5……ハッピースライムヤード?

「なんか背の高いフルーツサンドさんに見送られた気がするがよーし」


「くさっぱら? ──どうなってるのここ?」


その少し驚きを含ませる平坦声のありか…………学生はそっと左後ろを振り返る。



「…………委員長だよな……?」


「うん」


またもどこかで味わったその短い平坦声のちの沈黙に、


凛と佇む臙脂色の長身女子、手をつけていない完璧三角を成すフルーツサンド皿を正しく両手前に持ち。


そんな野に立ち、説明のない放課後のピクニックに来たらしい彼女の普段見せないシーンをしばらく男子学生は凝視したが、目的を思い出し次第慌てた口調で伝えるべき簡潔な言葉を捻り出した。


「えっとえーーーーっとそうだ! ここはハッピースライムヤードだ!」


「……ここがハッピースライムヤード?」


「あぁ完璧にスライムハッピーヤードだろッこの草っ原とドハッピーな綺麗な夕暮れは! とりあえずッ! おそらくッ! 喋ってる時間がねぇ委員長あっちにみえる青い王城まで走って逃げてくれええええ」


長身女子を一歩後ずさりさせる程のMAX音量でそう言い残して、臙脂色の男子の背は東の森へと走り去って行った。


「……」


言い伝えられた女子はなんとなく皿から手に取ったフルーツサンドをゆっくりと──


「──あのっまじ逃げてよ! ハッピースライムヤードのテキシューじゃフルーツサンドは優雅に食いながら走れええええよろしくッ!!!」


「うん分かった青い王城ね、きっと気を付けて副委員長充瞳」


「さすがB組の委員長ヌマズさんキッチリともの分かりが早くてたすかァァァる! うおおおお」


突っ立っていたので念のためもう一度要件を彼女に伝えたB組副委員長は再度走る!



「────ハッピースライムヤード……」



臙脂は同じ臙脂の背を見送り、言われたようにフルーツサンド片手にちいさく食し彼にこれ以上の迷惑をかけぬようどこかへと走り去っていった。





この世界で唯一覚えたルート、東の森の湖のほとりへと向かう道中、予想通りにスライム王女操る巨大キマイラとばったり合流した充瞳。

なぜかここではその王女アラートはならないため、自力で見つけるしか無かったが運も良く。


『ハピスケテキシューもってきたよーー』


「おおおおナイス王女おおおおって馬鹿鼠に追われてるじゃねぇか!!!」


「だからテキシュー!」


「──だったら右腕だ反転奇襲して追う敵を討ゥゥゥつ!!!」


「──すすすすすらっと【電磁スライムウィップ】」


「はやいぜ元気印、ぅおおおおおお」


赤い光となり光速で搭乗。王女の代わりに主な操作系統を司るキマイラのアタマとなり、誰かを真似した青猿から赤顔の金毛へと変化していった。


そして針を乱射しながらキマイラの背を蜂の巣にし、機嫌良く追ってきていた紫の棘団子に──

青い右腕から振り返りながらのノールックで放つ電磁スライムウィップの横鞭がピシャリと決まった。

突然の横鞭に針アーマーを砕かれ悶えた針鼠はその丸々としたアタック形態を保てず野にすってんどすんと寝転がり──背筋を使い手を着かず起き上がる頃にはその巨大な翳りが見えていた。


ギラリと光る恐ろしい猿顔のバケモノは左腕を目一杯引き──

汚い色合いの鼠の鼻先を押し潰す高出力雷撃左ストレートが決まった。


野を滑っていく鼠花火はダメージ限界を迎えて花々しく長い一瞬のムラサキに散る。


頭部パイロットをデキルヤツにすげ替え補佐のスライム王女を右腕にスライドさせた電光石火の反転奇襲は成功し、キマイラはそのいつもの2人分最大効率の実力を発揮した。


「ヨーシ! ってしまったァァァ次に寄る鼠は飛び道具にしてプテラノドンなら頑丈なキマイラを狙わせろ接近の鞭ならギリ届く王城に近づきそうな見えている敵から行くぞおおおお」


「すらっとおおおお!」


次の針鼠は捕縛しプテラノドンを脅かすためのハリネズミハンマーに利用し、おそらく来るであろうプテラノドンの編隊を目立ち引き付け殲滅するフェイズへと移った。


「うおおおお鼠こっちだァァァ」


「ハピスケ慌てなくてもお城もママもつよいもつよおおお」


「お城とスライムが謎に頑丈でも女王より偉いのが来てりゃ副委員長がヤルんだよおおお青い王城が万全の安全じゃなきゃ俺がハッピーじゃなぁい!」


「フクインチョ? なにそれなにそれすらっとえらいの?」


「エラぁぁぁぁぁぁイッ!!!」



異様複雑にテンションの高い副委員長が操る巨大な合体機獣キマイラはいつもより慌て張り切り──幸か不運か+1増えた大事なモノを守るべく濃厚なオレンジが射すハッピースライムヤードの野を疾走していく。



いつも以上に大幅の巨脚が野を急ぎ追いついたハリネズミを捕縛しやって来た手頃なプテラノドンの編隊を刺々しい大玉を用い──ボロボロになった現地調達の武装ハリネズミハンマーをいい具合に投げ捨てて撃墜。作戦は思考する学生パイロットのプラン通りに上手くいっていた、だが。



