第2話 ハッピーィィィィ!

ヘソで天を仰いでいた暢気な野鼠にキマイラの走り放つ追撃!

強烈なサッカーボールキックが炸裂し野を削り強引に運んでいく。


「まだまだドリブルいくぜええええ」


「やったれええええい」


スライム王女の元気熱血な応援もチカラに、ニヤリ歯を見せ笑う男は戸惑う事なく巨大ロボットを操りテンションをぶち上げていく。

巨大機獣キマイラは、はしゃぐ、ハリネズミをボールにしながら。







窮鼠きゅうそ──いつまでも野を転がるサッカーボールにされた事に怒った針鼠ほど怖いものはない。

地獄のサッカーボール状態から抜け出し、丸まり逃げながら距離を取り針を垂れ流す。

紫針鼠は巨大機獣キマイラの追いつけない機動力で後退、中距離射撃を繰り返している。


「てめぇ、この重鈍そうなロボットに対して味な真似をおおおお! 畜生針が生えただけのデカ鼠の癖に脳みそ使ってんじゃねえよ!! アーくそこのデカブツレーザーとかソードとかなんか武器ねぇのか! さっきから探してもッなんだよホノウ瞳って! どなただよ! 硬くてもこんなんじゃチワワ以下って──ん?」


キマイラ:


出力□□□□□□□■■■

出力■

電量□□□□□□□■■■

電量■

クル□□□□□□□■■■

クル■


頭 充瞳 


ホノウ 瞳


キマイラの全身フォルムと詳細が映ったビジョンを確認し、冷静になったパイロットの頭は当たり前のある事に気付いた。


「そういうことかよ本日何度目のーーソコヌケに理解わかったぜ! おい王女たのむマジ腕パーツに乗ってくれ!」


「ハピっちゃうの?」


「ハピれッ! 大至急ゥゥゥ」





「命名【電磁スライムウィップ】ゥゥゥ」


「しゃァァァいけええええ」


青い鞭は天へと高々と伸びてゆき────そのまま狙い澄ました地へと青線を激しく打ち付ける。

予想外の手痛い攻撃が脳天を打ち思わず頭頂を両手で抑えたあざとい紫針鼠。


「飛び道具が無くってもそれなりのリーチがありゃこっちのもんだぁ!」


「ハピスケいったれええええ」


「だぁれがハピスケだァァァはははははハッハーーーー!!!」


更に追撃、キマイラの青い右手に操る横払いの鞭が紫針鼠の右半身を打ち付け針の生えた背ごとを砕いていく。

堪らず鞭を貰いながらも勢いで反転した背を向けて数多の針バルカンを発射、反撃に移ったソレを。


「チクチク針なんてサァ!」


紅い瞳をギラリと光らせたキマイラは素速い反応と動きで細かな針の雨をなんと器用にも避けてみせた。

更に操る青い鞭が生き物のようにうねり身に迫る針を容易く砕き落としていく。

先程とは別人のような動きで鮮やかに凌ぎ切る。


唖然とする針鼠はそのまま飛び道具をクリアし迫るデカブツの圧に慌てて、姿勢丸々となり全速力で後退していき、


「むしろそっちが針のムシロだろおおおお、ムチだけにいいいい」


「ハピスケうんうんハピっときたァァァ私にさせてさせてェェ」


ビッと腕を振るい伸ばしたヘビ鞭は丸々と逃げ始めたそれに追いつこうと──さらに電量をもらい鞭は出力をあげ勢い増し枝分かれし────


その形状は網のように、魚ではなく逃げようとした針鼠を絡め取り捕まえた。

ぎゅっと獲物を逃がさぬよう絞るように縮んでいく青い網は鼠の回転を止め悪足掻きを阻止そして──


「ナイスうううう天才スライム王女! 俺は今猛烈にハッピーィィィィイクゾ!」


「「いっせーーーーのっ」」


キマイラに乗る2人息を合わせて──引き寄せて──出力マックス左ストレート。


網を引っ張り宙に運んだお手頃な位置、キマイラが電量を惜しみなく注ぐ渾身の左ストレートを放ち巨大鼠の鼻っ柱をグシャリぐしゃりと──滅茶苦茶に圧し潰していく。


勢い、振り抜いた頃には貰ったパンチで野を駆け抜けてゆくカラフル鼠花火が踊り狂う──どんどんドパンと弾けていき──鮮やかに激しく爆発しやがて滅!



「今命名、ソコナシハッピーストレート……なんてな、ってな!!!」


「あはははソコナシハッピーすらっとれええええと!!!」



ヒット&アウェイ戦法でチョロチョロと戦いを有利に運ぶつもりであったETデスハリネズミは、2つのホノウを解放した巨大合体機獣キマイラを操る充瞳とノリを合わせてソレに協力したスライム王女により葬られた。


王城は守られこの世界ハッピースライムヤードの平和は何はともあれ見事に、意志をノセた運命と運が味方し守られたのである。


「ところでここってハッピースライムヤード?」


「あはははハッピースライムヤードォォ!!!」


「なるほど……うおおおおハッピースライムヤードォォ!!!」



キマイラの中に響き合うハッピーな通信ビジョンを介しての会話劇は、疾走する本日の大戦果カラフル爆発鼠花火を見届けてより一層の盛り上がりを見せた。




キマイラ:


