18ホタルイエロー

話し合うがオチどころの見えない話に、見えてきた景色────


ミドリの光を浴びてやって来た。

黒い盤面の先の、夕日沈みゆく野の真ん中に立ち。


場違いな白衣を纏う金髪のオンナは呆然としている。


「…………ここはなんだ……?」


「とにかく申し訳ないんだけどさ、ギンガないんだ」


それでは説明になっておらず、だがまだ呆然を抜け切れていない女は辺りをゆっくり見まわしながらやがて男の顔を見た。


「ない……ここはキミの明晰夢めいせきむのゲンカンか?」


「ん? なんの玄関って? いやぁぁここは俺の玄関っていうかさ、……ハッピーな世界?」


「……ハッピーな世界だと?」


まだわからない、わからずにいる女は長い金髪をぐしゃぐしゃとゆっくりかきながら足元を見て地を踏んだり何かを確かめてみる。


「あっ、ハピすけいたじゃん! いぇーい」


そんな時に、元気な青がこの世界にやってきた充瞳を見つけた。

ダッシュし近付いてきたその生物に、


「な、な、なんだこの……なんだこの……」


驚き女は何も言えない。


「なにこのマッキッキ髪のひとー! うわぁすらっとすっごーいぴかーんキマイラみたーい」


遠慮を知らないスライム娘に好き勝手に髪や白衣を撫でられていく棒立ちの金髪女。

押し寄せてくる夢のような情報の処理に困っているようだ。


「ハハハハ、ようこそォォハッピースライムヤードへ!」


「ようこそマッキー! すらっとハッピースライムヤード!」


「これは……これは……これは……」


もはや意識を保ち棒立ちするのが精いっぱい、がくっと────アレコレをいっぺんに思考した金髪の研究者は立っていられず体のバランス崩していった。





水筒に汲み上げてもらった湖の水を、女は飲む。



▽東の森の湖のほとり▽



近場のここまで支えられ運ばれてきた金髪白衣の女は目覚め、冷たく喉を潤し。



つめたくておいしい……これほどの明晰夢を……夢じゃない……?



「おーい調子は大丈夫ですかー所長?」

「だいじょぶマッキー? ハッピーたりたぁ? もっとのむのむぅ?」


「……うむ。あぁすまない……考えすぎるとたまにこう思考回路がショートして自動的に寝てしまうんだ」


近寄ってきた2人に木陰で休む金髪は立ち上がり、そう言った。


「あははおもしろい体質してますね、ん、俺も学校じゃよくあるかも?」


「あー! わたすもわたすもー。木の上でタコイカよんでるとねちゃうのー」


はしゃぐスライム娘と灰色シャツの男子のコンビを見つめ、研究者明智明深あけちあけみは息を吐きすこし心持ち落ち着いていった。


「ばぴっ!?」


突然驚き反応した、スライム王女の頭頂上に、青いビックリマークがとび浮かんだ。


「テキシューハピすけテッキシューーーーー」

「近いよテキシューー!!!」


敵襲、王女が感じ取ったテキシューの気配。

いつもは充瞳の住む現世で響くあのアラートが目の前から耳奥まで響き突き抜ける。


「ぬお!? まっじかよ!!!」


「すすすらっとマジダヨー!!!」


「てきしゅう……?」


何のことか分からない明智明深所長をおいて、突然に慌ただしくなった2人はパパっと次の行動に移った。


「幸いにもキマイラはここだ、よしっ王女さんソッコーで出撃だ、眼帯ムとポチャイムをいつも通り城の防衛にあててっと、あーえと。所長こっちだ! 一緒に来てくれた方が安全だな!(毎度アナ開く王城より)」


