4ソコナシギンガハッピースゥゥゥ! と放課後

隠れ潜む壊れかけのチワワが共有し知らせてくれた。

耳の聴音機でかき集めたリアルタイムデータが指し示すマップヴィジョンを参考に、敵を滅していったキマイラであったが……

リーダーのつもりである充瞳は余裕も出てきたのか、敵との交戦ついでにキマイラの性能実験も兼ねてしまいちょっとした判断ミスを犯してしまった。


「あらぁ? ねぇねぇハピスケ左腕鞭無理ムリムチぃい」


「なんでだァァァったぁ! すまん俺の要らん好奇心からのミスだ右に戻れ右ィィィィ」


「りょかりょか! ──【電磁スライムウィップ】ゥゥゥすすすすす!!!」


ちんぷんかんぷんと少し困った顔をしていたスライム王女は役に立たないキマイラの左腕からやりなれた右腕へと移動すると、元気にいつもの調子を取り戻しその武装を生成する事に成功した。


電量を割いた電磁スライムウィップをネット状に拡散させ覆い捕らえた紫針鼠を丸めたままきつく縛り、


そのまま────


愚かにも低空で仕掛けてきたプテラノドンの雷撃はそれぐらいは受けれるキマイラの装甲で受けつつ、後方より重く釣り上げ引っ張った手痛いハリネズミハンマーを、



「「よっこらノよいしょーーーーっ」」



トリ頭の予想にない思ったよりも伸びたハリネズミハンマーがプテラノドンの下腹と翼を抉り引き裂いた。

墜落する様を見届ける間にもぶんぶんと頭上にぶん回し、遠心力を得て持ち手のスライム鞭ごとを投げ放つ。


キマイラの猿頭の紅瞳が見据える先へと見事命中。

紫針鼠の大玉は炸裂し、プテラノドンの編隊を巻き込みながらタイミング良く衝突大爆発。


3羽と1匹、計4枚抜きのムラサキ彩る誘爆花火がハッピースライムヤードの燦々な青空をモクモクと濁していく。



「我ながら熱血パワー技でやってやったが……はは」


「勝ってればソコナシギンガハッピース!」


「はははは。そうだな、勝ってればハッピーだなソコナシギンガァァハッピース!」


「すらっとギンガハッピース!」



一波一仕事を終え、もう何度目かの広大な野に立つのは────赤い猿顔、ハッピースライムな青右腕、まだ塗られていない灰色のキャンバスを持つ巨人。


ドタバタと上手くいかないこともあったが終わってみれば現在のキマイラの性能を上手く活かし見事チワワスナイパーを失わず王城に迫る敵をスベテ殲滅する事に成功。

こうしてまたもこの2人の息を合わせた大活躍でハッピースライムヤードの超平和は守られたのであった。




▼▼▼

▽▽▽




戦勝後、ハッピースライムヤードでは色々と今後に備えてしたいことが山積みであった。

重要事を手早く何件か済ませ帰還した学生充瞳は……。



▼充瞳の部屋▼



折り畳み式携帯を探しパパッと時刻を確認。


「げぇ!? 2時限目のなんかの教科には間に合う予定が、あーこれもうみんな昼飯食ってるとか無理だこっから学校に出撃すんのは非効率だ……」


「はぁ……とりあえず10分寝たらこのぬめっとしたブルースライムなメンタルに革命が起きて行きたくなるかもしれねぇッ、うん」


学校にはもう絶対遅刻であるがチワワスナイパーと王城を守り切った充瞳は今日という日の損得的には……満足気な顔で頷き──布団をかぶり体内時計で10分寝ることにした。




▼▼▼

▽▽▽




心地良い寝心地を醒ます訪問者が、ピンポーンと来た。


静かな一定間隔でもう7度は寝ぼけた頭に鳴り響いているのである。

だがそれが逆にスライム王女の突然の元気一杯なアラートより、充瞳には恐ろしいものであった。


「んだよ、こんな時間に学生狙いの勧誘か?」


溜まり固まった少し刺さる目やにをすりすりと目頭を撫でて取りのぞき捨て。


玄関ドアの穴から覗き確認はせず、外へとつながるそのドアをそそくさと近づき開けていた。



「はーい? お──だれだっけ?」


「クラス委員長の沼津」


「あー、同じB組のヌマズさんか! ほわぁ……ぁふぉ、なんかどしたァ?」


「きみ副委員長」


「え、俺ぇ? フクイイ…………そだったわ!」


「「うん」」


何故か重なった、うん、彼女は充の視線より少し上を見る。

ボサボサと鳥の巣のような失礼な黒髪頭で出てきた充瞳、の前に立つクラス委員長沼津。


艶りと伸びた癖のないストレートロングと少し見上げる程の長身の彼女のノーマルな目と、家主の目がやがて合う。


じっと動かない喋り終えたのか喋らないそんな彼女に対し、開いたドアを手で押さえながら2人の止まった時間のナカ。

家主はやがてぽっかりな口を真一文字に閉じ眉間に皺を寄せながら訝しみ……次の行動をまだ冴えない寝ぼけアタマで熟考していく。


彼女を彩る切り取られた背景である外はいつの間にやらオレンジ夕暮れ時放課後、何羽のカラスの鳴く静寂に佇む同じ臙脂色ブレザー、同じクラスの1年女子生徒の突然の訪問は──最近見慣れた青いスライムたちより新鮮なことであった。