出力□□□□□□□■■■

出力■■

電量□□□□□□□■■■

電量■■

クル□□□□□□□■■■

クル■■■■■■■■■■

クル■■■■■■■■■■

クル■■


頭 充瞳

右腕 スライム王女


ホノウ 瞳 ハッピースライム




結果的にはそこそこの困難を切り抜けETデスハリネズミを討ち倒した。


王城のスライムたちもそのカラフルな残滓を見届けスライムハッピーヤードを救った大きく聳え立つ本日のヒーローの活躍劇に身を乗り出し歓喜した。

赤い猿顔、青い変幻自在の右腕をもつ巨大ロボットは守り抜いた賑やかなあおいギャラリーたちに手を振り返す。


「はははははみなさん手を振りどうもー! ──王女さんこのあとってもしかしてぇどんちゃんしちゃう宴会とかある?」


「あるでしょあるでしょ特盛フルーツサンド! 紫鼠ヤっちゃってみんなハッピーだしぃ? やったれええいギンガハッピース!」



またも貰った元気で可愛いギンガハッピースの通信ビジョン、


のちに────


王女の予言通り本日の主役のふたりが招かれた王城で飲めや歌えのハッピーな宴は開催された。

本日のスーパーハッピーさんという有難い肩書きが加わり、再び鮮度を得た珍しい人間はしばらくはスライム娘たちからの質問攻めに合い、


「ねぇねぇハピスケバトってたときのソコヌケってなぁに?」


「ソコナシ? あー、あれはねぇ……。めっちゃふんばってがんばって底の無くなるおまじない」


「おおおお、おおおお! ねぇねぇママァァァソコナシめっちゃふんばってがんばるそこそこのおマジナイィィだってェェ」


それはそれは経験したことのない本当に純粋にたのしい笑顔咲かせるものであり、終始和む笑みを浮かべた充瞳は生クリームたっぷりの美味しいフルーツサンドを頬張りながら張り出しのテラスへと──ひとり勝利の夜風を浴びていた。


「んーーーー、フルーツサンドは絶品だがこれどうやって帰る? ──開けごま、開けまご、エメラルドグリーン、んーリグドルラメエ、おーっす!」




「帰れたわ」


「ソコナシだな……」



夜風に背伸び唱える呪文そのままに──暗い部屋にひとり舞い戻って来ていた。


伸びていた手を地に下ろし、ほっと一息。食べかけのフルーツサンドを見てこことあそこは続いているのだとただ笑う、……右指についた甘いクリームの現実をゆっくりと舐め取りながら。




▼▼▼

▽▽▽




暗がりに明かりは灯された。


未だトレードマークである臙脂色のブレザー、制服を着たままのこの男はちいさな学習机に向かい。

コピー用紙にカキカキと鉛筆を走らせていく。


とりあえず今日得た情報をまとめるか。そうすることで夢よりは遥かに自由と確定し俺は頭がパーになったんじゃなくまだ現実に存在していると言えるだろうしな。



「情報いちー」


①石盤にはおーっす! もしくは押忍! って言えば入れてなんらかの条件でハッピーなセカイから一瞬で出れるおそらく。敵ユニットがいなくなったらか?

宴もスライムも俺への興味が薄れてきていたところだったし今日はもう石盤くんの誤反応があったら怖いからやってない。だからこうして書いている意味もあるぜ。


「にー」


②どうやらあっちの俺にはだれかさんの能力を見れる超能力超視力があるらしい。

推測されるのはもちろん俺にあるホノウ瞳とかいう表記だ。

こっちのハッピーじゃない世界に戻って来た俺は黒い瞳だった。

ハッピーな王女が言うには俺の瞳はメチャクチャ赤かったらしい。

ちなみに充血ではない充瞳だ。


③そんで散り際にギリ、ハッと調べたあのハリネズミは

ETデスハリネズミ:

ETはイーターの略らしいなんのこっちゃ。

まぁよくある特撮ものの巨大怪獣みたいなもんだろ。

謎のプテラノドンもいたなぁ。

本日の戦果はプテラノドン3羽とハリネズミ1匹。

あれだけの気持ちいいソコナシハッピー左ストレートがキマったんだスライムたちの平和も守れてそこそこ初陣にしちゃ上々だろう?


③ハッピースライムヤード

どうも夢幻の盤面先の世界、王国? のあそこはスライムハッピーヤードらしいな。

ちなみに宴で聞いた話では青いスライムしかいないらしい。

仲が良さそうでいいね!


④ギンガ

まじ超重要よ。

開け時空とかガチャァ! とかやったけど無意味、投げましょう! 投げたらバチバチポン、ってな!

ほんと重要だあそこでキマイラがなけりゃそこそこ危なかったからなぁ、はははは!


⑤そうそうロボットについて書き記したいが……

今日はもう疲れたしまた明日

現物がないしあっちのハッピーな世界で見た方がはやいからな、あとこれ以上何か重要な情報ってあるか?

ある気もするがとりあえず心臓の鼓動とテンションがヤバい俺は今日は早めに寝た方が良いと推測される、うん。



「んーーっ…………ふぅよし、思った通りの誰もいないフツウのソコナシの現実がつづいているぜ! ふっはぁほわぁーー」




んーーっと、また椅子の上で大きく背伸び。欠伸を誘発し──し終えたら、んっと見つめるまとめたコピー用紙上の書き込んだくろい情報量に満足気な顔で────重くなっていた臙脂色のブレザーを脱ぎ捨てる。


やり切った……そんな少しは落ち着いたテンションで謎のロボットバトルBGMの口笛を吹きながら1人、底無高校1年生帰宅部、充瞳は今日という運命の日に明確に勝利を手にしルンルンと風呂場へと向かった。

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