「お、おい!!? あぁ、ちょと待てひっぱ────────」


青年は白衣の手をぐいと引き、湖に隠したすぐそこのキマイラの元へと向かった。





急遽乗り込んだキマイラで湖を裂き大きなカプセルドックから出撃、安全確保のために頭部コックピットグリッドの中に病み上がりの金髪所長を入れた。


マリオネットシステムでパイロットの動きと意思を模倣アシストし、キマイラはいつものように充瞳が主導し動く。


「よーーーーし……って!!! もうきてるーーーめんたまーー!!!」


赤いビームの連射が、森の目隠しが意味せず突っ立つキマイラを襲った。


宙を飛ぶ黒いビッグアイ、X字に伸ばした黒い4の触手の丸い先端に帯電するようにエネルギーを溜めて出力ビームを連射。


キマイラは中距離斜め上から放たれたいきなりの乱射に腕のガードを固め対応した。



「電磁スライムウィップできたよ~~」


「おーよしよしっ、さっそくの激しいシーンだがッ逆にチャンスだ不意打ちでとっ捕まえて全力ラッシュでいくぞ!」


作戦通りに右腕から不意に青い鞭を伸ばした。

テンションを上げ連射をやめなかった敵に対しての有効な射程距離と速さ意外性のある不意打ち。

鞭はグルグルと黒い巨大球体の触手に巻き付いて捕らえることに成功。

プラン通りにぐいっと引き寄せて左の重いパンチをお見舞いしようとしたが、


「ぬお!」

「あれれぇ?」


これに目玉モンスターは巻き付かれた部分の触手を本体から切り離して対応、


そしてずる賢くもキマイラから距離を取り逃げようとする、これに対して充瞳も即プランを切り替えた。

そのまま鞭を制御し直し、打つ、打つ、鞭打つ、跳躍し打つ、そう簡単に逃がしはしない連打。


宙に浮く黒玉は、青鞭の巧みな猛攻を浴び────7度浴びせられなんとか体勢を立て直し地を真っ二つに打つ8度目を避け逃げおおせた。


「よしナイスシンクロ判断だ王女さんッ、よしこの調子であの未確認目玉野郎を追い込んでくぞ!」


「ハーーイ! 次もむちむちしばくしばくー」


激しいたたかいを、ただ彼の後ろから眺めていた。

白衣のポッケに手を入れ、おもむろに口を開き、先に進むために確認すべく見たままのことを言った。


「これは……これはロボット? ……あれは悪夢?」


「そうロボット! あれは! ……メンテマ! だってさァ見た目通りなこって!」



ETメンテマ:

ETはイーターの略。

目がデカい目がいい。

ビームを打つ。触手が生えてる。

浮遊している。そこそこ俊敏。







その後幾度か巨大な1機1体が交じり合い────────


鞭を避ける、複雑な軌道を描いた鞭を宙で、ETメンテマは生やした触手で空の壁でも蹴るかの如く俊敏にステップし避ける。

そして赤いレーザーを垂れ流しながらキマイラの【ぐるっとウィップシルド】の防御行動を誘い──移動したキマイラの側面から巨拳を生やした体で殴りつけた。


ぐるぐる巻いて束ねた青いシールドを掻いくぐりボディーにそこそこ重い殴打を貰ってしまった。また黒い怪獣メンテマは飛び去っていき、反撃の鞭の当たらない彼方へと逃げていく。


「んぐっ────くっそなんだこいつ……未来でも見えてんのか、ハチドリみたいに当たらねぇ!」


「ンーーーーー! ハピスケぇしっかりメンタマしっかりいいい!」


「わかってっけど凝らしてっけど一筋縄、の鞭一辺倒じゃ早々簡単じゃないぞ……このメンタマ!」


「すまない言われた通りに左腕へと移ったが……私はキミたちのように上手くやれそうもない……」


通信ビジョンを飛ばし合うキマイラのパイロットたち。

申し訳なさそうな顔をしている青い瞳の金髪が映っていた。


このままでは形勢は不利だと悟り無茶を承知で充瞳が頼み込み、キマイラの左腕部へと所長、明智明深に乗り込んでもらったのであった。

彼女も嫌とも言わず青年の判断に従ったが、上手くホノウを使いこなせず。

ヒカリが点滅するだけの黒い腕では彼らの役に立ちそうもなかった。



「気にすんなって所長、キマイラは合体機獣だからっ、何かあっても全部頭担当の俺の責任だぜ! ただでさえ無茶言っちゃてんだからな! てか安心してくれまだまだあのメンタマ野郎をぶん殴るためのプランはあるんだぜ? ははは」

「そうだよマッキー! わたすもはっぴーたりてないセキニン!」


もちろん明深に責任などない。謝る必要もなかった。

充瞳とスライム王女は、言葉にしてそのことを彼女のいる左腕のコックピットグリッドへと伝えた。


「合体機獣……せきにん…………、うむ。──あぁ、だがこの目で見て思考観察はできる。キマイラのスペックと私のホノウとやらの事はすこし把握した、その目玉をぶん殴る方法を私にも考えさせてくれ、アレを倒せばこの夢幻世界は救われるんだろ?」


