔…治まり始めていた赤みがまた出ているから。

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