とりあえず話はナカでということでヌマズさんを部屋へと連れてきた。


念のため中央の石盤には白い布を被せておいたから洒落たサボテン置きの台にでも見えていることだろう。


ナカへと促されカーペットの上にちょこんと正座したクラス委員長の沼津に家主はハッと気付きそういえばあった使う機会のなかった来客用の座布団を手渡した。


そんな対照的に家主がまだうろちょろと落ち着かないでいるところに──


「ところで気になる。何故学校に来てないのにキミ制服」


「──んえ? ……まじだ!? そういや学校に出撃しようとしてそんまま寝たんだったわ!」


「学校に出撃? ア、鳥の巣」


「とりのす? えっどこプテラノドンの編隊!?」


「プテラノドンのヘンタイ……じゃなくてノドのウエのアタマがヘン」


凛と正座する沼津にその細い指で指差された順に喉から上を押さえて確認。

やがてぼさぼさと撫で触る黒髪の違和感。


「────まじだわ、はははははははは」




▼▼▼

▽▽▽




爆発していたプテラノドンの巣を洗面所でなるたけ直した充瞳は部屋へと────フルーツサンドの皿片手に小走りに戻ってきていた。


が、家主は気付いてはいないが既に暇を持て余していた沼津に何かを探られていたようだ。

床に無造作に置かれていた薄いノートの表紙をみてひとこと。


「これなに」


「タコイカ学習帳だな」


「じゃなくて1ページ目にハッピースライムヤード攻略本って書いてる」


「あぁ勝手に見たのかよ? ははは」


「ごめんなさい雑に置いてたから待っている間に気になった」


「そっか雑なのは俺のミスだなはははは謝らなくていいけど、てか、てかサァそんな細かな事より本題なんだけどなんの……学校の? ミッションで俺ん家までわざわざ来たんだヌマズさん?」


質問をぶつけながら正座する彼女に近寄りフルーツサンドの皿をそっとどうぞと自然に手渡した。



「私委員長、キミ副委員長」


皿を片手に余った右手で──私を指差しキミを指差す。指差された彼は彼女の言っていることに少しぽかーんと未だ要領を得ず……。


「おう? それは……さっき聞いたな?」


「夏の底無武闘大会について相談、キミずっと放課後先帰るから私1人で進めるハメになってた」


つまり沼津の言いたい事はこうである。副委員長としての職務を充瞳本人は悪気があってかなかってか知らず放棄していたので彼女B組のクラス委員長である沼津は充瞳の家までわざわざ放課後の時間に訪れ充瞳の愚行を知らせこの先のイベント夏の底無武闘大会への様々な協力をすることでこれまでのマイナスポイントを挽回させてくれるのだという。


だが彼は未だ釈然とは理解できず。


「──ええええそうだったの!? ってなんだそれソコナシ舞踏会? 俺はソーラン節とあいあいの曲しか」


「その話つづけるならちょっと待って。たぶんたたかう方の武闘だと思う」


「たたかうゥゥゥ?」




▼▼▼

▽▽▽




座布団を敷き向かい合う臙脂色の生徒2人。組んだ胡座で貧乏ゆすりを速める──うーーんと顎に手をやり少し俯き加減の彼をじっと────。


「そんな武闘会が運動会の代わりってまじかよ……どこもかしこもハリネズミもプテラノドンも最近はそんなに俺に戦わせたいのかよ」


「最近……ハリネズミもプテラノドン? 知らずに底無に入ったの」


「ん? あぁ、なんでも父さん母さんの出身校らしいからさ! 俺もってことでそこまで深くは考えてねぇ! でも受かって良かったなぁははは」


「……」


「……ギンガハッピース!」


「……ギンガハッピース?」


沈黙の間にたまらず繰り出した充瞳のギンガハッピースは、沼津のオウム返しのレスポンスを貰えたが……笑ってはいけないような混沌の沈黙へと空気は染まり……。


ただただ見つめ合っていると。


沼津はこのタイミングでこの部屋にある両者の助け船であるフルーツサンドを口にゆっくりと運ぼうとした。


そのとき──


『テキシューテキシューテキシューゥゥゥ』


『ハピスケテキシューゥゥゥキマイラで急げええええわたすもおおおおすすすすすすらっと!!!』


「おわぁ!?」


「え、なに? どうしたの?」


急に座布団から漫画のように胡坐のまま飛び跳ねた彼のオーバーリアクションに、これまで至って平然顔であった彼女はびっくりやがて訝しみフルーツサンドを皿へと戻した。


「テキシューってまじかァ!? ──ちょちょちょまじすぐ戻るから適当に絶品フルーツサンドとアッチで茶でも飲んでてええええ」


ぎょろっとさせた瞳で彼女を見つめて後方左をあつく指差しダイニングの方を示し、右手で彼女の手を引き部屋を出るように促していった。


沼津は彼の理解不能の行動により一層訝しみと驚きを深めるも、そのままゆっくりな歩で従い────。



さっそく、家主は部屋中央に被せていた白い布をバッと豪快に取り払った。



「うおおお行ってきますいくぞぉ、おーーっす!!!」


「いってらっしゃい? おーす?」


「え」



膝立ちでぐっと握り示す拳に気合いを入れ、黒い石盤に向かい叫んだ彼はその聞こえてきたクールなレスポンスにおもわず振り返るが──起動発光した石盤の成すミドリの光へと2人の異なる表情は呑まれていった。

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