現在2人が置かれている戦闘状況は──ハリネズミ3体VSキマイラ。


紫緑赤の兄弟刺々しいクールな衣装被りナシの鼠の小隊は息を合わせて巨人に対して斉射、


器用に鞭を操り弾くも────全てを防ぐには困難な横殴りのカラフル針の豪雨が移動するキマイラの装甲へと刺さっていく。


「そりゃ底無高校1年副委員長の充瞳さん操るキマイラが相手だ物量兄弟プレイもありかよっと」


うねる蛇鞭は敷かれた陣形の中で1匹浮いていた緑を見事にその拡散する網に捕らえた──が、赤が既にそのタイミングを予期。不意にローリングし疾走する赤玉は緑を捕縛するため伸び繋がった強靭な青い線を目指し強引に突っ切り切った。


「ハッピーィィィィぐぐぐぬ──ァァあああああブチギラれたああああ」


「くっそおお敵性針鼠の熱い連携とか正義の陣営が認められっかァァァ」



わめきつつも巨脚の機動ステップを止めず針鼠の小隊とお互いの隙を探り合いながらやり合っている間にも、


“ピポポポピーーーーン”と並々ならぬアラートがコックピットグリッドへと響き渡る。

更なる増援をキャッチ───送られてきた緑のマップヴィジョンに点々と集まり見えるのはプテラノドンの大編隊だ、こちらへと向かってきてもうその方角にミエているのが分かる。


クリアすべき宿題が急に増えてしまい──次第驚きは焦燥となりキマイラの搭乗者たちにビリビリと耳感覚を通り凝らす瞳に何度も敵の情報をおぼえ伝っていった。



「余計なチワワをおおおおってカプセルドックからなんでだ!? ってどうでもいいわそうならそうなんだろうに! これが夢じゃないってんならいくらなんでも鳥も敵勢も多すぎだろ!!!」


「どすんのどすんのハピスケやばハッピー?」


「とりあえず超速でハリネズミ対策だ一体どうにか潰してええええ残りはお縄──」


その時紅い瞳の先のオレンジ視界端に見据えたプテラノドンに──青い閃光が刺さりゆく。



青く太く出力。トリの飛膜3枚を抜き、慌てて散っていく編隊────鳥影が3体堕ちていくのが分かる。



スライムたちが自力でやってくれたのか? そんな思い当たらない奇跡を独り臙脂色の学生が深々と考え込もうとしたとき。


『──学習帳どおり当たったみたい』


「……ん、んええええ!!! なんでヌマズさん委員長が通信ヴィジョンにうつ……!?」


『タコイカにもう1人がこうしたら助かるってキミ書いてたから、チワワ』


キマイラに送られた台形に切り取られた青い通信ヴィジョンには、クールな黒瞳の黒髪ロングが凛と映る。その同じ臙脂色のブレザーの上半身。口元のクリームがすこし気になったが……今はそんな事ではないと充瞳は一瞬にて理解。


話す内容と状況から思わぬあの3枚抜きの青い援護射撃の正体を。


「な、なァァァる!!! はははははチワワァァァ!!!」


『どうするの副委員長』


未だに生クリームの白が可愛いらしく映えるがそれどころではない、充瞳は意味のない驚き顔をもうやめて彼女の問いに対しその表情をキリッと熱く呼応させた。


「あぁ? えっとなぁ! 俺のキマイラが針鼠を受け持つからとにかく弾切れまでじっくり狙って撃ち落とせ! トブ化石はハリネズミより頭が悪いぜ! 続けろビギナーズラック3枚抜きのその調子だァァァ」


『……わかったわ。ん……たしか感覚とチワワビッグアイスコープのトリガーシミュレーションの高命中力表記にしたがう感覚と合致したら────デキタさんまい』


東の森から伸びる青線はデカい飛膜を狙いタコイカ学習帳に書き記されたチワワスナイパー狙撃マニュアルに従い確実にサンマイに撃ち落とす。


ミラクル焼き付くその光景に、ヒトもスライムも気を限界に昂らせていき、


「はははははどんな分野もきっちりガリガリと内容以上のお勉強だぜタコイカ学習帳!!! しゃァァァ初共闘といこうぜチワワァァァ」


「えええハツキョートーはわたすもだよハピスケっ!!!」


「ぬあ!? そっだった! ははははギンガハッピース!」


「あはははギンガハッピース!」


『……この場面、ギンガハッピース』


3人の通信ヴィジョンごしにつづいて見せるクールなギンガハッピース、あざとい生クリームを少々添えて。



「「ソコナシギンガハッピース!!!」」



『……なにそれ?』



ピースピースと更に呼応するソコナシギンガハッピース、フルーツサンドを分かち合う運命重なりついに始動するユニット2体、パイロット3人での初共闘。


思わぬ心強い味方にテンションをブチ上げた充瞳は、対峙する針鼠小隊の放った2度目のカラフル針の斉射を青い五芒星を鞭の筆で描きながら不可能な【ゼンハジキ】副委員長兼この場のリーダーとして離れ業を魅せる。



「────ソコナシにイクゼ!!!」



その瞳は熱く染まりゆく、夕暮れより真っ赤に燃やして────。

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