「あぁ! その通りだ所長! 救おうぜ!」

「うんうむ! スクおーーーーう!」


暗雲が晴れたように、一致団結。

キマイラに乗る運命を共にする3人はこの世界を救うために、あの黒目玉をぶん殴るために頷き合い迫りくる戦いに挑む。







日は暮れて夜の色に染まりゆくステージ。

依然1機1体のたたかいはつづくも、

カプス電磁装甲値はじりじりとヒット&アウェイ戦法で減らされ残り5割、キマイラの攻撃はなかなかETメンテマを捉えきれなかったが新たな情報を集めることができるのは敵も味方も怪獣も人間も同じこと。


「────────というわけで、アレは見た目通りに冴えた視覚と見て覚えたこのキマイラの行動パターンの記憶に頼った動きが多い。そして光を嫌がっているように見える、何度かチカチカと光らせたときに攻撃に対する反応が遅れた場面が見て取れた。それとあの赤いビームを撃つとあちらも消耗しているようにも見える、その証拠に機動力を活かし触手を可変させての物理攻撃も仕掛ける頻度が上がったな?」


「たしかに目が発達してりゃその分そこに頼りがちで弱点だよな? それであのメンタマは俺と王女の攻撃パターンを超学習していったってわけか。最初の鞭が上手く当たったのはやっぱり読めなかったからかぁ」


「うむ。だからこそ、もうキミもふふ分かっているだろうが……この発光生物を模したソレに乗る私を電量MAXで使えば……ぶん殴れる可能性は高まる、とな」


「はははは、なるほどな勝利の光景が見えてきたぜ。わかったそれで行こうぜマッキー所長!!! まぁ最初から知ってて泳がせてたんだけどなぁはははソコナシの充瞳さんは!」


「はっぴりわかったよ作戦はピカピカだねっマッキー」


「うむ。あぁ!!! マッキーじゃないが……!」


まとめあげ作戦は決まった。3人、意は同じ。

作戦内容に納得し、またもや戻って仕掛けてきたETメンテマを迎え撃つ。


攻撃方法は至ってシンプルに、電磁スライムウィップいっぺんとう。

もう慣れたとも言わんばかりに黒い目玉は空中をステップしながらしつこいだけの青鞭の網をかいくぐっていく。

そしてお決まりの有効手、赤いレーザーの牽制射撃────


からの、赤いレーザーの雨を受けさせた青いスライムシールドのない黒い左手へと素早く回り込み巨拳形成ぶん殴るのは────


3人の意思は合わさるここぞのここぞ、作戦通りに誘い込んだのは。



「「「火垂ほたる!!!」」」


左腕、その握る拳は、スイッチを入れ、出力する電量MAX。


黄緑の火はパーっとひらき暗がりに煌煌と光って、ETメンテマはその巨眼モノアイをたまらずしぼり閉じ悶えた。


いつも通りに近寄らせ、とてつもない光量を浴びせる目潰し。鞭打つ荒くれものからの思いもよらぬ変化、それがこの作戦の肝であった。


「キタゾ特大ちゃぁぁんす!」

「あぁ夢に見たのはこのシチュエーション!」

「やったるうううう!」


夢に見たこの機会を逃す戦士はいない。



「「「ソコナシローリンスライムパンチ!!!」」」



可変する青い右腕をグルグルとネジ巻くように捻り──繰り出したストレートパンチ。

黒い球体へと、めり込み、捻じれさせ、決まったアッパー気味のイチゲキ。


電量MAXすべてを込めた作戦は宙で青く痺れ黒々と爆発した。



「うおおおおやっちまったああああ、やっちまったぜ勝っちまったぜ王女さんっ! マッキー所長!」


「やったあああハピスケ、マッキー!!! あははははすらっとせんげんどおりにぶっ飛ばしたああああはっぴーーー!!!」


「あぁ……やったな……やったなっやったなああああああ! これは……これはっ!」


熱気のこもったコックピットグリッド、通信ビジョンはおおはしゃぎ。

3人の立てた作戦は成功。

見事にETメンテマを誘い出し宣言通りにぶっ飛ばし、空の彼方へと温めていたキマイラの拳でスカっと粉砕。



これがあの日、少女の失われた夢物語のつづき……つづき……。

大人になった私がしがみつき夢抱き望んでいたのはそれ以上の、

目玉をぶん殴り味わうこの興奮は……たまに見る明晰夢にしてはリアリティがありすぎる。

私の胸の鼓動はそう言いたげだけど。

このかべの向こうには何があるのだろう? 私は見つけたのかもしれない……あらたな


夢を



キラキラと青いホシが散り稲穂のように垂れ下がり夜空を流れていく。


光り熱されたホタルイエロー、お疲れのブルー、両手を組み合わせ高くそびえる赤い瞳はながれるそれを見つめた。

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